東京都小笠原空港計画において、東京都が「最も適当な建設地は兄島である」と決定したことに関するコメント
1995年2月7日
(財)日本自然保護協会・事務局
保護部(横山隆一)、研究部(中井達郎)
昨日、東京都知事・鈴木俊一氏は、東京都小笠原村に計画されている「小笠原空港」計画案における建設予定地を、最終的に「兄島」に決定したとする発表を行った。
この計画は、希少な野生生物の限定された生息地でもある小笠原諸島に初の航空路を開設するものであるが、1800m級滑走路を有する空港建設地を「国立公園の普通地域」にしてある(本来景観保全の制度であるために)という理由から、自然保護上最も評価の高い兄島に予定されたことにより、極めて大きな問題とされてきたものである。
咋年12月22日、東京都総務局は、この問題の再検討資料を作るとしてコンサルタントに委託した「空港再検証調査」「環境現状調査」等の結果を発表した。その結果は、兄島案が建設費が最も安く、貴重な個々の生物種は他の島々にも生息するとしただけで、父、島・母島・兄島・前島の4島のいずれの場所を建設地とするのが最も自然環境への影響が少ないか、についての結論作りは見送られている。その中での昨日の標記の発表は、先日来の小笠原村からの空港早期建設の陳情を、建設地決定の理由にしたものと考えられる。
小笠原村による、早期建設の要望やそのための努力には敬意を払いつつも、当協会としては今回の東京都の決定とそこに至る過程について、現状では支持できないと考える。以下に昨日の発表に対するコメントを述べ、近日中に当協会としての意見を表明することをお伝えしたい。
1.年末に公表された都の報告書によっても、大規模な土地の改変を必要とする空港建設地を「兄島に求めて問題なし」とする科学的根拠は認められない。これまで問題となってきたのは、現在兄島等に成立している多くの国有種の生息地を含む生態系を、未来の世代に伝えることと空港計画の整合のあり方なのであり、この点に関する社会的合意の形成には十分な論議と公正かつ客観的な根拠が不可欠である。
2.本来、このような問題のあり方の中での空港建設地の選定は、単に建設費の経済性だけでなく、昨年12月に制定された「環境基本計画」の新しい理念と目標などをふまえつつ、都知事自らが慎重に選定しなければならないものと考える。地元町村に予定地選定の判断をまず委ね、その陳情を根拠にして決定するという姿勢は、あるべき判断のあり方とは思えない。
3.今後、東京都知事から運輸省、環境庁等に「兄島空港計画」の事業申請が行われると考えられる。当協会は、東京都及び政府が守るべき国際条約や種の保存法等の法制度とこの空港問題との関係について見解をまとめ、関係機関の責任者に提示することとした。