西表島の森林生態系保護地域が 拡大されました
会報『自然保護』No.521(2011年5・6月号)より転載
地域住民と利用についての協議を重ね範囲を設定
沖縄県八重山地方にあり、イリオモテヤマネコやカンムリワシの生息地として知られる西表島。林野庁九州森林管理局が管理する西表島の国有林について、2月22日、那覇市内で第3回西表島森林生態系保護地域設定委員会が開かれ、保護地域の拡大案をまとめました。
西表島の保護地域は1991年に設定され約20年を経過していましたが、範囲は浦内川の上流部に限られていました。これでは八重山の固有種・固有亜種の生息地や島の周縁部(低標高地や海辺)をカバーできておらず、生物多様性の保全に対して不十分なものでした。03年に林野庁と環境省とで実施した世界自然遺産候補地に関する検討で西表島を含む琉球諸島も挙げられましたが、十分な保護担保措置が課題であり、解決策のひとつとして保護地域の拡大が必要でした。
NACS-Jは、1980年代に白神山地(青森県・秋田県)の保護を訴えていた時期から、西表島の約9割を占める国有林での保護地域の充実を訴え、これまでの保護地域がつくられてきました。こうした関係からこの設定委員会にも参加し、拡大地域の提案を行いました。
委員会の拡大案を受け、森林管理局は図のように保存地区(コアエリア・核心地域)と保全利用地区(バッファーエリア・緩衝地域)を拡大し、両地区合計面積は2倍になり、保存地区は以前の保全利用地区からの格上げを含めて3倍強に、保全利用地区も約1700ha増えました。
協議の中で時間をかけたのが、地域住民に過度の支障がなく、日常的な自然利用の場所も確保するということです。特に集落近くでの山菜採りや、特定の場所でのイノシシ猟も、保全利用地区の一部ではルールを定めて認めていくこととしました。島の猟友会の人々も、森の番人として自然の生態を守るという気持ちに変わりなく、生物多様性という新たな価値観のために必要な地域は利用を取り止めることに同意いただけました。
また、浦内川の、軍艦岩やマリュドゥの滝といった保護地域の隣接地は、レクリエーションのための自然休養林に設定されていますが、保護地域との関係や、自然保護上重要な地域へのエコツアーの利用にあたっては、保護地域の管理計画を新たに策定して使える地域を決めることとしました。林野庁は09年に保護林通達を改正し、設定された保護林に対する保全管理委員会を設置して、地域と専門家の意見を反映させながら保全管理を図っていくことにしましたが、この委員会を西表にもつくることになりました。保護地域と地域の人の行動や、レクリエーション利用を進める業者らとの関係は、ここで整理されることになります。
残る課題は、島の西側に1500haもの分収造林地*があること。戦後に国と製紙会社の間で契約されたもので一方的に破棄できませんが、製紙会社も資源利用の考えはすでにないとのことなので、近い将来、企業として自然保護・多様性保全に貢献する場になるものと思われます。特殊な自然性を持ち、ごく限られた面積しかない「島」という環境の自然保護にご注目ください。
*造林者が契約により国有林の土地に木を植えて一定期間育て、収穫した木を販売し、その収益を国が3割と造林者が7割で分け合う森林。
(横山隆一/常勤理事)