「”予備調査”がすでに海上の森を破壊している」
1998年11月13日
建設大臣 通産大臣 環境庁長官 2005年日本国際博覧会協会会長 |
関谷 勝嗣 殿 与謝野 馨 殿 真鍋 賢二 殿 豊田章一郎 殿 |
愛知県が海上の森で実施及び計画している名古屋瀬戸道路と
新住宅市街地開発の「予備調査」に関する要望書
財団法人 日本自然保護協会
保護部長 吉田 正人
愛知県は今年6月から、都市計画道路「名古屋-瀬戸道路」建設のための「予備調査」と称し、愛知県瀬戸市の海上の森全域で大規模なボーリング工事を開始 しました。日本自然保護協会が11月2日、工事の実態を調べるため現地を視察したところ、少なくとも以下4点の自然環境保全上重大な問題が見られました。
<1>
林道から調査地点までの数百?にわたって、ボーリング重機の搬入路を設けるため、樹木を幅3?前後伐採してモノレールを敷設したほか、一連の作業のため表土が露出し、林床を裸地化させた。
また、絶滅危惧種ギフチョウの食草であるスズカカンアオイの踏み荒らしが至るところで確認され、シデコブシの伐採も確認された。
<2>崩落しやすい花崗岩の滑落崖がみられる海上町の民家の裏山でボーリング工事を行ったため、今年8月末、ボーリング地点から地下水が大量に噴出し、民家の井戸水が濁り続け、地元住民の生活環境に多大な影響を与えた。
<3>地元住民によると、工事中は重機の使用によって早朝から夕方まで継続して相当の騒音が発生し、付近に生息する野生動物、とりわけ鳥類への影響は極めて大きかったと考えられる。環境影響評価の調査に影響を与えた可能性も高い。
<4>調査を実施した現場作業員に対して、生態系やシデコブシ等の貴重種への配慮に関する指導が徹底されていないずさんな調査であることが明らかになった。
今回の環境影響評価が、来年6月に施行される環境影響評価法の実質的な第1号としてモデルケースとされていること、通産省が万博・新住宅市街地開発・名古屋瀬戸道路の3事業のアセスの連携を決定していること等の特殊性に鑑みて、環境影響評価終了前にこのような大規模な「予備調査」がなされたことは、環境影 響評価制度そのものを形骸化する行為であり、愛知県の責任は重大です。日本自然保護協会はアセスの連携の形骸化を懸念していましたが、ボーリング調査地点 が、環境影響評価による手続きを経ないまま現時点のルート計画に沿ってなされている点からみても、愛知県が環境影響評価を軽視している姿勢がうかがわれま す。
ボーリング工事はこれまでに40数箇所で実施され、今後も名古屋瀬戸道路及び若宮八草線のため125カ所、新住 宅開発事業のため56カ所で計画されています。すでに地元の市民団体が合同で、愛知県知事にボーリング工事の中止を求める緊急要請書を提出しましたが(添 付資料参照)、これに対し愛知県は、「自然環境に配慮して進めている」と事実とは異なる回答をし、また今後についても、「専門家(環境コンサルタント)の 助言を得て自然環境に配慮して作業を実施する」との極めて不十分な回答を寄せました。
日本自然保護協会は、環境影響評価法の形骸化を防ぐため、さらに3事業の環境影響評価の連携を徹底するため、建設大臣、通産大臣、環境庁長官、2005年日本国際博覧会協会会長に対し、以下のことを要望します。
1.建設大臣は、都市計画道路建設の「予備調査」と称する一連の工事が、自然生態系の微妙なバランスに与えている影響を重視し、環境影響評価の全手続きが終了するまでは、愛知県の「予備調査」に伴う工事を中止するよう県を指導すること
2.通産大臣は、2005年日本国際博覧会、新住宅市街地開発事業、名古屋瀬戸道路の環境影響評価の連携を決定し、21世紀のモデルとなる環境影響評価を実施す ると宣言しているにもかかわらず、愛知県が名古屋瀬戸道路のボーリング工事に着手し、環境影響評価実施中の自然環境に相当の影響を与えている問題を重視 し、環境影響評価の全手続きが終了するまでは、愛知県の「予備調査」に伴う工事を中止するよう県を指導すること
3.環境庁長官は、2005年日本国際博覧会の環境影響評価が環境影響評価法を先行適用したものであること、新住宅市街地開発事業、名古屋瀬戸道路の環境影響評 価が万博の環境影響評価との連携を求められていることの重要性に鑑み、環境影響評価の全手続きが終了するまでは、愛知県の「予備調査」に伴う工事を中止す るよう県を指導すること
4.2005 年日本国際博覧会協会会長は、愛知万博の環境影響評価が環境影響評価法を先行適用したものであること、通産省の通達で新住宅市街地開発事業と名古屋瀬戸道 路の連携が求められていることを重視し、環境影響評価の全手続きが終了するまでは、愛知県の「予備調査」に伴う工事を中止するよう県に働きかけること
なお、この要請書に対するご回答を、11月末日までに文書で当協会まで下さるようお願い申し上げます。