「沖縄県環境影響評価条例の改正の骨子案」へ意見を出しました。
「沖縄県環境影響評価条例施行規則の改正の骨子案」に対する意見(PDF/201KB)
2013年5月12日
沖縄県環境影響評価条例施行規則の改正の骨子案に対する意見
公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 亀山 章
公益財団法人日本自然保護協会(NACS-J)は 長く沖縄各地の自然保護に携わっている立場から、以下の意見を申し述べます。
1.沖縄の自然環境と環境影響評価のあり方について
沖縄県環境影響評価条例の改正に伴う、「沖縄県環境影響評価条例施行規則の改正の骨子案」によると、電子縦覧の義務化や、配慮書と方法書段階での説明会の実施、戦略的環境影響評価(SEA)に向けた配慮書手続きなどが実施されることは評価できます。しかし、これが沖縄県の条例であることを考えると、沖縄各地で行われてきた事業や現在進行中の事業に伴い、浮き彫りになってきた問題点の解決には不十分な点があります。
沖縄県内でこれまで行われてきた環境影響評価は、環境影響評価法に基づくものと環境影響評価条例に基づくものの両方がありますが、環境保全と住民参加という目的が果たせていないケースが多くあります。そのため、住民等の反対運動が続き、また訴訟にまで発展している事実に真摯に対応していただきたいと考えます。
今回の環境影響評価条例の改正への取組みが、国の環境影響評価法の一部改正(平成23年4月27日)を受けたものであることは理解していますが、国の改正に倣って終わるのではなく、沖縄の脆弱な島嶼生態系を保全できる沖縄県独自の条例にしていくことを期待しています。
沖縄は日本の中でも生物多様性が豊かな場所であり、世界自然遺産登録の候補にあがるほどです。沖縄の自然を次世代に渡せるよう維持するために、沖縄県の環境特性にふさわしい方法を取っていただきたいです。
2.事業の集積について
自然環境への影響評価は、近接して同様の事業が実施されている場合、複合的な影響が懸念されます。例えば、単独事業でバードストライクの影響を回避しても、近接して他の風力発電施設がある場合、回避できないことも考えられます。
やんばるの林道のように、規定を下回るサイズの工事を複数箇所で行うような事例に対しても、同様に、一つの地域において複数の林道を併せた形の環境影響評価が必要です。したがって、影響評価は近接する同様な事業がある場合、その事業の影響も含め、総合的に影響評価を行うべきです。
3.市民への公開性について
今回の改正にあたり、方法書、準備書段階での電子縦覧の義務化を取り入れたことは評価できます。インターネットで閲覧可能になったことは評価できますが、那覇港(浦添ふ頭地区)公有水面埋立事業の環境影響評価書のように膨大な書類は、ダウンロードしてプリントアウトするには困難を極めます。
これは、多くの関係者から意見を聞くという姿勢に欠けているので改善すべきであると考えます。文章と図表を別のページにし、図表は印刷せずとも読めるようにする、要約書の記載が本編では何頁にあるか記載する、などの工夫を促す記述を加えるべきです。
4.パブリックコメントの位置づけを明確に
パブリックコメントをきちんと位置づけ、明記し、募集することは、重要なことです。将来的には市民と事業者の双方向のコミュニケーションがとれるよう、募集したパブリックコメントに対する意見の反映状況についての説明会を実施するなどの措置も取っていただきたい。また、今後検討される技術指針の改訂についてもパブリックコメントを募集していただきたい。
5.情報の透明性について
事業者が専門家や有識者の知見を用いる場合には、専門家等の氏名、経歴、専門分野、業績等を記すことを求めます。複数名の専門家が関わった場合には、誰がどの部分を担当したのか、それも明記すべきです。科学の世界では担当者の氏名が明らかにされていない研究成果は信用されません。
科学的な調査や研究は、計画立案、データ取得、データ解析、結論に至るまでの各段階において科学者の能力・経験に著しく依存するものであり、当事者は自分の名誉のためにも責任のある仕事を心がけ、専門外のことには特に慎重を期すものです(粕谷2009)。科学論文等において科学者の名前を明示するのはこのような理由によるものであり、環境影響評価についても同様の厳しさを求めるべきです。環境影響評価の重要な要素である科学性と民主性を大事にする条例となることを期待します。
6.環境影響評価のあり方やプロセスについて
環境影響評価においては、事業を実施しない選択「ゼロ・オプション」を設けること、複数案の検討、情報の後出しや隠蔽の禁止を条例に含めるべきです。また高江のヘリパッドのように、事業の内容は規模の大きな工事であるにも関わらず、環境影響評価の対象から除外されるというケースが二度と起こらないように、事業の名称ではなく事業内容に対して環境影響評価を行うべきです。
さらには沖縄県内の各所で行われている環境影響評価手続きを見ると、環境影響評価のいずれかの段階で、動植物の新種や貴重種の発見など環境保全に関わる重要な事柄の発見や、情報の後出しや隠蔽などがわかる場合が多くあります。このようなことが生じたときには、環境影響評価が進んでいる場合や終了している場合においても、後戻りできるようにすべきです。
7.環境影響評価の範囲について
条例に「配慮書対象事業に係る環境影響を受ける範囲であると想定される地域」という記述がありますが、環境への影響は直接の改変地のみならず広範囲に及ぶ可能性が高いため、環境影響評価の実施にあたっては、この範囲を広めに取っていただきたい。
個別の項目について
1)1(1)風力発電について(骨子案 p1)「出力」と記してありますが、この表現が「定格出力」を意味するのかどうか明記すべきです。
2)1(1)風力発電の規模要件について(骨子案 p1)規模要件1500キロワットは、他事例と比較して妥当と考えられます。しかし発電施設の新設では、付随設備の建設が必要となります。近傍に送電線網がない場合は、送電線の敷設が必要となるし、取り付け道路の敷設も必要となります。新設の発電施設が自然環境へ与える影響はこのように、出力量だけでは図ることの出来ない側面があるため、規模要件に、送電線も含めた付帯設備建設に伴う改変面積も要件として定めるべきです。
3)1(1)風力発電の規模要件について(骨子案 p1) 兵庫県の事例(「県下一律1500kW 以上、自然公園等特別地域500kW以上」と記載)のように自然公園等に関しては、特別な配慮が必要です。
4)2(2)イ(ア)配慮書の公開について (骨子案 p2)「配慮書事業者のウェブサイトへの掲載」と骨子案にはありますが、「沖縄県環境影響評価条例 改正後のフロー(案)」には公開の方法等が明記されていません。離島が多い特殊な事情を鑑み、地元住民であっても地元を離れている場合、また一般からも意見を求めるという条例の記述を実現するためには、フロー案にも電子縦覧という記述を記載すべきです。
参考文献:環境省。第6回環境影響評価制度総合研究会 資料2、条例に基づく風力発電所の環境影響評価の実施状況粕谷俊雄(2009)沖縄防衛局の作成になる「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価準備書」に対する沖縄のジュゴン保全の視点からの見解. 辺野古環境影響評価手続きやり直し義務確認請求事件にて.