沖縄県総合沿岸域管理計画(案)に対して意見を出しました。
2013年3月13日
沖縄県総合沿岸域管理計画(案)に対する意見
全体を通じて
計画が作られることは画期的であり、大いに期待している。海に囲まれる島々という特性から、特に沖縄の人にとって沿岸域は大事であると思う。だからこそ、計画全体を見ても、手付かずの自然や手付かずに近い自然をまず優先して保全していくという姿勢が見えないことが問題である。本計画が掲げている「沖縄らしさ」を維持するには、生物多様性の保全が必須であるにも関わらず、沿岸の開発行為を認めることは、環境へ不可逆的な損傷を与えることを認識していただきたい。またp3の計画の基本方針の部分や本計画全体において、沖縄県の世界自然遺産への取組みとの関連について記述がないが、沿岸の保全を進める上でその議論は必要である。「沖縄21 世紀ビジョン基本計画」(2012 年)や「生物多様性 おきなわ戦略(案)」(2013 年)に示されている世界自然遺産への取組みと、同計画案の関連を示すべきである。
P1 序論 について
「近年、陸域からの赤土や生活排水、オニヒトデの異常発生、海岸漂着ゴミ等への対応が課題となっている」とあるが、埋め立て工事や沿岸部の改変を伴う工事が沿岸環境にダメージを与えている事実を認識すべきである。
P14 について
農地からの赤土流出量が多大なものであるからこそ、個別の農家に責任を取らせることはあまり効果的ではないと考える。一定のまとまった単位にある農地(集落など)が行政等との連携のもとで赤土流出対策を取れるようにするシステム等の導入が必要である。
P16 について
農地からの赤土流出量が圧倒的に大きいものの、開発事業に伴う流出も同様に大きいので、効果的な対策を取る必要があるが、本計画では具体策が見えてこない。また米軍基地由来の赤土流出については「特に策定された防止対策」はないとのことであるが、環境への大きな被害が出ているので、至急現状を把握し対策を取る必要がある。
P22-24 について
赤土対策として浸透池や調整池などの対策が取られており、大きな粒子の土砂の流出防止にはある程度の効果があがっているものの、細かい粒子の流出の防止はできていない。また汚水に関しては、汚水処理施設は整備されていても、離島部などでは個人の住宅や事業所などからの汚水処理施設への接続率が低い。農地からの赤土流出も、離島部の汚水処理施設への接続率の低さも、農家や住民の個人の努力に頼っていてはいつまでも解決はできず、その間もサンゴ礁生態系がダメージを受けている。県民の財産であるサンゴ礁生態系を保全するという視点で、公的資金等で解決すべきである。
P29-30 社会資本整備による利活用について
古くから防潮林や石積護岸を活かした保全手法が行われてきたと認識しながらも、防護機能を主な目的とした強固な保全施設を作ることや人工リーフや養浜等を保全方法として認めている。防護を目的とした巨大な防潮堤が何の効果もなく崩れた東日本大震災の事例から学び、海と陸の移行帯(エコトーン)を維持し、強固な保全施設に頼らない方法を取ることが生物多様性保全上、大切である。(参照:日本自然保護協会(2013))。
P29 社会資本整備による利活用について
戦略的環境影響評価(SEA)の導入は評価できる。しかし本計画の環境影響評価に関する記述には、沖縄各地で行われてきた埋立事業や那覇空港滑走路増設事業等の現在進行中の計画における問題点が含まれていない。これまでの環境影響評価が機能していない部分があることを踏まえることが必要である。「開発段階からできる限り生態系への影響を軽減する配慮が求められている」「影響の回避・低減・代償措置の検討が求められている」とあるものの、これらの措置が成功している事例はほとんどない。
P33 観光業による利活用について
沖縄における観光を維持・発展させるとあるが、観光客の人数は無限に増やして良いという訳ではない。環境には収容力の限界があることを認識すべきである。課題としてあげられている「自然・文化環境への配慮」や「世界規模の環境問題に対し、責任ある態度と行動を示す」という記述が具体的に何を意味するのか明確にする必要がある。
P38 サンゴ礁生態系の保全・再生について
海の調査ができる人材の絶対数が少ないため、調査にかかわる人材の裾野を広げる必要がある。ビジターセンターのレンジャーや、地域のキーパーソン、地域の市民団体などが、市民にモニタリングの大切さを教え、調査に参加出来るようにする人材育成システムの導入も検討すべきである。
P38サンゴ礁生態系の保全・再生、第5章について
本計画の「モデル地域」と「海洋保護区」との関係が不明確である。「海洋保護区」という言葉を定義することが必要。日本自然保護協会の指摘(2012年)にあるように生物多様性保全が担保されない海洋保護区を設置するのでは意味がない。
P43 個別目標1.5について
利用者のアクセスに配慮しスロープや階段を整備することが計画されているが、そのような海岸整備を行うことは生物多様性保全にとってマイナスとなる。自然海岸は場所によってはアクセスが難しい場合もあるが、その不便さも含めて自然なのであるから、そのことを含め、自然と付き合う方法を教える教育プログラムが必要である。
P47 計画の推進について
総合沿岸管理は、多様な主体が加わりながら実施すべきものであり、県内で活動している数ある団体のうちp55に名前が出てくる団体のみではないと思われる。本計画案は既存計画等をコンサルタントがまとめたものと思われるが、これは県内でのさまざまな活動の現状を把握しているものではなく、実践者のニーズを反映したものではない。今後、多様な主体が参画しながら進めていくシステムを作ることが必要である。
P47 計画の推進について
関係者の中には書類を読むことや会議に出ることが不得手な者もいる。多様な立場を理解するには、会議やパブコメ募集をのみならず、さまざまな方法(個別訪問、アンケート等)を含めて意見を吸い上げ、ニーズを反映していく必要がある。
P54 モデル海域について
モデルを選定することにより保全を重点的かつ効果的に進めようとしている姿勢は評価できるものの、今回用いられたモデルの選定方法は適切ではない。例えば沖縄島の北部および中部の東海岸から1つも該当する場所がないことは不自然である。大浦湾や泡瀬干潟等の科学的調査の結果を見ても、沖縄島北部および中部の東海岸には生物多様性豊かな場所が多く存在する。
参照:
日本自然保護協会・沿岸保全管理検討委員会(2012)「日本の海洋保護区のあり方 生物多様性保全をすすめるために」
https://www.nacsj.or.jp/katsudo/wetland/2012/05/83.html
日本自然保護協会(2013)海岸堤防・防潮堤復旧事業と海岸防災林復旧事業に関する意見書
https://www.nacsj.or.jp/katsudo/higashinihon/2013/02/post-13.html