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「食料・農業・農村基本法」改正への提言を提出しました

2023.03.28
要望・声明

公益財団法人 日本自然保護協会は、「食料・農業・農村基本法」改正への提言を農林水産大臣に提出しました。

【農林水産大臣宛】「食料・農業・農村基本法」改正への提言(PDF/455KB)

主な提言の内容は以下のとおりです。

  1. 法律の目的に、「自然環境の保全」を位置づけ、農地の生物多様性の保全と持続的な農業を実現させる
  2. 基本法の理念「多面的機能の発揮」の定義を見直す
  3. 「多面的機能の発揮」の施策の方針を法律に追加する
  4. 農地の生物多様性のモニタリングと評価の体制を整備する

2023年3月28日

農林水産大臣 野村 哲郎 殿

公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 亀山 章

「食料・農業・農村基本法」改正への提言

1999年に改正された食料・農業・農村基本法(以下、基本法)は、理念として、自然環境の保全を含む「多面的機能の発揮」(第3条)を追加したものの、その後も農地や農村の生物多様性の低下など、農業の持続可能性の基盤が危ぶまれています。日本の農業は、国内の食料の安定供給のためにも、生物多様性を基盤とした持続的な農業へと転換することが求められています。このような問題意識から、現在検討されている基本法の改正において、下記の事項を盛り込むことを提言します。

1.法律の目的に、「自然環境の保全」を位置づけ、農地の生物多様性の保全と持続的な農業を実現させる

現在の基本法において、生物多様性を含む「多面的機能」は、農業を継続することによって自動的に発揮されると解釈され、農業の基盤となる生物多様性の保全の位置づけが不十分となっています。そこで、基本法の目的に「自然環境の保全」を追加し、「環境保全型農業」を推進することによって、「生物多様性の保全」や「気候変動対策」等に貢献するとともに、食料や農薬・化学肥料等の海外の有限な資源への依存を段階的に削減することによって、「食料安全保障」、「日本の農業・農村の持続性の確保」を実現することが必要です。

2.基本法の理念「多面的機能の発揮」の定義を見直す

基本法第3条の「多面的機能の発揮」とは、食料供給機能以外の機能である国土保全、自然環境の保全などの機能の発揮を表し、農業が行われればプラスの機能が発揮されることのみを想定しています。しかし、実際には、化学農薬の不適切な使用や、水田の中干しによって生物への悪影響がある等、農業が自然環境にマイナスの影響を与える場合も多くあり、農業の現場ではマイナスの影響を回避するための施策が後回しとなり、農業の基盤となる生物多様性が低下してしまっている現状があります。持続的な農業へ転換するためには、基本法の理念「多面的機能の発揮」の定義を修正し、プラスの効果だけでなくマイナスの影響も認識し、その軽減を図るとともに、持続可能な開発目標(SDGs)の基本的な考え方である「相互関連性」を意識した「総合的な解決」を目指して、農業生産活動を実施することを追加すべきです。

3.「多面的機能の発揮」の施策の方針を法律に追加する

基本法の4つの理念の内、「多面的機能の発揮」を除く3つの理念はそれぞれ対応した施策が明記されているのに対して、「多面的機能の発揮」に対する施策が記載されていません。持続的な農業を実現するために、生物多様性保全や気候変動への対応など、自然環境の保全のための施策を明記すべきです。2021年公表の「みどりの食料システム戦略」において明記された「パリ協定やポスト2020生物多様性枠組への貢献を踏まえた、政策のグリーン化と、補助金の拡充、環境負荷軽減メニューの充実、これらとセットでのクロスコンプライアンス要件の充実」に該当する内容を法律の施策の中に記載し(ただし、ポスト2020生物多様性枠組は、「昆明・モントリオール生物多様性枠組」に変更)、持続的な農業を推進することが重要です。このような施策を主流化することで、国内外の市場において環境に配慮した農産物・食品の生産が消費者に選ばれる経済活動にするとともに、近年急速に拡大しつつあるESG投資を農業に呼び込むことが期待できます。

4.農地の生物多様性のモニタリングと評価の体制を整備する

農地の生物多様性の現状を把握するためのモニタリングは、十分ではありません。過去には農水省によって、全国の水田の生物多様性モニタリングとして「田んぼのいきもの調査」が実施されていたものの、現在は廃止されています。また多面的機能支払交付金では、交付金に基づき全国3,477団体(2017年度)が全国の農地で生物調査を実施しているものの、施策の評価に活用されていない等の課題があります。そこで、基本法や関連する法制度において、日本の農地の生物多様性の現状を把握するためのモニタリングと評価の体制を整備することを明記し、科学的・客観的な根拠に基づく施策を展開する必要があります。

以上


棚田の様子(大山千枚田:千葉県)

関連する意見書・活動

新たな「食料・農業・農村基本計画」への意見書:NACSJ含む5団体共同提出(2019年12月)
https://what-we-do.nacsj.or.jp/2019/12/10554/

みどりの食料システム戦略に関する法律(案)へ提言を提出(2022年2月)
https://what-we-do.nacsj.or.jp/2022/02/17832/

農地の環境保全等活動の交付金制度への提言書:NACSJ含む5団体共同提出(2022年4月)
https://what-we-do.nacsj.or.jp/2022/04/18038/

「みどりの食料システム」への期待と課題ほか(2022年5月)
https://www.nacsj.or.jp/2022/05/30313/

「みどりの食料システム」の施行規則および基本方針に関するパブコメを提出(2022年8月)
https://what-we-do.nacsj.or.jp/2022/08/18514/

「次期生物多様性国家戦略(案)」に対する意見を提出(2023年2月)
https://what-we-do.nacsj.or.jp/2023/03/19026/

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