沖縄県恩納村に計画された複合リゾート開発に対する意見書を提出しました。
恩名通信所跡地リゾート計画に係る環境影響評価方法書~屋嘉田潟原への自然環境保全上の見地からの意見(PDF/273KB)
意見書
(沖縄県環境影響評価条例第8条第1項の規定による)
2011年6月29日
方法書の名称:恩納通信所跡地リゾート計画に係る環境影響方法書
公益財団法人 日本自然保護協会
開発法子 安部真理子
恩名通信所跡地リゾート計画に係る環境影響評価方法書~
屋嘉田潟原への自然環境保全上の見地からの意見
1.隣接する海域への影響は厳重に回避し、海域の保全を徹底すること
事業地南西に隣接する沿岸海域は、通称「屋嘉田潟原(やかたかたばる)」と呼ばれ、干潟、海草藻場の広がる貴重な場所となっている<写真1>。特にリュウキュウスガモ群落は開花が見られるなど良好な状態に生育しており特筆に値する(2005年確認)<写真2>。沖縄島では近年埋め立て等により海草藻場が激減する中、大規模な海草藻場が残り、特に西海岸では最大級の海草藻場の1つとなっている<図1>。更に事業地北側に位置する万座毛の浅海域ではアザミサンゴやミドリイシ類など多くの種類のサンゴの小さな群体が生息していることが確認されている。
また、法制度面においても、この海域は沖縄海岸国定公園、環境省の日本の重要湿地500、沖縄県自然環境保全指針ランクⅠに指定されているように、厳正な保護が求められていることをしっかり認識する必要がある。
2.海域への影響回避を徹底するために、調査範囲を拡大し、海域の水質、海草藻場、底質、底生生物の調査を詳細に行なうこと
本方法書にて計画されている海域生物(動物・植物)の調査範囲は対象事業実施区域周辺のごく狭い海域のみであるが、隣接する屋嘉田潟原や万座毛などへの影響も出ると考えられる。周辺の生態系への影響、つまり干潟・藻場・サンゴ群集への影響を正確に予測、評価するために、水質、底質、底生生物、海草藻場それぞれの調査地点を、現地点に加え、沖合い方向と南北側に範囲を広げ地点を増やす必要がある。
屋嘉田潟原については、その自然環境の重要性に着目した市民や研究者による調査データが蓄積されている。したがって、環境影響評価を実施するにあたっては、これら市民、研究者の意見を聞き、よりよい環境配慮をとることができる調査方法を選択し、予測・評価を行なう必要がある。
3.海岸植物についても調査を行ない保全を図ること
海域と陸域をつなぐ海岸には、海岸にしか生育できない独特の植物が生育している。本事業地に隣接する海岸でもオオハマボウ等の海岸植物が確認されている(2006年)<写真3>。事業地及び隣接する海岸部に生育する海岸植物について現状調査を実施し、影響を把握する必要がある。
4.サンゴ群集についても調査を行い保全を図ること
平成21年度サンゴ礁資源情報整備事業(沖縄県文化環境部自然保護課)の結果では事業地をはさみ屋嘉田潟原から万座毛の沖合いにおいて被度25-50%のサンゴ群集が確認されている。沖縄島西海岸一帯のサンゴ群集は1998年の白化現象の影響を大きく受けたものの長期間かかって回復している途上であり、事業地付近の海域に生息するサンゴ群集は沖縄島周辺では被度が高い方であると考えられる。従って海域周辺のサンゴ群集の現状を把握し、影響を予測することが必要である。
5.「人と自然との触れ合い活動の場」の調査は、施設だけでなく干潟そのものを利用し、愛着をもっている市民の意見を聞いて、影響を把握すること
屋嘉田潟原は、干潟遊び、貝採り、貝類等底生生物の研究、海草の研究、学校教育など以前から地域の人たちに利用されてきた場所である。万座毛も多くのダイバーや研究者に利用されてきた場所である。これら人々の利用は、「人と自然との触れ合い活動の場」の調査において最も重視されなければならない。したがって、調査ではこれらの人たちの思いや考えを丁寧にヒアリングして、影響を把握する必要がある。<写真4>
以上
写真1 屋嘉田潟原の干潟、海草藻場
写真2 屋嘉田潟原のリュウキュウスガモの花
写真3 屋嘉田潟原後背の海岸に生育するオオハマボウ
写真4 屋嘉田潟原にて貝採りをする人
写真5 屋嘉田潟原にて貝類の調査をする人
図1 沖縄島の海草藻場の分布
環境庁第4回自然環境保全基礎調査(1994)、第5回自然環境保全基礎調査(1998,1999,2000,2001)に基づき日本自然保護協会作成