【辺野古・大浦湾】臨時制限区域内の調査を求める要望書を提出しました
今年9月と10月に海の埋立承認が撤回されたことで、立ち入りを制限していたフロートが撤去され、青い水平線が辺野古の海に戻ってきました。
海の現状はどうなっているのか?それを知るために、日本自然保護協会はダイビングチーム・レインボーの協力を得て、辺野古緊急調査2018を実施しました。海草の多様性が少なくなっていたり、護岸周辺の海底微地形が変化していたほか、台風による被害も見られました。
執行停止がなされたいま、NGOは臨時制限区域には入れません。引き続き詳細な調査をするよう、沖縄県に調査の実施を要望しました。
これらの点を踏まえ、沖縄県に調査の実施を要望しました。
20181016_普天間飛行場代替施設建設事業に伴う臨時制限区域内の調査を求める要望書 (PDF・223KB)
2018年10月16日
沖縄県議会議長 新里 米吉 殿
普天間飛行場代替施設建設事業に伴う臨時制限区域内の調査を求める要望書
公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 亀山 章
私たちは辺野古・大浦湾の生物多様性豊かな自然環境の保全に長期にわたり取り組んでおり、サンゴ礁、海草藻場、地形などについて調査を行っており、その立場から意見を述べます。このたび公有水面埋立承認撤回に伴う工事の停止を受け、日本自然保護協会は辺野古海域において複数の分野について緊急調査を実施しており、これまでに1)キャンプ・シュワブ南側に広がる海草藻場、2)キャンプ・シュワブ南側に建設されている護岸(K1~K4、N5)付近の環境、3)K9護岸周辺の環境、4)コモチハナガササンゴ群集などを対象として調査し、以下の結果を得ています。
1)海草藻場について
日本自然保護協会はダイビングチーム・レインボーの協力を得て9月8日から12日の期間に、キャンプ・シュワブ南側に広がる海草藻場にて、海草の状態を調査しました。この海域には沖縄島周辺で最大の規模を有する海草藻場があることが知られており(環境省第4回自然環境保全基礎調査)、ジュゴンやウミガメの餌場となるほか、スクをはじめとする多くの幼魚などの生息場所となっています。
沖縄防衛局が護岸工事を開始して以来、護岸の建設により直接的に海草が失なわれ、さらに7月に護岸で囲われ海水の交換が遮断される部分が生じました。
日本自然保護協会は2002年から2012年までの10年間にわたり市民参加型の海草調査「ジャングサウォッチ」(ジャン=ジュゴン、ジャン草=ジュゴンが餌とする海草)を行ってきました。環境影響評価や国の環境調査などでは、海草の種類を識別せずに、全て「海草」というくくりで総合的な被度だけを記録するという方法が取られていますが、ジャングサウォッチではこの海域に生育する7種の海草を識別し、正確な情報を得ています。このたび6年ぶりに埋め立て区域周辺の12地点において海草の種類や被度などの生育状況を調査しました。
その結果、前回の2012年と比べ確認できた海草の種類の減少を確認しました。前回の調査時に4種類の海草が確認されていた護岸西側の地点では、ジュゴンが好んで食べるウミヒルモなど3種類の海草が占める割合が減少しました。そして赤土などによる海水の濁りに強いボウバアマモが占める割合が大幅に増えました。さらに12の全調査地点を見ると、今回確認できた海草は、前回より1種類が少ない6種類となり、どの地点においてもベニアマモを確認することができませんでした。囲いこまれた護岸の内側に生息している可能性もあるかと思われます。また護岸付近の多くの場所で海草に赤土が堆積し、貝類が死滅している様子が確認されました。
水質の悪化に伴い生育する海草の種類が変わることはオーストラリアの事例(例:Udy et.al. 1999)から示唆されており、この場所ではそれまで生育していた海草が、悪い条件の水質環境でも生育可能なボウバアマモに置き換わったという形になりました。時間が限られていたため海域全体は調べられませんでしたが、沖縄県には海草の種を識別して調査を行い現状を把握する必要があると思います。また併せて水質の調査も必要です。
2)護岸設置による海底地形の変化
