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今後の国立・国定公園のあり方に関する意見(パブリックコメント)

2007.05.01
告知

[件名]今後の国立・国定公園のあり方に関する意見
[宛先]環境省自然環境局国立公園課 御中
[氏名](企業・団体の場合は、企業・団体名、部署名及び担当者名)
(財)日本自然保護協会 保護・研究部 大野正人/道家哲平


(財)日本自然保護協会(NACS-J)は、設立の発端となった尾瀬の電源開発にはじまり、多くの国立・国定公園の自然保護問題に関わりを持ってきた。設立50周年を機に設置された国立公園制度検討小委員会では、大きく3つの提言をした。

  • 1)国立公園を生態系と生物多様性の保全の場とする
  • 2)国立公園を国民の深い自然体験・環境教育の場とする
  • 3)国立公園におけるパートナーシップを推進する(公園計画等への市民参加、人材の確保、組織の強化、適正な費用負担)
    (※NACS-J報告書第88号「豊かな自然・深いふれあい・パートナーシップ」)

この21世紀の国立公園のあり方を示したNACS-J提言と今回示された「国立・国定公園の指定及び管理運営に関する提言」(以下、本提言)を照らし合わせたうえで、意見を述べる。国立・国定公園が応えるべき課題に対し、改善の可能性は随所に見受けられるが、以下の意見に述べるように、国立・国定公園の方向性を明確に見定めるには至ってはいないと考えざるをえない。

意見1:国立公園制度の中に、生物多様性の支柱を立てきれておらず、景観のみを主軸としたこれまでの考えから脱却できていない。

NACS-Jは2000年に「国立公園を日本を代表する生態系と生物多様性の保全の場とする」ことを改善点の整理ともに提言した。結果として、2002年の自然公園法改正では、国の責務条項に「生物多様性の確保」が盛り込まれたこと、また同年の第2次生物多様性国家戦略では、「国立公園は、我が国の生物多様性の屋台骨」と位置づけられたことは評価している。

しかし、今回の検討会提言では「景観の構成要素に、生物多様性の構成要素を含む」とし、未だに景観論を主軸においた表現が随所に見受けられ、国立公園に生物多様性の支柱が立てられたとはみなせないものとなっている。

「景観の評価に当たっては、人の五感に与える影響(美的雰囲気等)があることが前提」とした場合に、生物多様性の価値は、主観的な尺度である「美的雰囲気」=「美しさ」だけで評価されるものではない。例えば、小笠原諸島の母島の石門地域の固有希少植物は一見地味であり、訪れる者にとって美的雰囲気をそそられるものではないが、生物多様性の観点で高い価値を有している。また、福井県敦賀市の中池見湿地は、環境省の重要湿地500にも選定され、今回の提言案で評価対象とした「特徴的な湿地」に該当するが、中池見湿地の特徴の一つである地下40mの泥炭層は五感で体験できるものではない。

美的な尺度のみで国立公園を評価しつづける限り、従来から抱えてきた自然公園の保護と利用の問題は何も解決されない。本提言案の最後にもあるように、自然公園法の第1条の目的条項に「生物多様性」を含めたうえで、今後の国立・国定公園の方向を見定めることが、「時代に応える自然公園」としていくために求められている。

意見2:環境省は国立公園の保護に関わる課題・問題に主導的な姿勢を示し具現化するべきである。

本提言で示された「環境省が果たすべき役割」において、「関係者と連携を図りながら、保護に関する事業を主導的に実施する」という姿勢が示されているように、現在、独立化を目指す尾瀬の予防的な保全管理事業や至仏山の登山道による荒廃の修復など、まさに今、環境省の主導的・積極的な対処が求められている。 また、利用調整地区制度は、自然公園の適正な利用を図っていくうえで有効な制度であるが、地権者や観光業との調整を避けているかのようなことから、活用の意欲があるとみなされていない。このような状況の打開のためには、利用調整地区制度適用のための作業指針を作成していく必要がある。このように、環境省は国立公園の生物多様性の保護に関わる課題・問題に対し、積極的なイニシアチブをとっていくべきである。

意見3:「目標」の設定、「行動計画」の策定が加わることから、国立公園に関わる計画制度を一つの体系にまとめ、協議会を設置して策定する必要がある。

本提言では、法定の「公園計画」「管理計画」に加え、「共通の目標」「公園が提供すべきサービス」「行動計画」の策定が提案されたことは重要なことである。しかし、それぞれの役割・関係性・策定手続きの違いが極めて分かりづらく、一つの地域に関して適用されるいくつもの計画について、その全体構造も不透明なまま策定されては、市民側は混乱し、協議会における議論や具体的な事業に参画することができない懸念がある。

IUCNの「保護地域の管理計画立案のためのガイドライン」によると、通常、「管理計画」の下に、業務計画(保護地域官庁の地域スタッフが参考とする許認可業務等の指針)などを位置づけることが多い。

自然公園の管理運営に関する計画制度は、公園の価値(公園が提供する様々な種類・レベルのサービス)や共通目標(ビジョン)のもとに一貫性を持って運営されるべきであり、自然公園に係る計画は体系的な一つの計画にまとめられるべきである。例えば、総合化された上位計画で「里山景観の保全」をビジョンとして掲げられた場合には、その自然公園内に存在する二次的自然と関係する生業の状況を考慮したうえで、下位の管理計画・規制計画が作られなければならない。

