【解説】沖縄県条例「公有水面埋立事業における埋立用材に係る外来生物の侵入防止に関する条例案」は基地建設措置のための「地元の抵抗」なのか?
2015年7月7日、沖縄県議会の特別委員会は、県内の埋め立て事業等に県外から持ち込まれる土砂に関し、特定外来生物が混入している土砂や石材を規制する条例案を賛成11、反対6、離席1の賛成多数で可決した。政府が進める普天間基地の辺野古への移設を阻止する狙い、とも報じられているが、果たして沖縄県のこの条例はそのような「地元の抵抗」と評されるべきものなのだろうか。
沖縄防衛局の埋め立て申請書によれば、辺野古の埋め立てに必要な土砂は2,062万立方メートルと見積もられている。沖縄県内から山土を360万立方メートル、海砂を58万立方メートル調達するほか、香川県の小豆島、福岡の門司、山口の防府市、周南市、長崎の五島、熊本の天草、鹿児島の佐多岬、奄美大島、徳之島、の採石場から1,644万立法メートル、10トンダンプの約274万台分(6立方メートル積載ダンプ)の土砂の調達が予定されている。実際に各砕石場では、山を穿ち、岩を砕き、土砂として搬出するため沿岸部に土砂の山積みを始めているところも出てきている。
今回の沖縄県の土砂規制条例案では、土砂や石材に特定外来生物が付着している場合、県内搬入をしてはならない、と規定している。しかしそもそも、国の「外来生物法(特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律)」においても、
(放出等の禁止)
第九条 飼養等、輸入又は譲渡し等に係る特定外来生物は、当該特定外来生物に係る特定飼養等施設の外で放出、植栽又はは種(以下「放出等」という。)をしてはならない。
(措置命令等)
第九条の三 主務大臣は、特定外来生物による生態系等に係る被害の防止のため必要があると認めるときは、第四条、第五条第五項、第八条若しくは第九条の規定又は第五条第四項(前条第六項において準用する場合を含む。)の規定により付された条件に違反した者に対して、その防止のため必要な限度において、当該特定外来生物の飼養等の中止、当該特定外来生物に係る飼養等の方法の改善、放出等をした当該特定外来生物の回収その他の必要な措置を執るべきことを命ずることができる。
と規定されており、県の条例で指摘されるまでもなく、外来生物法上の放出等の禁止や措置命令としても、特定外来生物の付着の可能性のある土砂を移動すること自体が禁じられている。
また、山口県では特外来生物のアルゼンチンアリの生息が確認されており、土砂への混入が危惧されている。この土砂を辺野古の埋め立てに利用するには、アルゼンチンアリの混入がないことを証明する調査が必要となる上、万が一アルゼンチンアリが認められた場合、利用予定土砂のすべてからアルゼンチンアリを回収し、今後発生させない処置をしなくてはならない。膨大な埋め立て土砂にその対策をするのは非現実的である。この状況から考えても、国はこの沖縄県の条例案を積極的に後押しすべき立場にある。
さらに、土砂の供給元となる各地の自然破壊も深刻である。
5月29日、日本自然保護協会と海の生き物を守る会が、土砂採取予定地の鹿児島県の奄美大島住用町の採石場の近くの海の潜水調査をした。かつては「命の海」と称され、泳げばアワビの仲間のトコブシやウニが足の踏み場もなく見え、大きなブダイが多く獲れる宝の海だったが、野積みされた採石地からの、豪雨のたびに土砂が流入し海底はヘドロ化していた。
漁業にも被害が出てきている上、学校の遠泳教育の利用もできないほどの状況となっている。
▲左・中写真:土砂を採る際に植生を剥ぎ裸地化した奄美・瀬戸内町の海辺。一時的な土砂置き場から、雨が降ると赤土や泥が海に流入し、サンゴ礁の海に影響を与える。(写真:自然と文化を守る奄美会議)
▲右写真:奄美大島住用町の地先の海底。採石地から流れ込んだヘドロの中に、キクメイシ属のサンゴが埋まっている。
また、沖縄県内の砕石場でも環境破壊が深刻化している。沖縄本島では、那覇空港第二滑走路の建設にも伴い本部町からの採石の出荷量が上がっており、ここも辺野古の埋め立て用土砂の供給地と予定されている。沿岸の道路沿いからはそれほど目立つ破壊はないように見えるのだが、Google Earthからの写真を見ると、いかに広大な面積がすでに切り崩されているかが分かる。沖縄県内では沖縄県赤土等流出防止条例のため、奄美ほどに土砂が直接海に流れることは少なくなったと言われているが、表土を剥ぎ、山を崩すことは昨今の集中豪雨や台風の巨大化とともに脅威となっている。
写真:沖縄県本部町の採石場
埋め立て事業が本格開始すれば、こうした採石・搬出作業が予定各地で一気に加速する。
埋立予定地のサンゴ礁ばかりでなく、各地の山や海も大規模に破壊し汚濁させてしまう事業を行いながら、琉球列島を世界遺産に…と言われても、世界は納得しないだろう。観光立国を目指し、日本特有の自然環境も貴重な資源として考えねばならない時代において、もうそろそろ、この「山を削って、海を埋め立てる」という手段自体へメスが入るべきではないだろうか。大きな自然破壊が伴わなければ採算があわない、維持できない産業構造を改善することこそ、今、国や自治体が行うべき「公共事業」であると言えよう。
沖縄県の条例案は、7月10日に予定されている最終本会議で採決される。将来を見据え、自然を守り、地域の宝として維持していく地方議会の選択は、これからの持続可能な自治体運営のモデルとなるものだ。国はその可決を歓迎すべきものである。