キャンプ・シュワブ南側に建設されている護岸(K1~K4、N5)と大浦湾のK9護岸周辺の環境を調べました。キャンプ・シュワブ南側の護岸では岩や砂が堆積するなど地形の変化が見られました。K3護岸やK4護岸では護岸付近の海草はまだ生きていましたが、K1護岸とK2護岸の付近では土砂の堆積により海草が死滅していました。
K9護岸付近には以前は小規模な海草藻場が広がっており、2014年の5月から7月までの2か月間にジュゴンが合計151本の食痕を残すほどジュゴンが好んで利用する場所でした。今回の調査ではかつて海草藻場があった場所にK9護岸が建設されていました。時間の関係で周辺をくまなく調査することはできませんでしたが、K9護岸のジュゴンの生息に対する影響は大きいものと思われます。いずれの場所も定量的な調査が必要です。
3)コモチハナガササンゴ群集
K9護岸の沖合の水深29mの場所に学術的に貴重なコモチハナガササンゴ群集が広がっています。東西に45m、南北に37mに広がっており、このサンゴ自体はほかの場所でも確認されているものの、このような規模を持つ報告例はここだけです。
このサンゴはイシサンゴにしては珍しく岩に固着せず、泥の上で生活し、群体が分裂することで泥場への生活を可能にしている自由生活型という生活史をもつことが記録され、学術上とても貴重なものです(Kitano et al 2013)。この場所が臨時制限区域内であることから、今年4月に米軍に立ち入り許可の申請を出しましたが認められず、今回、確認する機会を得ました。
沖縄防衛局が環境保全措置として移植の対象とするサンゴ類は水深20m以浅に分布しているものだけであり、このサンゴは対象外となります。普天間飛行場代替施設建設事業におけるサンゴ移植の基準については日本サンゴ礁学会保全委員会(2016)からも疑問が呈されています。この群集についても正確な調査が必要です。
4)台風による被害
9月から10月にかけて沖縄を直撃した台風24号と25号の影響を調べる必要があります。10月1日には長島付近に設置されていた航路を示すブイが大浦湾にまで移動しており、またキャンプ・シュワブ南側の護岸付近においては護岸の上に設置されていたと思われる有刺鉄線の塊が海底に落ちていることが確認されました。事業とは関係なく健康なサンゴの枝が折られ、テーブル状のサンゴがひっくり返されるなどの被害も出ていますので、現在の状況を正確に把握することが必要です。臨時制限区域内に沈められている300個近くのコンクリートブロックについても調査が必要であると思われます。
以上のことから、沖縄県には海草藻場、護岸付近の環境変化、コモチハナガササンゴ群集など、この海域について詳細な調査をしていただくことを要望いたします。辺野古・大浦湾の環境の現状を正確に把握することが、事業者の環境保全措置の不備を指摘することとなり、公有水面埋立承認時の取り決めを守っていないという証拠になると思われます。なお、調査の際に日本自然保護協会も同行させていただけますと幸いです。
*普天間飛行場代替施設建設事業に伴う臨時制限区域への立ち入り許可のお願い
https://www.nacsj.or.jp/archive/2018/04/8476/
参考資料
- 1) James W.Udy et al.(1999) Responses of seagrass to nutrients in the Great Barrier Reef, Australia
- 2)日本自然保護協会(2014)7月9日記者会見資料
https://www.nacsj.or.jp/archive/2014/07/523/ - 3)Kitano et.al.(2013) Phylogenetic and taxonomic status of the coral Goniopora stokesi and related species (Scleractinia: Poritidae) in Japan based on molecular and morphological data. Zoological Studies,52: 25.Zootaxa, 3794: 263-278.