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「次期生物多様性国家戦略(案)」に対する意見を提出しました

2023.03.01
要望・声明

2022年12月に開催された生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)において、2030年に向けた生物多様性に係る新たな世界目標「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択されました。これを踏まえて環境省は「次期生物多様性国家戦略(案)」を作成しパブリックコメントを実施。日本自然保護協会は下記意見を提出しました。

「次期生物多様性国家戦略(案)」に対する意見(PDF/236KB)


環境省自然環境局自然環境計画課生物多様性推進室 御中

2023年2月28日

「次期生物多様性国家戦略(案)」に対する意見(パブリックコメント)

公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 亀山 章

意見1.

該当箇所:
P9 33行目
意見内容:
30by30 目標の記述について、「少なくとも」30%以上と表記するべきである
理 由:
「昆明ーモントリオール生物多様性世界枠組み(GBF)」における30% 議論の根拠は、種の保全や生態系サービスの持続可能性のために、将来必要な保護・保全地域面積を算出した際に、40% から70% との試算が研究者から提起された。2030年までに30% というのがマイルストーンとして妥当性がある根拠になるとの議論から、GBF世界目標に組み込まれたものである。日本の持続可能性を考えた時に必要な保護・保全地域の推計はないが、2030年以降は、さらなる保護地域や自然共生サイトの拡張の検討も考えうることから、「少なくとも」というマイルストーンとしての目標であることを明記すべきである。
参照:
IUCN -WCPA 発行PARKs2019年11月号
https://naturebeyond2020.com/wp-content/uploads/2019/10/Woodley-et-al-Targets-PARKS-25.2-proof-3.pdf

意見2.

該当箇所:
P24 7行目 第2節2050ビジョン③
意見内容:
ネイチャーポジティブに向けて保全再生への資源動員が成されている社会をビジョンに描くべきである
理 由:
ビジョン3「生物多様性の主流化による変革がなされた社会」とは、影響を低減できれば良いという配慮の記述で留まっている。GBFの2050ゴールDのように、公共部門と民間部門からの資金供給、サプライチェーンで配慮だけではなく、例えば製品の売り上げの一部が、保全再生に寄付されるなどの保全再生の取組みへの資金の流れが、2050年には作られているべきである。

意見3.

該当箇所:
P28  32行目
意見内容:
「上記以外の保護地域についても、必要に応じた指定・拡張や継続的・効果的な管理を図る」とあるが、国有林野の保護林については特記し、その指定・拡張をより積極的に図るべきである。
理 由:
国有林野は、陸域の国立公園の約6割を占めるなど、生物多様性の保全にも貢献しているが、特に生物多様性保全に寄与すべく指定管理されている保護林の強化を図るべきであり、さらなる指定・拡張を進めるべきである。

意見4.

該当箇所:
P29 24行目
意見内容:
国有林野における「緑の回廊」について、その拡充をより積極的に特記すべきである。
理 由:
「緑の回廊」は保護林と保護林を繋ぐ、ネットワークとして機能しているもので、生態系ネットワークの構築の上で重要な取り組みであり、特に明記して、その指定・延伸を図るべきである。

意見5.

該当箇所:
P44 8行目 日常生活における生物多様性配慮物品やサービスの選択
意見内容:
生物多様性に寄与する製品群のなかに、売り上げの一部を保全再生活動に還元する商品を入れる
理 由:
あらゆる資源からの資源動員の重要性はGBF目標19でも設定されている。そのうえで、商品あるいはサービスそのものの生物多様性配慮をしつつ、売り上げの一部が、保全や再生の現場の活動支援に回るような商品やサービス開発の重要性も、生物多様性国家戦略上明記するべきである。

意見6.

