綾の照葉樹林プロジェクトで、林床植生から照葉樹林の復元方法を検討しました。
2009年11/12月号より転載
NACS-Jは、宮崎県綾町で官民協働で人工林を自然林に復元していく「綾の照葉樹林プロジェクト」を実施しています。プロジェクトのエリアは約1万haあり、ほとんどは国有林となっていますが、約1%が町有林となっています。この町有林内で行った「照葉樹林(町有林)の保護復元に伴う基礎調査」(綾町委託)の結果を報告します。
調査の目的は町有林内の人工林(25~30年生)の林床植生(高さ1.3m未満)を把握し、間伐による最適な復元方法を検討することです。町有林は小屋ヶ谷(48ha)、百ヶ倉(23ha)、大口(23ha)という3エリアからなり、すべて標高が100~400m間にあります。
したがって、自然植生の優占種はイチイガシ、コジイ、ウラジロガシなどのブナ科を中心とした高木種になり、林齢もそろえた条件で林床植生を比較することができます。調査は地形を違えて15カ所のプロット(25㎡)を設置し、種類、被度、高さを測定。林床植生の種多様性を決める要因として、自然林からの距離、被度、森の開空度(樹冠部の開けた空の面積率。照度に相当)、土壌水分、地形の安定性などの環境条件を記録しました。
林床植生の種の多様性を低下させる3つの要因
その結果、多様性指数は自然林からの距離が近いほど高くなることが確認されました(図1)。しかし、自然林からの距離が近くても多様性指数が低いプロットもあり、自然林からの距離が近いことが必ずしも種多様性を決める必要条件ではないことも分かります。
図1:自然林からの距離と多様性指数との関係
自然林からの距離が近くても多様性指数が低い場合(青)があった。
そこで、自然林からの距離が近くても多様性指数の低かった3カ所のプロットのほかの条件をみてみると、1カ所は開空度が高すぎると逆に多様性指数が低下してしまう場合でした。開空度が高すぎるとウラジロ(シダ類)のような乾燥に強く競争力の高い特定の優占種が占有していました。ほか2カ所は谷地形にある場合で林床が崩落地のような不安定な立地になっていました。これらの条件をまとめると図2になります。標高や林齢は同じ条件で、自然林からの距離や地形が異なる場合の林床植生の様子を模式的に示しました。林床植生の種多様性は(1)自然林からの距離が遠いこと、(2)開空度が高いこと、(3)地形が不安定なことによって低下することが分かりました。
これらの結果から人工林を間伐した場合の林床植生の変化の予測ができます。間伐率を高めると一度に照度が増し、針葉樹も減るため早く復元しそうですが、特定の優占種により林床が占有されてしまうため、目標とする照葉樹の侵入や定着がかえって遅くなってしまうかもしれません。当然、低すぎても遅くなると考えられます。
さらに谷地形では林床が不安定な場合があり、もともと林床植生が少ないと考えられるケースもあります。人工林の林床の中には希少種や絶滅危惧種が見られる場合があり、現在の林床植生を維持しながら復元する場合には、台風などで樹木が倒れるなどして自然に森の空隙(ギャップ)が生じる程度の頻度や規模で針葉樹を減らしていく方が、林床を攪乱せず、結局は目標とする自然林へ早く復元するかもしれません。周辺の状況を判断した上で最適の復元方法を選択する必要がありそうです。