海岸法改正案に対して意見書を出しました。
2014年5月20日
国土交通大臣 太田昭宏殿
参議院国土交通委員会 藤本祐司委員長他各位
海岸法改正に対する要望書
公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 亀山 章
海岸法は、津波、高潮、波浪その他海水又は地盤の変動による被害から海岸を防護するとともに、海岸環境の整備と保全及び公衆の海岸の適正な利用を図り、もつて国土の保全に資することを目的として、1956年(昭和31年)に制定されました。その後1999年には河川法と同様に、環境や利用が新たに法律の目的に入れられるなどの改正がなされました。そして今年5月には第186回通常国会衆議院本会議にて新たな改正案が採択されてきました。しかしながら、以下の5つの項目について依然問題があるため修正を要望します。
1.協議会には地域や市民団体を加えて、議論を公開すべきです
改正案に海岸管理者や国の関係行政機関の長及び関係地方公共団体の長は、海岸保全施設と海岸の保全に関し必要な措置について協議を行うための協議会を組織することができると位置付けられたことは大きな進歩です。
ただし、協議会の設置は、海岸管理者、国の関係行政機関の長及び関係地方公共団体の長に任せるのではなく、必須事項とすべきです。また、協議会の場で行政と学識経験者が議論することは大きな進歩ですが、協議会の構成員には地域住民や市民団体を加えること、さらに協議会は公開として、市民の傍聴や質疑の場を担保し、議事録や会議資料の公開等は必須とすべきです。多くの主体の意見をより広く聴き、合意形成を得ることができるような制度とすることが必要です。
2.海岸協力団体は、多様な主体が加わるべきです
法律の中で、海岸協力団体が位置づけられたことは前進ですが、海岸の保全や利用を考えるうえでは、多様な主体が加わる必要があります。
たとえば、海岸協力団体が調査研究を行うこととありますが、このなかには市民参加型のモニタリング調査を含めることが望ましいです。海の調査ができる人材は絶対数が少ないため、研究者のみでは広く海の調査を行うことが難しい状況であり、調査にかかわる人材の裾野を広げる必要があります。海岸協力団体の枠組みのなかで、市民参加型のモニタリング調査の継続的実施を可能にし、調査結果が政策に反映されるような形が望まれます。
3.エコトーンを意識した総合的管理が必要です
1)防潮堤建設は海岸エコトーンに大きな影響を与えます
海と陸は互いに支え合うなかで生態系を形成しており、特に海と陸、川が出合う場所は生物多様性保全上、大変重要な場所です。異なる環境や生態系が接する場所をエコトーンと呼びます。陸から海への環境が急激に変わる海岸のエコトーンが保たれていることで、生物多様性の恵みを私たちは受け取ってきました。例えば塩害や飛砂の防止や津波や洪水による被害の軽減や、祭りなどの伝統的行事、市民の潮干狩りや精神的安らぎの提供などが、生物多様性に支えられています。防潮堤を作ると、海岸のエコトーンが壊され、環境変化によって生態系が大きな影響を受けます。
日本の海岸線の47% (15,075 km) はすでに人工海岸および半自然海岸となっており、自然海岸は貴重です(文献1)。現在残っている砂浜や海岸湿地は可能な限りそのまま残すことが、地域の豊かさ、子どもたちの未来、日本の国益に大きな恩恵をもたらします。防災機能は、長大なコンクリート素材の構造物を、貴重な砂浜につくらなければ確保できないものではありません。
2)地域全体を総合的な視点で見ることが必要です
行政区分を超え、国土交通省が管轄する土地を超えて、地域の自然環境を総合的に見ることが必要です。沿岸域を総合的に見ると、地域の小高い山や海岸林、森林などが防災機能を有する場合もあり、既存の道路等の構造物が防災機能を有する場合もあります。それらの機能を活かし、既存の施設を最大限利用する形で、これ以上の自然環境へのインパクトを最大限に減らす方法を取っていただきたい。また自然の地形を活かして、構造物を作る位置を大きく陸側に寄せるセットバック工法を導入することにより、構造物の規模を小さくすることも可能です。(p13-14、文献2)。
3)土砂の調達は慎重に検討してください
防潮堤を作るには多量の土砂が必要になります。緑の防潮堤を作る場合にはさらに盛土用の土も必要となります。法律には事業に用いる土砂の調達先が明記されていませんが、日本では埋立やコンクリートを作る工事用の土砂が不足しており、調達元の自然を破壊することが知られています(文献3)。また調達先によっては、土砂とともに移動する外来種の混入の問題も生じます。外来種が混入すると生態系のバランスを崩し、農林水産業への影響を与え、人の健康に影響を与える、などの問題が生じることが明らかになっています(文献4、文献5、文献6)。これらの問題を起こさないためには、基本的に土砂は地域の外には動かさないことが必要です。法律に土砂の調達先については慎重に検討する必要がある、と明記してください。
4)「緑の防潮堤」を免罪符として使わないでください
今回、改正案で海岸保全施設に加えられた「緑の防潮堤」は、コンクリート素材の防潮堤の上部に盛り土と植樹を行う、コンクリートで作る防潮堤を前提としたものです。
「緑の防潮堤」は環境に与える影響が小さい訳ではなく、通常の防潮堤と同じくエコトーンを壊す構造物です。言葉が与える印象から環境に優しいと思われがちですが、「緑の防潮堤」も環境を破壊するものと認識し、免罪符のように使わないでいただきたい。まずはエコトーンの破壊を避けることを原則とすべきです。
4.防護・環境・利用の調和のとれた総合的な海岸管理を行ってください
1999年の改正を受けて、海岸法の目的に、これまでの「防護」に加え、「環境」と「利用」の2つが追加されました。
目的に含まれる要素を理解することは重要ですが、現状は、防護、環境、利用と3つの要素に分解し、それぞれ別々に対応がなされがちです。例えば砂浜の砂丘のように、防護・環境・利用と重複した機能を持ちあわせるものが、海岸の自然環境には多数あります。3 2)で記しましたように、地域の環境を総合的に見て、効果のある施策がなされるようにしていただきたい。
5.次回の見直しの時期を明記すること
いかによくできた法律でも、社会の状況や科学・技術の進歩などにより、制度の見直しを検討する必要が生じます。他の法律には改正を5年おきに行うなど見直しを義務付けているものがあります。本法律についても、見直しの時期を明記する必要があると考えます。
参考文献