沖縄「嘉陽海岸住民参加型エコ・コースト事業」に対し、意見書を提出ました。
沖縄「嘉陽海岸住民参加型エコ・コースト事業」に対する意見書(PDF/120KB)
2011年6月3日
沖縄県知事 仲井眞弘多 殿
沖縄県北部土木事務所長 神村美州 殿
公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 田畑 貞寿
沖縄「嘉陽海岸住民参加型エコ・コースト事業」に対する意見書
沖縄本島・東海岸に位置する嘉陽海岸は、当協会が2002年より市民参加型海草藻場モニタリング調査「ジャングサウォッチ」を行い海草藻場の豊かさを証明してきた地域である。そして、ジュゴンネットワーク沖縄の調査では1997年の調査以来、ジュゴン(天然記念物、環境省レッドリスト絶滅危惧ⅠA類)に餌場として安定的に利用されていることを確認し、北限のジュゴンを見守る会チーム・ザンの調査でも同様の結果を得ており、重要な海草藻場生態系であることが明らかになっている。
また、本海域は沖縄県自然環境保全指針「自然環境の保全に関する指針[沖縄編]」(沖縄県,2001)で評価ランクⅠ「自然環境の厳正な保護を図る区域」とされている。
以上のように、本海域は生物多様性の保全上も重要な地域である。このような地域で進行する「嘉陽海岸住民参加型エコ・コースト事業」は、住民生活の防護と両立させるうえでも、より一層の「自然環境への配慮」と「住民参加と情報公開」を徹底させるべきである。
1.高波、越波や飛砂の原因の究明を十分にすべき
高波、越波、飛砂、海岸侵食、保安林や海浜植物の減少などの現象の原因が十分に究明されていないうえに、中長期的な海浜の浸食、堆積の検証も十分ではない。設置されている推進協議会(以下、協議会)においても、防風林(保安林)の減少や地先で行われる海砂採取との関係などが指摘されているように、歩道整備なども含む護岸整備が根本的な解決策にはなるとは思われず、今後の事業の進捗と内容は慎重に検討し直すべきである。
2.海岸植生や保安林の機能を向上させる
協議会では、在来種による植生の修復や保安林を保全し被害を抑えることを優先すべきとの意見もあることを受け、「既設保安林の整備・機能強化について保安林管理者と調整を図る」としているが、整備案には何も反映されてはいない。環境管理の縦割りを廃し、保安林管理者の県農林水産部(出先:北部農林水産振興センター)と連携し、統合的な海岸管理の積極的な検討をすべきである。
3.幅広い住民意見の反映と公開性を確保する
事業は住民参加を謳いながらも、実際には地域住民は3名しか協議会協議員に含まれておらず、事業の説明会なども実施されていないのは、住民参加の精神に反する。また第1回協議会の提案を受けて住民への聞き取り調査はすでに実施されているが、実際に何名を対象に行ったのかが明記されていない。嘉陽の住民は、海岸の変遷の様子を生活の記憶として持ち、また現地調査を行う地域NGOは現状の科学的把握に努力している。根本的な原因の究明や事業のあり方を共有する意味でも、協議会や途中経過の説明を公開の場で行うなど透明性の確保が必要である。早急に、嘉陽の住民や関係する市民・NGOの意見を幅広く聞く機会を設けるべきであり、これについて当協会や地域NGOも協力することができる。
4.より広い範囲の専門家の意見を導入する
現在、協議会の有識者の専門内容は限られているため、考慮されなければならない海への影響評価が不十分である。ジュゴン、海草藻場や海洋生態系やサンゴ礁生態系などを専門とする複数の専門家の意見も取り入れる必要がある。
5.環境調査・予測評価を徹底する
波打ち際(汀線)には陸域から流れる地下水の滲出(しんしゅつ)があり、塩分濃度の低い環境を好む底生生物などが生息している。このような生息環境は、これまでの親水護岸や人工ビーチを含む海岸整備によって失われてきた。本事業でも現状よりも大きく深いコンクリート護岸、修景や利用のための石積みや覆土は、地下水の水位や水脈を変え、汀線の環境に影響を及ぼすことが懸念される。事前調査はもちろんのこと環境モニタリング調査に項目「地下水」と「生態系」を加え、地下水位も含めた生態系を把握したうえで影響を評価すべきである。
このように、平成23年度嘉陽海岸環境調査業務委託の調査内容に記されている調査項目では不十分であり、短期的・長期的な周辺地域に対する予測評価を行う必要がある。