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【事例2】希少なワシがたどり着く主要な狩場に風力発電施設?(北海道)

2006.07.01
解説
会報『自然保護』特集:風力発電事業を考える(2006年7/8月号)より転載

被害に遭ったオジロワシを検視した結果、ほとんどの被害鳥の消化管から未消化の餌が見つかり、事故を起こした風力発電施設のすぐ近くが、彼らの採餌場として利用されていることが明らかになりました。
また、近年道内で記録されている衝突事例が、すべて死亡事故であることも、この問題の深刻さを物語っています。

060701衝突死したオジロワシ.jpg▲衝突後死亡して収容されたオジロワシ

060701fig1_北海道の猛禽類衝突事故例.jpg▲北海道における希少猛禽類と風力発電機との衝突事故例(2006年5月末現在)

被害鳥のワシは、すさまじい力で翼などが叩き折られており、全身にわたる骨折や内臓破裂も引き起こしていたことから、事故後直ちに死亡したものと推察されました。

先端速度約300kmの巨大な羽根が、上下方向から次々と迫ってくるので、主に気流を利用してゆったり帆翔し、俊敏な身のこなしが苦手な大型猛禽類には避けきれないことが容易に想像できます。
アメリカやスペインなどでもブレードに着色したり模様を描いたりして、視認性を高めるなどの対策が試みられていますが、いまだ大きな成果は得られていないのが現状です。

北海道稚内市には、宗谷岬の丘陵を埋め尽くす巨大風力発電機の数、現在なんと57基。東京電力とトーメンが共同出資するユーラスエナジージャパンが、2005年12月に本格稼動を開始しました。

地球上に約5000羽のみが生息する希少種であるオオワシは、同じように天然記念物であり、「種の保存法」の指定種でもあるオジロワシなどとともに、宗谷岬を重要な渡りのコースとして利用しています。

宗谷海峡は北方に渡る野鳥にとって最大の難所であり、猛禽類は風と上昇気流を最大限利用してこれに挑みます。重い体重を必死の羽ばたきで支え、息を切らしながらやっと陸地にたどり着いたワシたちは、まるで倒れこむように風力発電機の乱立する丘陵地帯に降り立ち、しばらくは文字通り肩で息をしています。
特に渡来期である秋には、周辺河川に餌となるサケの姿が多く見られることから、ここが長期滞在する重要な採餌環境にもなっています。

このように、多くの希少な鳥が極めて高頻度に利用することが分かっている場所に、死亡事故につながる恐れのある危険な風力発電施設が、次々と建設されているのです。クリーンエネルギーの名のもとに、絶滅の危機に瀕した野生生物の貴重な生息地よりも、人間の営利事業が優先されている現状を許してよいのでしょうか。

本当の意味で環境に優しい事業として発展してゆくためには、野生生物を人間生活の代償にしない幅広い環境配慮があるべきです。

(斉藤慶輔/猛禽類医学研究所代表)

苫前グリーンヒルウインドパーク
1000kW×20基
(株)ユーラスエナジー苫前

060701苫前風力発電.jpg▲オジロワシが衝突して死亡例が出た苫前町の風力発電施設

宗谷岬ウィンドファーム
1000kW×57基
(株)ユーラスエナジー宗谷

060701宗谷岬の風力発電施設.jpg▲渡りの重要なコース上に57基の風力発電機が並ぶ宗谷岬の風力発電施設の一部

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