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「藤前干潟を埋め立てない循環型社会を」

1998.11.01
要望・声明

会報『自然保護』No.431(1998年11月号)より転載


日本有数の干潟がゴミ処分場に

藤前(ふじまえ)干潟は、伊勢湾に広がる約89haの干潟だ。名古屋という大都市の中にありながら、シギ、チドリ類などの渡り鳥の中継地点として国際的に知られている。今の季節、干潟は南国への渡りの途中立ち寄った渡り鳥たちでにぎわっている。

この干潟をゴミ処分のために埋め立てようという計画がある。「埋め立てによって環境への影響が出ることは明らか」と名古屋市自らが予測しながら、なおも計画は進められようとしている。

NACS-Jでは、計画をすすめようとする名古屋市、埋め立て免許の許認可の権限を持つ運輸省などに対して、「藤前干潟の埋め立て申請に反対する緊急要請」を保護部長名で提出した。

市議会が埋め立てに同意議論の舞台は国へと移った

8月20日、名古屋市はこの計画について、市の条例に基づく環境アセスメントの手続きを終え(環境影響評価の評価書を提出)、10月7日の名古屋市議会は、藤前干潟の埋め立て同意議案を可決した。今後、運輸大臣に、公有水面埋め立ての認可申請が出される。

NACS-Jは、今年2月に名古屋市環境事業局長、名古屋市環境保全局長、愛知県環境部長に対し、「アセスメントで不足している調査を実施し、それに基づき徹底した議論を行うよう」求める緊急要請書を提出した。その後、市の環境アセスメント審査委員会では「渡り鳥と干潟への影響は明らか」とする答申、県の環境アセスメント審査委員会でも「渡りの成功率、環境への影響が想定される」とする答申が出された。これを受けて名古屋市は「影響はあるが、代償措置でできるだけ少なくする」とする評価書をまとめた。

事業の実施を前提にして行われる現在の環境アセスメントとしては、「影響はある」と明記したことは画期的な出来事ではあったが、その予測への対処内容には残念ながら前進は見られなかった。

NACS-Jも加わっている「人工干潟実態調査委員会」の報告によれば、国内に造成された人工干潟は、面積的に狭く、生物の現存量や、水質浄化機能などすべての面で自然干潟には及ばず、人工干潟の造成で藤前干潟の消失を代償できないことは明らかとなっている。

また環境アセスメントが求めている環境保全措置(ミティゲーション)は、代償措置の前にまず、回避、それができない場合に、低減・最小化などの保全努力を求めている。代替地を探す努力を十分に行わずに、代償措置を持ち出すこと自体がミテイゲーションの意味を曲解しているといえるからだ。

渡り鳥の中継地点としての藤前干潟の世界的重要度

国内の干潟は、45年以降92年までの間に約40%が失われており(環境庁調べ)、残された干潟の現状を当協会が調査したところ、開発計画がある干潟が全て失われると、さらに現存の干潟の約40%が失われることがわかった。日本の干潟は、まさに風前の灯となっている。

伊勢湾奥に残された最後の干潟である藤前干潟の埋め立ては、単に日本からこの面積の干潟が失われるというだけでなく、世界規模で渡りを行ってくらしている渡り鳥の中継地点の消滅を意味している。それはすなわち、ラムサール条約や渡り鳥に関する二国間条約などの締約国としての責任を放棄することになり、国際的な信用の失墜にもつながる。

さらには、来年6月から施行される環境アセスメント法では、これまでの保全目標達成型から環境保全努力型に変わることで、実質的に国内の自然保護が推進されることが期待されている。藤前干潟の場合、名古屋市は条例による環境アセスメントで影響ありと判断しながら開発はすすめるという矛盾を解決せずに埋め立てを申請しようとしている。

審査・許可する立場にある運輸省や環境庁がこれを許可するようでは、環境アセスメント制度そのものに対する信頼も失われる。

NACS-Jから3点の緊急要請

NACS-Jは、このような状況に対して、以下の点を緊急要請した。提出先は、松原武久・名古屋市長(名古屋港港湾管理者の長)、加藤 徹・名古屋市議会議長、川崎二郎・運輸大臣、真鍋賢二・環境庁長官である。

  1. 名古屋市長(名古屋港港湾管理者の長)および名古屋市議会議長は、公有水面埋め立ての認可申請提出を一時凍結し、「ゴミ問題緊急事態宣言」を出して他の都市で実施しているような分別収集・事業ゴミの有料化などあらゆるゴミ減量策を実施して愛岐処分場を延命し、その間、代替地の再検討と近隣市町との交渉を行い、同時にゴミの再資源化をはかり、藤前干潟を処分場としなくてもよい循環型社会づくりに努めること。
  2. 運輸大臣は、名古屋市から公有水面埋め立て認可申請が出された場合には、自然保護、ゴミ問題など環境上の問題が多いことから、環境庁長官の意見ならびに自然保護、リサイクルに携わってきたNGOの意見を十分に聞いたうえで、これらの問題が解決できないと判断される場合には、埋め立て免許の申請を却下すること。
  3. 環境庁長官は、藤前干潟を埋め立てることは、ラムサール条約、各国との渡り鳥条約はじめ、国際的な合意に違反するものであり、来年から施行される環境影響評価法の信頼さえ損ないかねないものであることに鑑み、公有水面埋め立て認可申請に対して、環境行政の立場から断固たる意見を表明すること。

今後、市長は「埋め立てに同意する」との意見を名古屋港管理組合に提出し、同管理組合は、免許出願に寄せられた62通の意見書に対する見解をつけて、運輸相に免許を申請すると見られている。運輸相は審査の過程で環境庁長官に意見を求める。埋め立て免許の許認可権限を持つ、運輸省・環境庁はじめとする関係者に、いっそう慎重な検討を望む。

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