閣議決定された「種の保存法」改正法案は、いまだ期待に届かず
(NGO共同声明)種の保存法の改正法案は国会審議を尽くすべし(PDF/15KB)
(別紙)種の保存法改正法案に対するNGOの提言(PDF/170KB)
NGO共同声明
2013年4月19日
閣議決定された種の保存法改正法案は、いまだ期待に届かず~不十分な改正法案は国会審議で修正すべき~
本日閣議決定された種の保存法の改正法案は、目的規定で「生物の多様性の確保」に言及し、罰則を引き上げ、販売目的の広告を規制(インターネットを含む)する点などが注目されるが、20年以上にわたり期待されていた抜本的改正にほど遠い。
罰則の引き上げは歓迎される。しかし、それに頼るだけでは、希少種の保護はもちろん、希少種をめぐる犯罪の抑止効果も限定的なものにとどまってしまうだろう。
もともと、この法律の対象となる「国内希少野生動植物種」は現時点で90種だけである。環境省の第四次レッドリストに掲載されている3,597種の絶滅危惧種の2.5%にすぎない。
ところが、4月3日の自民党・環境部会において、環境省は2020年をめどに300種増やし、390種とする方針を示した。環境省は『生物多様性国家戦略2012-2020』の中で、2020年までに25種を増やす程度としていたことを考えれば、この目標値の大幅な引き上げは好ましい方針の転換であり、高く評価できる。これはNGOなどが求めていた種の指定の拡充に応えたものと受け止めている。(報道によれば、2030年までにさらに300種 を追加するとも言われている。)
ただ、種の指定を迅速に進めるための法的手続きの明確化など残された課題は多い(科学委員会の設置等)。したがって、今回、閣議決定された改正法案では不十分であると考えている。たとえば、「科学委員会」の設置のためには、新たな条文を設ける必要がある。
「国際希少野生動植物種」の国内流通管理についても、個体登録制度の大幅な改善、取引事業届出制度の改善等により、違法な取引の抜け穴をふさぐべきだが、今回の法改正ではその要請に到底応えられない。
これから国会審議が始まるが、改正法案の修正に踏み込むことを期待している。かねてからNGOや第二東京弁護士会、日本生態学会などは、種の保存法の大幅な改正を求めて要望書や意見書を政府に提出してきている。上記の2020年までの300種の追加指定、および2030年までの追加指定の意欲的な目標についても、国会という場において、環境大臣等が明快に答弁し、公約とすべきである。
法案修正を視野に入れた、実の多い国会審議となるよう、参議院・衆議院の両院における議論のゆくえを注視している。
※種の保存法改正法案に対する具体的なNGOの提言は、下記をご覧下さい
【声明賛同団体】
日本自然保護協会/日本野鳥の会/トラフィック イーストアジア ジャパン/イルカ&クジラ・アクション・ネットワーク/生物多様性保全・法制度ネットワーク/トラ・ゾウ保護基金/WWFジャパン
種の保存法改正法案に対するNGOの提言
2013年4月19日
種の保存法の抜本的改正に向けて
【国内希少種の保存について】
①種の保存の必要性が特に高いものについては、政府が指定の義務を負うものとすること
本邦に生息または生育する絶滅のおそれのある野生動植物種のうち保全の必要性が特に高いものは「第一種国内希少野生動植物種」として必要的指定とする(それ以外の指定種は「第二種国内希少野生動植物種」として、現行法どおり任意指定)。指定の理由がなくなったときは指定を解除又は変更するものとする。
②種の指定の仕組みを改善するために専門家による科学委員会を設置すること
政令指定種選定の基準・方法・プロセスが、現行制度では不透明である。公正性、透明性を持った常設の科学委員会を別途設置し、指定候補リストを科学的知見に基づき、また国民からの情報を十分に反映して作成する。これにより、種指定の手続きの透明化を図るとともに、指定を促進することができる。
③国民による種の指定提案制度を設けること
京都府、徳島県、奈良県、島根県は、府民・県民からの種の指定提案制度を設けている。「京都府絶滅のおそれのある野生生物の保全に関する条例(平成19年10月16日)」は、第10条で「府民は、規則で定めるところにより、理由を付して、指定を行うよう知事に提案することができる。」としている。種の保存法にも同様に国民からの提案制度を設けるべきである。
④国内希少種保全のための法定計画制度(回復戦略及び回復行動計画)を創設すること
