中田島砂丘の保全を求める要望書を提出しました
日本自然保護協会は、生物多様性保全の立場から中田島砂丘の保全を求める要望書を、川勝静岡県知事と鈴木康友浜松市長に送り、以下の5点を求めました。
- 砂丘の防災機能の見直し
- 市民との合意形成
- 遠州灘全体の総合的評価の実施
- セットバック工法の導入
- 観光客の需要予測
2017年6月30日
静岡県知事 川勝平太 様
浜松市長 鈴木康友 様
公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 亀山 章
中田島砂丘の保全を求める要望書
現在、静岡県では浜松市沿岸域防潮堤として沿岸域一帯に高さ13m、幅50-60m、全長17.5kmにわたる規模の防潮堤が作られています。その一環として中田島砂丘にも高さ13mの防潮堤の建設が進められています。
中田島砂丘は鳥取砂丘、九十九里浜とともに、日本の三大砂丘とされている規模の大きなもので、生物多様性保全と景観保護価値の高い砂丘です。天竜川の西に位置し、浜松市内を流れる馬込川に隣接し、東西約4km、南北0.6kmの規模を有しています。砂丘は自然の砂浜にあるものですが、これほどまでの規模を形成するのは珍しいことであり、風紋ができるほどの砂丘は全国的にも貴重です。
中田島砂丘のある遠州灘では、天竜川から海へ砂が運ばれ、陸と砂浜と海の生態系の連続性が維持されています。こうした大きな環境の連環がウミガメ、甲殻類、貝類など多くの生物の生息を育んでいます。周辺海域の良好な環境とのつながりが、健全な沿岸生態系の維持に寄与していると考えられます。そのため、この場所は、カワラハンミョウ、キタノツブゲンゴロウ、ヒメミズスマシなどの貴重な生きものの生息地になっています。
自然の砂浜は日本全国で急速に減少しており、今後も減っていくことが予想されています。気候変動などの影響で、国内の砂浜は21世紀末には最大でおよそ90%が失われるおそれがあることが最近の研究でわかりました。
砂浜は生物にとって大切な場所です。ウミガメ類のように海と陸を行き来する生きものは海辺に多く生息することが知られており、それらの回遊性の生きものたちにとっては砂浜は欠かせない場所です。特にアカウミガメは世界的にも生息数が減っておりIUCN(国際自然保護連合)では絶滅危惧IB類に選定され、日本でも減っているため環境省も絶滅危惧II類に選定しており、保護が必要です。また浜松市の天然記念物にも指定されている重要な生物です。ウミガメ類のみならずウミガメ類を象徴とし、陸と海、海と川を行き来する生物たちも視野に入れた幅広い環境保全を行っていただきたく思います。
日本自然保護協会は、日本全国で自然の砂浜が減少していることから、遠州灘全体の保全のために貴重な自然海岸を守りたいと考え、以下のことを要望します。
1)砂丘の防災機能の見直し
中田島にある規模の大きな砂丘はそれ自体が防災効果を持つものです。そのことを再検討して計画に反映していただきたく思います。
防災・減災についての国際的な流れは、巨大防潮堤などの人工構造物ではなく生態系を基盤にした防災・減災(Eco-DRR:Ecosystem-based Solutions for Disaster Risk. Reduction)の考え方、つまり自然が持つ力を利用した方法が注目されています。沿岸部では、砂丘や森林を保全することで、地域の漁業などの産業に資すると同時に災害に対する地域社会の脆弱性を改善する費用対効果の高い方法である事例が報告され、自然の緩衝剤は往々にしてコンクリートの構造物よりも、高い防災効果を発揮することがあらためて確認されています。中田島の場合もその規模と地形的な成り立ちから事業者が想定されている以上の防災機能を有すると考えられます。
2)市民との合意形成
浜松市民の多くがこの防潮堤計画について知らないという声があがっています(中日新聞6月26日)。多くの委員会を設置しヒアリングも行ったとのことですが、まさに当事者である浜松市民が計画自体を知らないということは合意形成が不十分であることと考えられます。中田島砂丘を含む浜松市沿岸域防潮堤整備計画においても複数の検討委員会が設けられているというご努力は承知していますが、将来に関わることですので、ていねいに市民の意見を聞いていただきたく思います。これはまさに静岡方式の理念として描かれている「地域の意見を取り入れながら、県と国、市町が協働で推進しなければならない。」に合致するものです。
3)遠州灘全体の総合的評価の実施
遠州灘の環境全体を総合的に評価を実施いただくようお願いいたします。ウミガメ類の保全については検討委員会にて検討されていますが、海域生態系および河川も含めた沿岸域の全域を評価できる分野の専門家が欠けています。当該分野の専門家の評価を要望します。
4)セットバック工法の導入
上述のように貴重な生態系を有する中田島砂丘の保全のため、防潮堤の一部をセットバックすることを要望します。セットバックとは構造物を陸側に寄せることです。本計画の検討の中でもできる限り陸側に移動させることを検討されていますが、更に陸側への移動を要望します。大分県中津干潟や沖縄島名護市嘉陽海岸では漁港や護岸を大きく陸側にセットバックすることにより、構造物のサイズを小さくすることができました。
米国のハワイでは、住宅などの構造物を海岸からできるだけ陸側に作ることが義務づけられており、これはハワイ州の沿岸管理計画(CZM)で1977年より条例として位置づけられています。
中田島砂丘にかかる部分をセットバックしていただくようご検討お願いいたします。
5)観光客の需要予測
中田島砂丘は日本の三大砂丘に位置づけられている貴重な場所です。砂丘を見る目的で訪れる観光客も多いことから、ここを訪れる観光客の需要予測をすることを提案いたします。
参考:有働恵子、武田百合子(2014).海面上昇による全国の砂浜消失将来予測における不確実性評価. 土木学会論文集G(環境),Vol 70, No5, I-101-110
もう日本にほとんど残されていない、貴重な砂浜が残る中田島砂丘