大きな負荷が想定されるため南アルプスに、長大なトンネルを掘るべきではない
リニア中央新幹線計画段階環境配慮書(長野県に係る区間)に関するパブリックコメント(PDF/224KB)
2011年8月26日
リニア中央新幹線計画段階環境配慮書(長野県に係る区間)に関するパブリックコメント
公益財団法人日本自然保護協会
保護プロジェクト部 辻村千尋
日本自然保護協会では2011年7月7日に東海旅客鉄道株式会社(JR東海)が公開した、中央新幹線計画段階環境配慮書に対して、自然環境保全の見地からパブリックコメントを提出した。今回、新たにルート選定が未確定であった、長野部分の配慮書が公表されたため、該当部分について改めてパブリックコメントを提出した。
なお、重要な事項については、自然保護上非常に問題が懸念されることから、再掲することとした。その他前回指摘事項は、>>こちらを参照されたい。
・該当箇所:第4章
・意見:本配慮書のルート選定では、南アルプスを長大なトンネルで通過するとされている。南アルプス地域は、国立公園をはじめ、原生自然としての厳重な保全が求められる「大井川源流部原生自然環境保全地域」指定地も存在する、大規模な山塊の保護地域である。大規模林道見直しの契機となった南アルプススーパー林道(一般車両通行不可)以外の道路は存在せず、以降、人為的インパクトを極力排除し、自然状態を維持してきた。
大規模な山塊で、一般車両が通行できる道路、鉄道、トンネルが全く存在しない場所は、本州では南アルプス以外にはない。これは、日本の生物多様性を支えるまさに屋台骨であり、後世に引き継ぐべき財産として、環境省により国立公園の拡大指定が見込まれている。
このような保護地域の評価が全くなされていないことは、配慮書としての要件を欠いている。また、過去にも経験してきたように、トンネル工事では、地下水文環境の大きな変化(異常出水など)、作業道路の設置・大量の排土砂による影響、斜坑の設置による地上部への影響など、大きな負荷が想定されるため南アルプスに、長大なトンネルを掘るべきではない。
・該当箇所:第4章
・意見:地震活動が発生した場合、その震源である活断層を横断する構造物には、延長の長短に関わらず破壊的な被害が生じる。従って、被害を回避する方法は、原則、活断層を回避することしかない。また、既知の活断層の周辺に存在する構造的な弱線は、未知の断層として新たな起震断層となる可能性が高い(能登半島沖地震やニュージーランド地震など)。事実、政府地震調査会において、長期地震の発生確率の見直しが逐次進められている。
2011年3月11日に発生した東日本大震災以降、日本列島上のどこで地震が発生しても不思議ではないという地震活動期に入った現状では、活断層のみならず、構造的な弱線等も含め、回避することが原則である。南アルプス西側(長野側)には、木曽山脈西縁断層帯、伊那谷断層帯、中央構造線、畑薙山断層、清内路峠断層、阿寺断層、屏風山断層などが想定ルート近傍に存在している。これらの断層帯を回避した場合、想定ルートの設定は不可能である。
・該当箇所:第4章
・意見:配慮書では、トンネル坑口や斜坑等の影響は触れられているが、排出される残土の量や処理方法について全く触れられていない。路線決定には、近傍の処理地の有無が大きく関係し、新たな残土処分場は二次的な環境影響を及ぼす。それにもかかわらず、全く考慮されていないのは大きな問題である。計画段階であっても、南アルプスで想定されるルートのトンネル規模から、残土の量の推定は可能であり、残土処分量と処理地の有無などについて検討するべきである。
・該当箇所:第4章
・意見:配慮書の「南アルプスの隆起速度は日本国内で突出した値ではない」という記述は誤りである。水準測量からみた列島の上下変動値によると、南アルプスの隆起量はその他の地域と比べて突出した高い値である(国土地理院、2002年「水準測量から求めた全国の上下変動」)。また日本のみならず世界的に急速に隆起していることが指摘されている(静岡県HP、2010)。南アルプスでは、急激な隆起のために崩壊地も多く分布している。このため大量の土砂生産が行なわれ、流域のダム群の堆砂量は非常に多い(例えば、美和ダム)。このように、隆起量、崩壊量とも大きい南アルプスに、トンネルを掘ることは避けるべきである。また、もし、「突出した値ではない」というのであれば、その根拠を示すべきである。
・該当箇所:第4章
・意見:土被りの大きい南アルプスでのトンネルでは、大深度での地下水、地表への影響は、直接影響だけでなく、間接的な影響も考慮するべきである。地表からの深度が深い場所では、地表や表層に近い部分での地下水への直接影響は考えにくい。しかし、帯水層などの地下水は、均衡した圧力条件の元で維持されており、トンネルなどの構造物ができることで、地下の圧力の均衡状態に変化がもたらされることが想定できる。この影響が、間接的かつ長期間を経て、地上部へ影響する可能性についても検討する必要がある。
以上