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【事例3】希少植物・昆虫たちが暮らす草原や湿原の影響調査が不十分ではないか?(静岡県)

2006.07.01
解説
会報『自然保護』特集:風力発電事業を考える(2006年7/8月号)より転載

このような重大な計画に対し、地元住民の多くは関心が薄く、自然破壊や景観の改変、動植物の生態系に及ぼす影響などは議論されずに計画が進められています。三筋山ろくに広がる細野高原一帯は、江戸時代以前から続く山焼き文化で維持されてきた草原、天然記念物指定の湿原、尾根を守り支えている樹林帯など多様な環境が組み合わさっています。

ここにはクマタカなどのタカ類、伊豆では最後の生息となったクロシジミや、今では減りつつある草原性の7種のヒョウモンチョウ類も生活しています。植物ではイズコゴメグサ、ミズトンボなど15種に及ぶ絶滅危惧種が分布しています。

060701伊豆_計画された風力発電施設イメージ.jpg▲静岡県天然記念物の桃野湿原と伊豆最大の草原細野高原に計画された風力発電施設のイメージ(事業者の計画図を基にシミュレーション合成・伊豆の自然を考える会制作/撮影:浜野秀保)

060701ウラギンスジヒョウモン.jpg▲標高の高い草原を好むウラギンスジヒョウモン。この他ウラギンヒョウモン、オオウラギンスジヒョウモンなど7種のヒョウモンチョウ類が生息。

この貴重な自然に対する事業者の環境影響評価は法律で義務付けられたものではなく、任意で行われており決して十分とは言えません。文化財や地質調査は古い文献の引用に過ぎず、季節で発生の異なる昆虫の調査は1回しか行っていません。種類の多い植物でさえも、春秋2回の調査で済ませていることが、環境影響評価書(案)の縦覧で分かりました。

現在、三筋山に至る車道はありません。発電所建設には細野高原の草原と湿地の点在する間を突っ切る形で、幅5m以上の機材運搬道路の建設も計画されています。起伏が多い場所を造成するため、流水の変化や盛土の流失で湿原が衰退し、やがては草原の植生も変化し、ここで生活する多くの生き物に影響を及ぼすことが懸念されます。

さらに道路法面の緑化で、本来は細野高原にはない外来植物による生態系の攪乱が進み、絶滅が危惧されている貴重な動植物が真っ先に被害を受けることでしょう。風力発電施設の設置から約20年後の廃棄工事や樹林、草原、湿地の緑の喪失を考えたとき、不十分な調査のまま風力発電施設の設置場所の選定を誤れば、将来に禍根を残すことになるのです。

宮内和雄(NACS-J富士箱根伊豆自然観察指導員連絡会伊東支部長・環境カウンセラー)

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