森林生態系保護地域・保全管理委員会に参加。 外来種対策と観光利用制御を検討しています。
会報『自然保護』No.513(2010年1/2月号)より転載
島の狭さが外来種の影響を増幅
日本として、世界自然遺産への4カ所目の登録を得ようと、09年秋申請された小笠原諸島。都心から南南東へ1000kmの太平洋上にあり、30余の島々からできています。絶海の孤島で、一度も大陸と地続きになったことがないため、ユニークな生態系ができています。しかし、人が住む父島・母島といえども狭く、人が持ち込んだ数多くの外来種や開発が原因で、オガサワラオオコウモリやオガサワラノスリ、アカガシラカラスバト、ハハジマメグロ、オガサワラシジミや陸貝類などの動物や、ムニンツツジ、ムニンノボタンといった植物など、多くの固有種が絶滅の危機に瀕しています。
▲在来の森にすむ固有種・ハハジマメグロ
なぜ特殊で貴重な自然といわれ、国立公園や森林生態系保護地域などの保護地域であるにもかかわらず、絶滅の危機が去らないかと思われるかもしれませんが、島の狭さのため、何かの悪影響はすぐに島全体に及び、大きく環境が変化して外来種が増えるため、保護地域の指定だけでは状況悪化を止められないからなのです。
森林生態系保護地域の保全管理委員会で検討
2007年、NACS-Jからの強い働きかけによって、森林生態系保護地域が島の国有林のほぼすべてに拡大されました。その際、ほかの保護地域には見られない保全管理委員会という組織を提案し検討が開始されました。この会議では、在来種の保護と外来種の排除、開発や観光利用の制御を、できるだけ早く行い、それぞれの事業間の矛盾を最小にするため、定期的に開催されています。09年9月、島外の専門家だけのアドバイザー会議が開かれ、委員の私も参加しました。
在来種の保護は、アカガシラカラスバトの餌となる在来樹種の増殖事業が議題にされましたが、あくまで小笠原の自然保護は「最小の人為で達成」が原則なので、注意すべき点を整理しました。外来種の排除については、生態系保護地域を管理する林野庁がアカギやモクマオウなどの植物種を中心に5島14カ所の事業を組んでおり、その進捗を点検しました。既に森となってしまった外来樹種を取り除くのは容易でなく、希少動物に大きな刺激を与えられない時期は作業も行えません。比較的安全な8月から10月上旬に効率良く除去・排除を行うこととしました。
▲母島に茂る外来樹種・アカギ
利用の制御は、村が希望する遊歩道を設置することが、希少種の生息環境悪化にならないための制限事項が議論されました。オガサワラノスリなどと歩道の関係は整理できましたが、オガサワラオオコウモリは人家近くに重要な生息地があるため、歩道との関係だけの判断では意味が無く、観察ツアーや農業との関係までを含む環境の管理方策と、種の保全策が宿題となりました。このような課題には、役所の縦割り問題や私権との関係が常につきまといます。固有種を守るため、的確な方法を実行できるしくみをこの委員会で提案し、動き始めています。