愛知ターゲットの今後の動向に関する解説 パート2 (2011.09.02)
はじめに
最近、「COP10が終わってから、一体今どうなっているのでしょうか」という話を聞く機会がありました。先日開かれた環境省「第1回人と自然の共生懇談会」で配布された資料 (2-5 世論調査等にみる生物多様性問題の現状)では、COP10以降生物多様性に関する報道が、2008年と同じくらいの水準に戻っており、少なくとも大きなメディアではめっきり見なくなったと言えるでしょう。
そこで、前回(6月8日)のレポートを踏まえて、もう少し全体像が見えるように紹介したいと思います。
「COP10が終わってからどんな動きがあるか」ですが、例えて回答するなら「動きはありませんが、胎動はあります」という表現になるでしょう。COP10で採択された愛知ターゲットやその他の決議は基本的には世界レベルであるいは締約国のレベルで実施するものとなり、その国の「行動への翻訳」が必要となります。愛知ターゲットも採択されたのは20の個別目標であって、個別目標を実現するための「行動」が決まっているわけではありません。そのため、今(2011年9月2日)は、行動に移すための計画段階・行動を担う組織・体制作りといえる時期で、その分見えづらい状況と思います。
このレポートではCBDを除く(CBDについては、前回のレポートをご参照ください)他のセクターについて、紹介します。先に言うと、ほぼすべてのセクターが「10月を迎えると、誰が何を準備しているかが具体的に見えてきます」という結論になります。その意味で10月はCOP10開催の1年後ということもあり、色々なイベントや報道が乱立するかもしれませんが、おぼろげでもこのレポートでそれらの関係・全体像を把握の役に立てば幸いです。
NGOの動き
国連生物多様性の10年市民ネットワークは、前回のレポート通り、10月10日に総会を行い、正式に幹事等の役員体制、事業計画等の発表が行われる予定です。少しずつ加盟団体が増えており、RIO+20や国連生物多様性の10年日本委員会(後述)の委員に指名されるなど生物多様性のフォーカルポイント(連絡窓口)となるよう活動しています。市民ネットには、CBD市民ネットの普及啓発部会・貧困開発部会・TEEB作業部会などの有志が一緒になった「CEPAジャパン」などCBD市民ネットで生まれたつながりを持って活発に活動する団体も参加しています。
NACS-Jは、その設立から、ある意味で愛知ターゲットの目標達成に貢献する活動を60年間続けてきたような組織ですが、当然、COP10の成果を踏まえた新しいアクションを準備しています。その名も「生物多様性の道プロジェクト -市民と育てる、暮らしと自然の未来像-」というもので、愛知ターゲットの17番「参加型、効果的な戦略作り」というボトムアップもトップダウンも必要とする活動を、NACS-Jの総合力を活かして取り組むつもりです。専用ウェブサイトも、9月末にはオープンの予定です。
あわせて、NACS-Jが事務局を務める「国際自然保護連合日本委員会(IUCN-J)」では、にじゅうまるプロジェクトという、上記のありとあらゆる主体を対象にし得るキャンペーン活動を準備しています。この活動も、10月8日に中央大学で、キックオフを予定しています。ウェブサイトはwww.bd20.jpです。
海外の動きについては、はっきりと把握できていません。IUCNは明確に愛知ターゲットを組み込んだ4カ年計画(2013-2016)を準備していますが、例えば、IUCN加盟団体であるWWFなどはウェブサイト上の印象では、関心が別の課題に移っているように見えます(これはキャンペーン戦略上の理由もあると思います)。9月末にIUCNのアジア地域自然保護フォーラムが開催予定で、こちらに出席し、愛知ターゲットを巡る国際社会の空気感をつかんでこようと思っています。
企業の動き
企業については、生物多様性民間参画パートナーシップ(事務局:日本経団連自然保護協議会)や「企業と生物多様性イニシアティブ」が、業界全体の動きをけん引するはずです。
民間参画パートナーシップでは2011年12月に総会を開催し、愛知ターゲットに企業がどう貢献できるか、その事例などを発表する予定と聞いています。
後述するIUCN-Jのにじゅうまるプロジェクトとも連携する予定で、「どんな企業が、どんな活動で、愛知ターゲットの何番に貢献するか」を宣言するというコミットメントの表明が、企業の生物多様性分野への参画の第1段階として進んでいくものと思います。
また、企業に関しては、COP10決議にも書かれているのですが、CBD事務局や各締約国は企業のプラットフォーム作りを支援することとなっており、12月15-16日にかけて企業と生物多様性グローバルプラットフォームの第1回会合First Meeting of the Global Platform for Business and Biodiversityが東京で開催される予定です。
学術(IPBES)の動き
COP10でも話題になったIPCCの生物多様性版のIPBES(Intergovernmental Science-Policy Platform on Biodiversity and Ecosystem Service:生物多様性と生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム)は、10月3日から7日にかけてケニアのナイロビで第1回目の総会を行う予定です。第1回目ということもあり、どのような機能を持つか、組織体制化などが焦点となる見込みで、IPCC第4次レポートのような影響力のある報告書を作るようになるのはもう少し時間がかかるものと思います(とはいえ、IPCCは1980年代後半の設立。気候変動にかけられている研究費や論文数など、資金面でも大きな差があります)。
自治体の動き
環境省の後押しもあり、自治体も同じように生物多様性地域戦略を策定した自治体を中心に情報共有・連携の枠組みである「生物多様性自治体ネットワーク」の発足が準備されています。現在100近い自治体がこの自治体ネットへの参加を表明しており、最初の代表自治体(1年で持ち周りで担当する模様)は愛知県が務めるようです。こちらは10月7日に愛知県で第1回総会を開催する見込みです。
国連生物多様性の10年日本委員会
国連生物多様性の10年日本委員会は、形の上では、上記一連の活動を総括する会議体、愛知ターゲットやCOP10の成果を踏まえた活動の情報共有をし、戦略を練る会議体です。9月1日に第1回会合を行い、委員長や委員長代理の選出、活動内容についての検討(国民運動の実施、全国ミーティングの開催、連携事業の認定)を行いました。ウェブサイトは、全国ミーティング(10月29日(土)・愛知県名古屋市名古屋国際センター)の前に立ち上がる見込みです。
なお、国連生物多様性の10年の世界全体のキックオフは、日本の石川県・金沢市で12月17日に予定されています。
(文責:保全研究部・道家哲平)