環境省・地方環境事務所の事務・権限の地方行政組織への移譲に反対する意見書を出しました。
環境省・地方環境事務所の事務・権限の地方行政組織への移譲に反対する意見書(PDF/251KB)
添付資料:国立公園とその区域で、NACS-J が関わってきた自然保護問題(75 件)(PDF/9MB)
日自然第49号
2011(平成23)年11月11日
環境大臣 細野 豪志 殿
民主党陳情要請対策本部 本部長 輿石 東 殿
公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 田畑 貞寿
環境省・地方環境事務所の事務・権限の地方行政組織への移譲に反対する意見書
政府では、地方主権改革のもと国の出先機関の事務・権限を地方行政組織にすべて移譲させることを検討しています。地域主権のあり方は、持続可能な社会や自然との共生社会の形成に向け、適切に構築されなければなりません。環境省・地方環境事務所のすべての権限移譲は、我が国の優れた自然景観や生物多様性に多くの問題を生じさせ、将来世代へ禍根を残すと考えられるため、反対を表明します。
主な理由は、以下のとおりです。
- 自然公園の利用のみが優先される:国立公園をはじめとする自然公園は、保護と利用の二つを目的としています。保護されているからこそ適切に管理された利用によって、その価値が維持されているにも関わらず、地方においては利用の拡大のみへの期待や開発促進への圧力が強いのが現状です。自然公園の価値の維持のためには国と地方相互の牽制関係が重要で、権限をすべて集約してしまえば利用や開発が進むことが懸念されます。
- 国際的な目標達成の責任は国にある:国立公園は、様々な自然保護上の国際条約で約束された目標を達成する場でもあります。国際自然保護連合(IUCN)では、「国立公園は国の最高機関によって所有・管理が行われるもの」と位置づけています。近年、予定されている2013年アジア国立公園会議、2014年世界国立公園会議への日本の積極的な関与が期待されています。世界自然遺産やラムサール条約の登録地も含め、国際的な責務に国の権限をもって応えなければなりません。
- 野生生物の問題解決は広域的管理が必要である:国立公園は県境を越えて指定され、野生生物は県境に関わりなく生息・生育しています。特に、侵略的外来生物の対策や野生鳥獣の保護管理や鳥インフルエンザ等の感染症などの課題は、地方行政による個別の対応だけでは解決困難な状況です。日本全体を把握する視点と最新の科学的視点を持った保護管理の施策と、専門性・調整能力のある人材の育成と配置は、国の責任のもとに行うのが効果的です。
- 保護地域の協働管理のしくみを確立する: 国立公園は国土の5%ではありますが、生物多様性国家戦略で「生物多様性の屋台骨」と位置づけているように、生物多様性の保全上重要な地域です。将来にわたり国民の共有財産として管理するためには、国、地方自治体、民間団体、市民との協働管理の枠組みを充実させて、国も地方も相応の責任をもった保全管理を行うことが、これからの国立公園など保護地域のあるべき方向性です。
以上