尾瀬・至仏山の登山道のルート変更計画を進めています。
雪田植生の荒廃が大問題になってきた尾瀬国立公園の特別保護地区・至仏山。
尾瀬ヶ原の高層湿原とこの至仏山の蛇紋岩植生が、国立公園であり天然記念物でもある尾瀬の自然性を代表する二大要素といわれています。
ところが、昭和の時代から続く大勢の登山者によって植物が繰り返し踏み付けられたことにより、登山道沿いの植生がすっかり失われ、場所によっては植物が生える基盤である土壌や泥炭までもが流れ、大きな裸地の広がる場所ができてしまいました。
平成に入った1989年からは登山道を一時閉鎖し、木道を改良する大工事が行われましたが劇的な効果は得られませんでした。
▲植生かく乱地が広がる至仏東面登山道上部(写真:群馬県)
NACS-Jが、この問題の解決に直接かかわることになったのは、2002年(平成14年)のこと。
これまで、群馬県と共に植生荒廃の調査を3年、原因究明の検討に2年をかけ、問題現場の登山道はその区間で最も脆弱な場所をいくつも横切っていることや、登山道の整備が植生の破壊や土壌の流失をかえって助長している区間があることを明らかにしました。
その後の3年間は、尾瀬保護財団と共にその問題の場所のルートを変更し、雪食凹地という脆弱な環境を避けられる迂回路を考えるために必要な調査を行いました。
そして最近の2年間で、具体的な迂回ルートとその工法をまとめました。迂回させる新たな登山道では壊れにくい自然の中だけを通しますが、その歩行路も植生だけでなく地面をも傷つけず、毎年積もる大量の積雪の力に抗わない設計案を用意しました。
現在使っている登山道は、迂回ルートができた後は可能な限り木道などの施設を取り除き、自然再生を図ろうとする計画です。
3月26日、この調査結果の説明と企画提案のための保全対策会議が群馬県庁で開かれ、基本はこの計画が了承されました。次は新しい歩行路の実験と施工計画という事業化の段階に入ります。
国立公園の特別保護地区の自然性が確実に守れる仕事となるには税金の投入が不可欠です。NACS-Jではこの働きかけを行っていきますので、ぜひご支援をお願いしたいと思います。
(常勤理事・横山隆一)