国内希少種の絶滅の防止と絶滅のおそれが解消された状態への回復を図るため、科学性、市民参加および透明性が確保された戦略的計画制度(回復戦略及び回復行動計画)を創設する必要がある。絶滅のおそれを解消するために必要なこと、それらを進める手順等は種ごとに事情が異なるからである。保護増殖事業や生息地等保護区は、種ごとの回復計画のツールとして位置づけ、積極的に実施、指定が進められるべきである。
⑤生息地等保護区における公共事業(国の機関と地方公共団体が行う行為)に対する規制を不当に緩和しないこと
公共事業が絶滅危惧種に与える脅威が民間の事業に比較して少ないとする理由はない。現行法が定める通知や協議義務だけでは、環境省の意見が無視されるおそれも否定できない。
【国際希少種の国内流通管理について】
⑥個体等の登録手続きを全面的に見直すこと
虚偽登録、登録票の流用、登録実績のある者がそのことを隠れ蓑にして無登録個体の譲渡を行うことを効果的に防止するためには、登録の要件、実施(申請において、登録要件を具備していることを証明するために公的機関が発行又は確認する証明書を提出すること、登録と引き換えにする個体識別とその表示を行なうこと等)、拒否、更新、変更の届出、登録の取消し及び抹消に関する規定を定めること、登録を受けた者を報告徴収及び立入検査の対象に含めることが必要である。
申請事項、登録個体等に生じた変更に関する一部の手続きが今回の改正で対応の見込みであるが、未解決の課題が依然として多い。
⑦特定国際希少野生動植物種の取扱い業者(象牙業者、べっ甲業者)の届出制を登録制とすること
事業者による違反行為を防止するためには罰則の強化だけでなく、営業そのものに十分なペナルティーを科せるようにする必要がある。そのためには、事業を登録制とし、登録の拒否、更新、登録の取消し等の規定を設ける必要がある。また、個々に登録される器官(全形を保持した牙、甲羅)に関する違反についても、事業者としてのペナルティーの対象とすべきである。さらに、業者の登録簿は公表されるべきである。
⑧交雑個体を譲渡(ゆずりわた)し規制の対象とすること
現行法上、希少野生動植物種間、又は希少野生動植物種及び非該当種間の交雑個体は、譲渡し等の規制対象とならない。ところが、交雑のない個体と交雑個体との識別は、種によっては技術的に困難な面がある。そのため、種の保存法違反事例の圧倒的多数を占める譲渡し等の規制の実効性を確保するためには、交雑個体の譲渡し等も規制の対象とする必要がある。
⑨国際希少野生動植物種の個体等の占有について届出制度を創設すること
登録されない在庫が国内に多数存在し、違法な流通の温床になっているおそれがある。そこで、登録なく所持されている個体等については、占有を開始してから6カ月以内に、環境大臣に届け出なければならないものとする(ただし、改正法施行日から3年間は、届出を認める)。占有されている個体等を網羅的に把握することにより、非合法的流通の温床を縮小することができる。
【全般について】
⑩海生哺乳類について、法律上の根拠なく種指定の対象から除外しないこと
海洋生態系のキー・スピーシーズとしての海生哺乳類が、省庁間覚書によって国内希少種指定の対象から除外されてきた経緯がある。そのような取扱いが法律の趣旨に反することを改めて明確にするとともに、水産庁が行う資源評価も他の科学的情報とともに活用しつつ、陸生種と区別することなく科学的評価に基づく指定を進めるべきである。
⑪第3条を削除すること
そもそも、財産権の行使や公共事業の目指す公益実現を無制限に許すならば、種の保存という本法の目的自体が成立しなくなる。種の保存とそれらの権利・公益との調整が必要なことは当然のことであるにもかかわらず、あえてこのような規定を置くということは、種の保存を軽視することを宣言するようなものである。また、個々の規定の厳しい運用を阻害するおそれもある。
⑫保全のために十分な予算措置を担保する
条文に法制上、財政上および税制上の措置を明記すべきである。我が国の保護増殖事業の予算は米国政府の予算と比較して非常に少ない。生息地等保護区の指定を下支えする措置として、税制上、財政上の優遇措置も検討すべきである。
⑬都道府県の取り組みを努力規定とすること
地域主権が叫ばれているが、自治体の希少種保全に関する条例の制定は進んでいない。31都道府県で制定され、16府県で未制定となっている(平成23年10月現在、環境省公表資料による)。条文で、都道府県は希少種保全に向けてさらに積極的に取り組むよう求める、より重い責務を規定すべきである。
【提言団体】
日本自然保護協会/日本野鳥の会/トラフィック イーストアジア ジャパン/イルカ&クジラ・アクション・ネットワーク/生物多様性保全・法制度ネットワーク/トラ・ゾウ保護基金/WWFジャパン