食料・農業・農村基本法改正への提言を提出しました
NACS-Jを含む環境保護NGO、有機農業団体と消費者団体の有志によって構成された「環境と農業を考える会」(※1)は、 第213回通常国会において審議中の食料・農業・農村基本法改正案(※2)への提言を4月9日に鈴木憲和農林水産副大臣に提出しました。また、農林水産委員会の与野党の国会議員へ提言を説明しました。
提言の概要
- 「環境」を基本法の目的(第1条)に追加し、政策の柱に位置づける
- 「有機農業」を、環境負荷低減の取り組みとして明示する
- 「環境への負荷」(第3条他)の例として、気候変動、生物多様性の低下等を含むことを明示する
- 「自然循環機能」を、「生態系サービス」に修正する
- 環境直接支払など、環境保全に貢献する農業への公的支援を大幅に拡充する
- 消費者の役割(第14条)の中に「有機農産物」を追加する
- 消費者の選択を可能にする食品表示の適正化を図るためトレーサビリティを徹底する
提出した提言
食料・農業・農村基本法改正への提言(PDF/5.1MB)
「環境と農業を考える会」、「NPO法人全国有機農業推進協議会」の2団体が鈴木憲和副大臣(右から4人目)へ提言を提出
2024年3月22日
食料・農業・農村基本法改正への提言
環境と農業を考える会
当会は、食料・農業・農村基本法の改正にあたって、国民視点を重視し、環境問題の解決に向けた活動を行っている市民団体(NPO 等)、有機農業の普及活動を行う市民団体及び消費者団体の有志によって構成された団体である。持続可能な農業の実現に向け、改正案に対して以下の通り提言する。
1.「環境」を基本法の目的(第1 条)に追加し、政策の柱に位置づける
基本法の見直しは、「食料・農業・農村政策審議会(農水省所管)」の下で検討し、その結果をまとめた「答申(2023 年 9 月公開);以下、答申と呼ぶ)」において、4 つの基本理念(第 2~5 条)の修正と、基本理念に対応した食料、農業、農村、環境の4分野の主要施策が提案された一方で、法改正(案)では基本理念の上位にあたる法律の目的(第 1 条)の中で、「環境」のみが除外されたままとなった。現行の基本法は、基本理念として、自然環境の保全を含む「多面的機能の発揮」を追加したものの、具体的な施策を条文に記載せず、実施方針が明示されなかったため、その後も農業の基盤となる生物多様性が低下し、農業の持続可能性が危ぶまれている。基本法の第1条の目的に「環境」を追加し、環境保全を政策の柱として明確に位置づけ、持続可能な農業を実現する必要がある。
2.「有機農業」を、環境負荷低減の取り組みとして明示する
有機農業は、喫緊の環境問題である気候変動(地球温暖化)の緩和と生物多様性の保全に貢献することが報告されている。みどりの食料システム戦略及び関連法において、「2050 年までに全農地の(1/4 にあたる)25%を有機農地」とする目標を明記し、有機農業の推進を本法が規定する環境負荷低減の取り組みの大事な数値目標(KPI)と位置づけている。これは、現状の有機農業面積が 0.6%であることから意欲的な目標であり、持続可能な食料システムを構築するための重要な目標と位置づけた一方で、改正案に「有機農業」の記載がなく、整合性を欠いている。第 32 条「環境への負荷の低減の促進」の条文に、持続可能な農業の例として「有機農業」の推進を追記すべきである。
3. 「環境への負荷」(第3条他)の例として、気候変動、生物多様性の低下等を含むことを明示する
今回の法改正案では、食料システムの各段階において「環境への負荷」があることを認め、その負担を低減し、環境との調和を目指すことを明記したことは大きな前進である。その一方で「環境への負荷」(第 3 条ほか)の具体的な事項が定義されないまま、具体的な対策の手法のみを記載し(第 32 条等)、政策の目的・方向性を示すための基本法としての役割を果たしていない。本法において対処すべき「環境への負荷」の定義を第3条において明文化するとともに、環境負荷の具体例として、みどりの食料システム法第 3 条および答申p37 に明記された「気候変動」、「生物多様性の低下」を明記すべきである。
4.「自然循環機能」を、「生態系サービス」に修正する
答申 p37 において、「自然循環機能(土壌を形成する機能)」だけでなく、食料供給、自然景観保全など、生物多様性がもたらす多様な機能を「生態系サービス」全体として捉える国際的な議論を踏まえ、これらのサービスはトレードオフ等相互に影響しあうことや、農業が農地に限らず河川や海洋まで含めた環境にマイナスの影響を与え、持続可能性を損なう側面もあるという前提に立つ必要があると指摘した。改正(案)に記載された「自然循環機能の維持増進に配慮する(第5条他)」は、生態系サービスの中の 1 機能(自然循環機能=基盤サービス)のみを配慮し、それ以外の機能を配慮せず、軽視する条文となっており、答申の指摘を明確に否定している。答申にあわせて「自然循環機能」を「生態系サービス」に変更し、生態系サービス全体に与える悪影響を最小化する方針を明示すべきである。
5.環境直接支払など、環境保全に貢献する農業への公的支援を大幅に拡充する
有機農業や環境保全型農業は、輸入に頼る化学肥料・農薬を削減し、食料安全保障、生態系サービス、防災や健康、福祉の向上に貢献する一方で、従来の慣行農業と比べて生産性やコスト等の課題がある。農業における環境政策の先進地である EU では、農家が補助金などの支援を受ける際の条件として、自然環境保全等の行為を義務づける(クロスコンプライアンス要件の設定)とともに、より高度な環境保全活動を実施する農家に対して追加の財政支援(環境直接支払)を行い、持続可能な農業を推進している。日本の環境直接支払は、令和5 年予算時点で 26.5 億円、日本型直接支払交付金全体予算の 3.4%と少なく、クロスコンプライアンス要件を設定した補助金・事業も少なく EU のような客観的基準やチェック機能、罰則が欠如する等の課題があり、これらを大幅に改善し拡充すべきである。これらの直接支払の拡充は、農家の減少・経営の困難さの課題解決のための所得補償に加え、持続可能な農業の拡大に寄与することが期待できる。
6.消費者の役割(第14 条)の中に「有機農産物」を追加する
第 14 条に示される消費者の役割の中で、環境負荷低減に資するものとして消費者のニーズが近年高まってきている「有機農産物」という文言を入れておくべきである。また、農薬や抗生物質、ホルモン剤等人体への影響が懸念されるものの選別を消費者が行い、食によって健康増進を自ら行っていく事も消費者の役割として重要であることから「健康増進に資するもの」を 14条に入れるべきである。
7.消費者の選択を可能にする食品表示の適正化を図るためトレーサビリティを徹底する
環境負荷低減、需給事情、品質評価を適切に反映した商品を、消費者が適切に選択できるよう、第 18条の食料消費に関する施策において、ICT 技術などを駆使して生産・製造、加工、流通、販売、消費に至るフードチェーン全体のトレーサビリティを確立し、食品表示に反映する必要がある。
添付資料(一部抜粋)
※1 「環境と農業を考える会」 メンバー
※2 食料・農業・農村基本法の一部を改正する法律案
https://www.maff.go.jp/j/law/bill/213/attach/pdf/index-3.pdf
関連資料
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