「至仏山・調査基盤システム」が完成しました。
会報『自然保護』No.482(2004年11/12月号)より転載
日光国立公園・尾瀬にある至仏山は、蛇紋岩という特殊な地質を持ち、その環境による特殊な高山植物種が豊富に生育する山として知られています。
しかし、長年の登山利用で、特別保護地区にもかかわらず登山道各所で植生の踏み荒らしや裸地が進んできました。平成に入ってすぐ対処が行なわれましたが、残念ながら植生回復の成績は思わしくありません。
NACS-Jは、昨年から群馬県・環境省とともに生態学的な現状診断を進め、この山の自然性を守る新たな方法を見つけ出そうとしています。その中で、山の状況を詳細に表現し、どこにどのようなアクシデント現場があるかをコンピュータ上で一望できるシステムをつくりました。
「至仏山・調査基盤システム」といい、どの場所の何を調べれば処方箋に結びつくかを判断する、GIS(地理情報システム)ソフトを使った道具です。
▲図1:至仏山・調査基盤システムの画像。
1mの等高線が入っている
図1は緯度経度の位置情報を地面にぴったり合わせた拡大率の高い空中写真と、レーザーで1mの等高線を書けるところまで計測したデータを重ねあわせたもので、中央にオヤマ沢田代という湿原が見えます。
図2はその湿原を拡大した画面で、過去に踏み荒らし、植生をなくしてしまったところに別の場所の湿原を切り取ってブロック移植した跡が見えます。施工後30年以上たちますが、移植の跡はまだそのまま見えています。木道からの観察ではわからなかったことで、この画像はラジコンヘリで撮影しました。
図3は至仏山直下の高天原。眼下に尾瀬ヶ原を見下ろす絶景ポイントですが、低木林帯を抜けて泥炭地や風衝地という弱い草地に出たとたん、周囲が裸地になり広がっています。後追いで裸地の上に休憩テラスがつくられましたが、ここを裸地のままであきらめていいのでしょうか。
また、図4は至仏山頂直下の姿。過去に山頂に向け、思い思いにルートをとって登ったことで幾筋もの登山道をつくってしまい、草地を横切るところではこんなに裸地や小さなガケを生み出していることが見て取れます。
このように、今まで現象を正確な位置とともに記録したり、表現しづらかったことが、実際の登山道に沿って見られるようになりました。厳しい環境の中の自然回復は不可能な場合も少なくありません。何よりも予防が大切ということを教えてくれるものにもなりました。
横山隆一(総合プロジェクト・尾瀬担当)