また、地域住民、民間企業、NGOと円滑な共同体制に向け、公園の管理運営の体系と策定手続きを分かりやすく解説するなど、参画してもらうための各主体への支援を行うべきである。

意見4:国立・国定公園の指定の見直しには、生物多様性上重要な地域を公園の特色ごとにタイプ分けをし、それに応じた選定要領を見直すべきである。

NACS-Jが行った解析(※未発表資料「平成17~18年度戦略的保全地域情報システム(SISPA)の構築と活用成果報告」)では、重要な自然地域として認められる特定植物群落のうち国立・国定公園で保護の担保がされている割合は52.5%しかないため、国立・国定公園が生物多様性の屋台骨をうたうならば、こうした現状への対処が必要である。

また、日高山脈襟裳、早池峰、九州中央山地の綾照葉樹林、奄美群島、沖縄海岸のヤンバルのように、国立公園並みの規模と自然環境上の価値を有した国定公園があり、これら国立・国定公園の再配置を行うには、生物多様性上の重要性を「自然公園選定要領」の選定項目に組み込み、そのうえで公園の特色ごとにタイプ分けをし、それに合わせた選定基準を定めるべきである。例えば、国立・国定公園を「生態系保全重視タイプ」「景観・レクリエーション重視タイプ」「歴史・文化公園タイプ」などIUCNの保護地域カテゴリーを参考に類型化することが考えられる。

意見5:国立公園ごとの目標(ビジョン)に即した生態系の保全、自然体験の提供からみた合理的かつ効果的なゾーニングを行う必要がある。

今回の検討会では、国立公園の指定地域と生物多様性のギャップ分析が試みられたが、あまり議論は深まらず、特に地種区分ごとにみたギャップについても検証されず、地種区分の今後のあり方にまでは議論を進めていない。現在の特別保護地区、特別地域(第1~3種)、普通地域というゾーニングは、主として観光や林業との関係から引かれた人為的なものであり、現実の自然環境上の重要性に応じた地域区分にはなっておらず、大きな問題点として以前から指摘され続けている。

具体的には、特別保護地区や第1種特別地域の範囲取りにおいて、その面積の小ささ、境界判定の不適切さから、自然環境の保全上、不十分と思われる場合も多いため、生態系の拡がりとまとまりをもって設定すべきことを明記する必要がある。さらに利用に関しては、地域の自然環境の特性と脆弱性等の保全の必要性を踏まえた本来の意味のレクリエーション機会が提供できることが求められている。

また、特別地域の第1~3種までの区分は、林野庁との間で取り決められた森林施業上の扱いを示すものであるため、適切な自然環境の科学的な評価をもとに、土地利用の制限、レクリエーション活動の管理誘導、二次的自然環境の保全管理等を課題化し、合理的、効果的な地種区分のあり方を今後検討すべきである。

意見6:国立公園の多様な価値を把握するためには、科学的な調査研究・モニタリング調査とそれら環境情報の集積システムが必要である。

環境省が、国立・国定公園内の自然環境情報を網羅的に把握されていないという現状を、早急に改善すべきである。国立公園ごとに目標を設定した場合、その目標にむけた管理運営、地種区分の見直し、管理計画の検討をする際に、公園内の自然環境のモニタリングと情報の集積・蓄積は、「生物多様性の屋台骨」の随として不可欠である。このような体制整備や事業化にあたっては、市民団体や民間へ参画・協力を求め、希少種情報の扱いは慎重にしたうえで情報を共有できるシステムが必要である。

意見7:生物多様性条約等の国際的な議論を踏まえた自然公園制度の確立をめざすべきである。

本提言にある「諸外国の模範となる保全の仕組みを目指す」ためには、特に生物多様性条約保護地域作業プログラム(CBD Programme of Work on Protected Areas )などの国際社会での議論を踏まえた自然公園の姿を追及することが必要である。

保護地域作業プログラム(2004年採択)においては、2010年の目標像として、総合的な人材育成プログラムの実施、管理効果のモニタリング・評価・報告システムの確立をめざし、また、2012年に海域も含めた保護地域ネットワークの確立、すべての保護地域で参加型長期的管理計画を樹立することを宣言している。

本提言では、作業プログラムに合致する部分もあるが、実施期限が記載されていないなど、国際的に求められる水準に対応できていない点が多い。特に、人材育成の対象として指摘されているのが公園管理団体のみであり、環境省の地域スタッフや地方自治体、NGOも含めた総合的な人材育成への視野に乏しい。また、複数の「計画」が未整理のままであることから、参加型長期管理計画の樹立が困難になる点が懸念される。政府として、保護地域作業プログラムの目標をどのように果し、日本の自然公園とその管理方式をどう世界にアピールしていかなければならないか、再度検討しなければならないといえる。


ご参考

■環境省報道資料(平成19年3月9日)
「国立・国定公園の指定及び管理運営に関する提言について-時代に応える自然公園を求めて-」
https://www.env.go.jp/press/8136.html

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