「尾瀬・至仏山の、保護に取り組みます。」
会報『自然保護』No.469(2002年9/10月号)より転載
尾瀬はNACS-Jにとって特別な意味を持つ地域です。尾瀬を水没させる50年前の危機を契機にNACS-Jが発足しただけでなく、「国立公園(自然公園)」というしくみの研究と改善案づくりは、尾瀬だけでなく全国の自然を保全する手法の一つとして、常に取り組んできたからです。
1994年、NACS-Jは尾瀬保護小委員会での検討を報告書『尾瀬の自然保護と利用のあり方』にまとめました。2000年には国立公園制度検討小委員会として報告書『21世紀の国立公園のあり方を考える』で、生物多様性を守るなかで、質の高い自然との深いふれあいの場を提供することが国立公園の使命だと提言しました。
2002年8月に地球サミットを控え、生物多様性を守る対処の一つとして自然公園法が改正されましたが(4月号参照)、同時期、尾瀬ではいろいろな問題が表面化しました。
- 山小屋の廃棄物が違法に埋め立てられているという告発の事件化。尾瀬の歴史に名を刻む長蔵小屋で行われていた行為に対し、自然公園法初の原状復帰命令が環境省から出ました。廃棄物処理法施行以前は埋め立てが黙認されていた経緯もあり、NACS-Jは、山小屋の経営感覚の改善とともに、意識啓発する立場の環境省の意識と体制・制度の不備に目を向けるべき、とコメントしました。
- 携帯電話の通話エリアにとの村の申請が安易に処理されていた問題。下界のままの感覚・方法が尾瀬の施設整備に持ち込まれています。NACS-Jは反対意見を出し、群馬県知事も不適切と述べましたが、特別保護地区内は中止、入山口は許可という、足して2で割る処理がされつつあり、本質の論議は深まりませんでした。
- 外来植物、ニホンジカの問題。外来植物や人里植物をどうみるかの基になる総合的なモニタリング体制が整っていません。山を登ってきたニホンジカが湿原植物を食べてしまう問題も明らかになっていますが、有効な手だてがみつかりません。
- 7年間の閉鎖と登山道改善がなされたものの雪田群落の消失が止まらない至仏山の問題。群馬県は尾瀬保護財団に委託して緊急対策検討会が発足、NACS-Jにも参加依頼がありました。至仏山の利用のあり方を変えることは優先順位の高い問題。県の目標は緊急対策ですが、根本解決につなげる働きかけが必要です。そこで検討会に参加しつつ、独自の仕事もすすめることを選択しました。
NACS-Jの目標は、
- 至仏山の現状の科学的な評価と保全策の提案
- 改正自然公園法「利用調整地区」の適用の実現
- 地域社会・行政と保護団体の論議のあり方
の提案を考えています。
11月17日には東京で「尾瀬の保護と利用に関するシンポジウム」を実施することにもなりました。これらの実現に対し、尾瀬と山の自然保護に関心を持つ方々のご寄付を募っています。よろしくお願いいたします。
(常務理事・横山隆一)