該当箇所:
P48 ①法制上、財政上又は税制上の措置等
意見内容:
自然共生サイト拡充のための法整備も含めた法制上の措置の検討を明記するべきである
理 由:
30by30 目標は、GBF世界目標3に明記されているとおり、2030年までに「少なくとも」30% の保全を目標とするものであり、日本の種の保全や生態系サービス確保の観点で、2030年以降拡充させることを視野に入れる必要がある。保護地域の拡充、OECM認定、保全管理の推進、人員増や管理能力向上のため、土地の所有や譲渡、管理にかかる税制措置も可能にする保護地域法制度の充実といった将来を見据えた施策の検討について明記するべきである。

意見7.

該当箇所:
P57 2行目 1 国際枠組への対応
意見内容:
生物多様性条約の今後の締約国 会議に向け先送りされた決定への対応を明記するべきである
理由:
COP15ではGBFの協議に交渉リソースを多く割いたことから、健康と生物多様性、知識管理、主流化長期戦略、気候変動と生物多様性、外来種(ネット取引や、国際運輸におけるラベリング等)、資源動員長期戦略(2025以降の戦略)などいくつかの決定が先送りされた。また、指標のように一定程度合意できたものの、さらに方法論を含め、精査の検討を決めたテーマもある。
主流化長期戦略、健康と生物多様性など、本戦略の実施の視点においても重要な決定についてフォローし、内容を国民に周知し、国家戦略として適宜組み込むことについて検討が必要である。

意見8.

該当箇所:
P64 行動目標1-1 陸域及び海域の30%を保護地域及びOECMにより保全するとともに、それら地域の管理の有効性を強化する
意見内容:
生物多様性にとって重要な地域である保護地域またはOECMでの効果的な保全や管理を充実させる行動計画が必要である
理 由:
現在、自然共生サイトはすでに取り組みのある場所を認定し、管理の継続を促す取組みが重視されている。そのことは重要であるが、生物多様性にとって重要な地域の保全や、管理の充実を促すことが重要である。そのためには、重要地域の特定、公表、保護地域か自然共生サイトとしての設定計画の樹立などの行動計画を考える必要がある。

意見9.

該当箇所:
P69 1-1-8 海洋基本計画に基づく生物多様性の保全及び持続可能な利用に向けた取組の推進
意見内容:
公海における重要海域を選定し海洋保護区の指定に向けた国際協力、および沿岸も含めて海洋保護区の保全やモニタリング等を充実させていく必要がある
理 由:
海域の30%の目標を達成するためには、沖合および公海における海洋保護区やOECMへの登録が重要となる。日本の領海および排他的経済水域については 環境省が「生物多様性の観点から重要度の高い海域」(重要海域)を抽出しているが、公海については重要海域の抽出や海洋保護区指定に向けた国際協力を進めていく必要がある。また、沿岸も含め、すでに海洋保護区に指定されている海域は必ずしも生物多様性の保全が目的でなく、保全対策やモニタリングが充実していないため、今後効果的な保全をすすめるうえでも充実させていく必要がある

意見10.

該当箇所:
P79 1-2-34 劣化した生態系の再生の強化
意見内容:
劣化した生態系の30%を再生するために、具体的な面積の再生目標の設定をすべきである
理 由:
GBFでは、劣化した生態系の30%を再生することが目標値を引き上げて合意された。生物多様性及び生態系サービスの総合評価(JBO 3: Japan Biodiversity Outlook 3)で指摘される通り、日本においては、里地里山・浅海域・砂浜生態系の劣化が懸念されている。この3つの生態系について、それぞれ面積を伴う再生目標を設定するべきである。またその地域の環境に適した再生方法についてもよく検討を進めるべきである。

意見11.

該当箇所:
P79 行動計画1-3 侵略的外来種による負の影響の防止・削減(侵略的外来種の定着率を50%削減等)
意見内容:
監視のための全国的な人材配置も含めた対策を明記すべきである
理 由:
GBFにおいて、既知または潜在的な侵略的外来種の導入及び定着率の少なくとも50% 削減という数値目標を含む、侵略的外来種による生物多様性影響の低減、最小化や緩和が合意された。島嶼を優先地域として特出するなど、日本のような島国においては緊急的な課題として認識されている。侵略的外来種の侵入防止や定着の状況把握は、防除や早期対策のための前提条件となることから、これら監視のための全国的な人材配置も含めた対策を明記すべきである。

意見12.

