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自然の権利裁判「埋め立て事業の公金支出差し止め」判決を受けて

2010.01.01
活動報告

会報『自然保護』No.513(2010年1/2月号)より転載


判決が意味すること

2009年10月15日、福岡高等裁判所那覇支部は、沖縄県と沖縄市に対し、泡瀬干潟埋立公金支出差止等請求控訴事件に対し、一審判決と同様、埋め立て事業への支出差し止めの判決を下しました。判決を受け、現在工事は中断されています。この裁判は、NACS-Jと協力して泡瀬干潟の自然環境調査と保全活動を行っている泡瀬干潟を守る連絡会など、沖縄県民約600人が原告となった、自然の権利の裁判です。

泡瀬干潟の埋め立て事業の事業主は、国(内閣府沖縄総合事務局)と沖縄県ですが、埋め立てた土地は沖縄市が買い上げて、企業を誘致しリゾート開発による地域振興を図ろうとするものでした。しかし、埋め立てが承認されてから9年が経ち、経済事情も変わり、沖縄市としては埋め立て地の土地利用計画を根本的に見直さざるを得なくなりました。現在沖縄市では、埋め立て地の沖側約半分(第1区域)の見直しを行っており、陸側半分(第2区域)は白紙となっています。

このような状況を、判決では「新たな土地利用計画の経済的合理性がない」とし「漫然と埋め立て工事を継続し、そこに公金を支出することは違法」としました。また今後、県や市が事業続行のため、計画をつくり直して埋め立て免許と承認の変更許可をとろうとする場合についても「これまでの埋め立て計画に対して加えられた批判を踏まえ、相当程度に手堅い経済的合理性の検証を必要とする」と釘を刺しました。

裁判では、NACS-Jや全国の市民グループ、研究者が発表してきた泡瀬干潟の自然環境の調査の成果や、埋め立て事業の問題点、保全の提言などが資料として活用されました。ですから、この「経済的合理性」は、単に費用対効果のことだけを指すものではありません。貴重な泡瀬干潟の自然を失ってまでも行う必要がある事業か、持続的な地域振興が図れるのかといった、事業の必要性、合理性を問うたものと受け止められ、判決は、まさに市民の声を司法が汲み上げ行政に突きつけたものと言えます。

一刻も早い再生の取り組みを

一方、08年11月の一審判決後も工事は続けられ、サンゴが生息する第1区域が護岸で囲われ、閉ざされた海域となってしまったため、環境が激変しています。護岸と航路の浚渫で潮の流れが変わり、地形変化や海草藻場への砂泥の堆積が起きています。そのため海草藻場が埋もれて消失・減少しています。一刻も早く、囲った護岸の一部を取り除き、中の海域に海水の流れを確保するなどの保全措置が必要です。NACS‐Jは、判決当日、協力団体とともに、沖縄担当大臣、沖縄県知事、沖縄市長あてに、埋め立て事業の中止と干潟の保全・再生を求める要請を行い、翌日には国会議員への働きかけを行いました。

100101浅場の小型海草群落で見られた生物量の変化▲浅場の小型海草群落で見られた生物量の変化

100101海草藻場に砂泥が堆積.jpg▲赤丸の中の砂洲が変形したり、海草藻場に砂泥が堆積。(写真:泡瀬干潟を守る連絡会)

国は、この判決を重く受け止め、事業の中止を決断すべきです。新政権は、環境負荷の大きい公共事業は見直しや中止を徹底するとの政策を明示しています。生物多様性を保全する持続可能な社会へと大きく転換するためにも、泡瀬干潟がそのモデルとなるよう干潟の保全・再生実現に向けた活動を進めていきます。

(開発法子/保全研究部)

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