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北海道・千歳川放水路計画についての意見書

1994.07.18
要望・声明
 

 

1994年7月18日

北海道開発庁長官 小里 貞利 殿
北海道開発局長  柳川 捷夫 殿

北海道・千歳川放水路計画についての意見書

財団法人日本自然保護協会
会 長 沼 田 眞

財団法人日本自然保護協会は、日本各地の自然保護問題を通じ、河川とその流域の自然環境保全について重大な関心を持ち、活動をすすめてきました。特に1989年に当協会内に河川問題調査特別委員会を設け、それ以降、さまざまな分野の河川の専門家を中心にわが国における河川と人間との関係のあり方について検討を進めています。長良川河口堰問題では、その委員会報告に基づき当協会は意見を述べてきました。

千歳川放水路問題につきましても、1992年11月に河川問題調査特別委員会が現地視案を行い、さらに1993年6月に特別委員会の下に千歳川問題専門委員会を設置しました。本年4月には、千歳川問題専門委員会がまとめた「千歳川放水路計画の問題点一第一次報告書-」を発表しました。

本意見書は、これまでの河川問題調査特別委員会と千歳川問題専門委員会の検討と報告を踏まえ、かつ今回北海道関発庁が発表された北海道知事からの意見に対する回答「千歳川放水路事業について」を検討した上で、千歳川放水路計画についての当協会としての意見を述べるものです。

1.千歳川放水路計画は、自然の生態系と社会の地域システムを軽視した大改変といわざるをえない。

自然の水系は、地史的な地形形成過程の中でできあがったシステムであり、またその流域の生物を含む自然はその歴史的過程の中で形成された複雑なしくみを持つシステムです。その水系が流入する海域の自然もまたそのシステムと密接に関係しています。さらには、人間社会もこのシステムの中で営まれています。

そうした生態系の中で、長大な人工水路によって地域の自然と社会を分断し、さらには自然河川の逆流と流域変更を行うというこの千歳川放水路計画は、”水系改変”ともいうべき本来の自然と社会の地域システムを軽視した大改変といわざるをえません。これによる自然、環境への影響は避け難く、放水路のルートの一部変更といった対策で解決される問題ではありません。

2.この計画で生じている数多くの問題点は、土木技術的発想と既存の工学的手法で対処しうる限界を趨えたものである。

本計画はこのような大改変であるために、自然環境保全上解決を必要とする重大な問題が数多く生じ、しかもそれらの諸問題は容易には解決しがたいと考えられます。

千歳川放水路計画が問題化して以来、また北海道知事から要望があって以来、数年を経て発表された北海道関発局「千歳川放水路計画について」をみても、これまで事業主体側から発表されてきた内容と大差なく、対策の具体性と実効性が疑われます。

また、今回の文書では触れられなかった数多くの問題も山積しています。

自然環境保全面では、美々川流域を特徴づける湧水地に生息する昆虫や水生生物を含む生物群集、湧水点の分布やそれらの成立のメカニズム、また千歳川水系、美々川水系とその沿岸域における水産魚種以外の水生生物の評価とそれらへの放水路計画の影響について等はほとんど検討されていません。さらには、放水路の延長方向への冷気流入による農業被害問題や残土処理をはじめとする工事中に発生すると考えられる環境保全上の問題ついても同様です。

また、ゲート操作や放水路内の土砂の堆積と河床勾配の変化などに対処するための洪水時と平常時の維持管理計画も具体的に示されないままです。平常時の放水路内についてはどの ような水量、水質、水交換のありようを想定しているのかに関しても全く不明です。放水路が周辺住民の日常生活にとって大変不快な環境となることも予想されます。これらを示さないで、治水上の効果や周辺への影響を云々することは本末転倒というべきでしょう。

そもそもこれらの諸問題は、これまでの土木技術的発想と手法によって矛盾なく解決しうる限界を越えていると考えられます。事業主体はまずその限界を認識した上で、計画の妥当性を検討すべきであると考えます。

3.旧来の巨大土木工事偏重の治水事業から脱却し、あらたな公共事業のあり方を摸索すべきである。

旧来の巨大土木技術的発想とその手法の限界は、洪水対策そのものに対してもあてはまると思われます。千歳川放水路計画の場合、上記のような解決しがたい諸問題が存在しているということは、その限界を越えているものと認識すべきでしよう。

当面の治水事業は、現在の技術的限界内での治水計画を着実に推進すべきです。すなわち、流域内の未利用地・遊休農地等を利用した遊水地や水源森林の保全あるいは洪水に強いまちづくりなど、これまでに放水路計画に替わる治水対策案として提案されてきたものを含めて総合的な石狩川水系全体の治水計画を再構築すべきです。

このような土木授術のハード面での限界を補うには、流域内の関発・土地利用規制、被災時の災害補償制度、水防組織の強化、災害教育などといったソフト面の充実が不可欠です。

同様のことは、公共事業全般についてもいえると考えます。土木工事偏重のこれまでの公共事業は、残念ながら地域の自然の荒廃と自然と人との乖離を生んで来ました。このような状況を改善しようとするならば、旧来の土木工事偏重の公共事業を改善することが不可欠です。

4.計画決定と計画実行上の意思決定において、十分な情報に基づいた公正な合意形成手続きが欠落している。

大規模公共事業による自然破壊が各地で問題化している基本的な原因には、計画決定と計画実行上の意思決定が、ほとんどの標合事業主体のみによって行われている点にあります。

その結果として特定の事業の妥当性について多くの疑問が出てきた場合においても、事業主体の判断のみで事業が進行する傾向にあります。本年2月時点の閣議において了解された「大規模公共事業の見直し機樺」の検討は、上記の意思決定プロセスを是正するためのものと理解し、当協会としても特に注目しているものです。

千歳川放水路計画の場合も、計画決定と計画実行上の意思決定においては従来の手続きを踏襲しており、計画は専ら建設省・北海道開発局の内部で策定され、非公開の河川審議会に諮問されその承認を経ているのみで事業決定がなされています。関係自治体・住民・各種専門機関の意見を聴取し、地元の事情や自然・社会条件を十分配慮したうえで策定されたものとは考えられません。

この点を改善しない限り、北海道知事をはじめ、多くの住民、国民が求めている合意形成は成り立ち得ないと考えます。

以上のことから、当協会は千歳川放水路計画について、事業の実施を前提として行われている現行の環境影響評価の手続きを進める段階では全くないと判断せざるをえません。したがって、北海道開発庁ならびに北海道開発局は1)放水路計画以外の緊急対策的な治水対策を立案し、実行するとともに、2)千歳川放水路計画の妥当性についての計画アセスメントの考え方に基づいた再検討と、3)石狩川水系全域を視野にいれた地域の自然と社会を損なわない総合治水策の検討を、公正かつ科学的な第三者機関を交えて早急に行うよう提言するものです。

 

(北海道開発庁長官、北海道開発局長に対して)

また、恵庭市、千歳市、苫小牧市、早来町などの放水路計画対象地域において、千歳川放水路の妥当性と総合治水策をテーマに公開討論会を開催されることを提案します。

(北海道知事に対して)

北海道知事におかれましても、北海道の自然と将来の地域社会のために、当該計画に対する慎重なご検討をなされますように強く望むものです。

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