該当箇所:
P103 4行目 2-2-8ユネスコエコパークの取組の推進
意見内容:
ユネスコエコパークの 30by30 への貢献の可能性について記述すべきである
理 由:
自然を活かした地域づくりはユネスコエコパークの目的である一方で、自然保護区としての役割もあり 30by30 への貢献も可能である。本戦略内では、ユネスコエコパークの生物多様性上の貢献が明確でないため、より明確な記述をすべきである。

意見13.

該当箇所:
P111 行動目標2-4 再生可能エネルギー導入における生物多様性への配慮を推進する
意見内容:
再エネルギーの施設の建設計画において、生物多様性保全上重要な地域を回避するしくみや環境影響評価制度の抜本的な見直しを明記すべきである
理 由:
GBFにおいて、気候変動対策による生物多様性損失の最小化と好影響の促進が合意された。現在、各地で行われている再生可能エネルギー施設の建設計画の中には、生物多様性への配慮が十分に行われていない計画が数多くみられている。気候変動対策による生物多様性の損失を最小化するために、生物多様性保全上の重要な地域やOECM(自然共生エリア)等、重要な植物群落、渡り鳥のルート等が適切に回避される仕組みや、現行の環境影響評価制度の抜本的な見直しを含む取組みを明記すべきである。

意見14.

該当箇所:
P123 行動目標3-4 みどりの食料システム戦略に掲げる・・・
意見内容:
環境保全型の農林水産業を拡大させるには、食料・農業・農村基本法における環境の位置づけを見直す必要がある。
理 由:
農政の憲法と言われる、食料・農業・農村基本法改正に向けた検討が農林水産省で行われている。日本の農業は、農薬や化学肥料など海外からの輸入に依存し、環境負荷も高く、その持続可能性や食料安全保障も課題となっている。この原因として、基本法では、自然生態系を含む「多面的機能」は、農業を継続することによって自動的に発揮されるとされ、環境保全の位置づけが不十分なことがある。基本法の目的に「環境保全」を明確に位置づけ、「環境保全型農業」を推進することによって、「日本の農業の持続性の向上」「食料の安定供給」と同時に「生物多様性の保全」にも貢献できる。

意見15.

該当箇所:
P131 行動目標4-1 学校等における生物多様性に関する環境教育を推進する
意見内容:
保育園や幼稚園等を通じて、すべての子どもが自然を体感し学べる機会を創出するために、保育士等の教育や自然観察指導員との連携を推進すべきである
理 由:
当会が1978年から全国で3万人以上を養成している「自然観察指導員」は、環境教育や自然保護を各地で担っている。自然観察指導員は、推定で年間のべ130万人以上の人に自然観察を行っている。特に、乳幼児期の自然体験は豊かな心身の育成を促し人生に長く影響するほか、持続可能な社会を創るためにも重要である。しかし家庭の経済格差による自然体験格差が存在するため、学校だけでなく保育園や幼稚園等を通じて、すべての子どもが自然を体感し学べる機会が重要である。そのためにも、保育士等の教育や自然観察指導員との連携を推進すべきである。

意見16.

該当箇所:
P158 5-3-2 生物多様性地域戦略策定の推進
意見内容:
生物多様性地域戦略は、OECM(自然共生サイト)を実現するために必要な地域の動きをつくりだすものであるが、市町村の策定率が低いことは憂慮すべきことであり、地域戦略策定の推進を支援することは大きな課題である。
理 由:
生物多様性地域戦略の策定率は市町村では8.6%ととても低い。民間による保全活動の促進、OECM(自然共生サイト)による保全地域の拡大などでは市町村での展開とその役割が期待されるため、環境省はGBFの目標に合致した「生物多様性地域戦略」のあり方を示し、行政横断型で実効性を高め、次世代の参画を推進するなど自治体の策定の支援をすべきである。

以上

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