千葉県・三番瀬埋め立て計画(市川二期、京葉港二期工事)に対する意見書を提出
「東京湾に残る自然の海三番瀬の埋め立て計画の撤回を!」
=月刊『自然保護』No.354(1991年11月号)より転載=
しかし、三番瀬には埋め立てが計画されており、廃棄物処理用地、住宅地、海浜公園、下水道処理場、コンテナ埠頭などの用地が予定されています。このままではこれまでノリの養殖や潮干狩などさまざまな利用も含めて保たれてきた環境が失われることになります。そこで、NACS-Jでは、この計画の撤回と、東京湾において自然環境保全上必要な三番瀬の保全を要望する以下のような意見書を提出しました。
NACS-Jでは意見書で要望しているとおり、三番瀬が現状の利用を保証しつつ保全される地域に指定されるよう取り組みを続けてゆきます。ぜひ会員の皆さんのご支援ご協力をお願いいたします。
(NACS-J保護部)
東京湾に残る自然の海三番瀬の埋め立て計画の撤回を!
大規模な埋め立てや生活排水による汚染などによって、かつての姿を失いつつある東京湾。しかし、そんな東京湾にも、本来の自然をとどめる場所がわずか数カ所残されています。千葉県にある「三番瀬」と呼ばれる干潟・遠浅の海はその一つであり、今年(1991年)6月にNACS-Jが開催したEARTH「アース」展のフィールドワークとして「三番瀬を21世紀に残す会」の皆さんに案内していただき、この海の豊かさを体験した会員の皆さんもいらっしゃると思います。
しかし、三番瀬には埋め立てが計画されており、廃棄物処理用地、住宅地、海浜公園、下水道処理場、コンテナ埠頭などの用地が予定されています。このままではこれまでノリの養殖や潮干狩などさまざまな利用も含めて保たれてきた環境が失われることになります。そこで、NACS-Jでは、この計画の撤回と、東京湾において自然環境保全上必要な三番瀬の保全を要望する以下のような意見書を提出しました。
NACS-Jでは意見書で要望しているとおり、三番瀬が現状の利用を保証しつつ保全される地域に指定されるよう取り組みを続けてゆきます。ぜひ会員の皆さんのご支援ご協力をお願いいたします。
(NACS-J保護部)
1991年10月4日
千葉県知事 沼田武殿
千葉県企業庁長 蕨 悦雄 殿
運輸大臣 村岡 兼造 殿
建設大臣 大塚 雄司 殿
環境庁長官 愛知和男 殿
財団法人 日本自然保護協会
理事長 小原秀雄
千葉県・三番瀬埋め立て計画(市川二期、京葉港二期工事)に対する意見書
わが国では、近代以降、海岸の埋め立てをはじめとするさまざまな工事により、全国の自然海岸が次々と人工海岸に変貌し、現在では全海岸の50%以上が人工海岸となってしまいました。その行為は、そこをよりどころとする生物群集に多大な影響を与え、自然海岸本来のさまざまな機能を失わせてきました。
特に干潟は、環境庁の第二回自然環境保全基礎調査(1980)でも明らかにされているように、急速に失われてきた環境です。東京湾はかつて全国でも有数の干潟発達地域であり、例えば都道府県別で見た場合、千葉県は全国で3番目の干潟保有県でありました。ところが昭和20年から昭和53年の間に東京湾の干潟の実に89.2%が失われています。現在東京湾で、海岸域全体として干潟・浅瀬が残されているのは、湾口部の盤洲(小櫃川河口周辺、約1100ha)と富津州沖(約500ha)、湾奥部では、三枚州(東京都葛西沖、約200ha)と、三番瀬(船橋沖、約1200ha)だけとなっています。
ところが、このような現状の中で千葉県企業庁及び運輸省は千葉県船橋沖にかろうじて残る、三番瀬の埋め立て計画を実行しようとしていると聞いております。
この問題に対応するため、(財)日本自然保護協会は、「三番瀬問題作業部会」を設置し、計画の自然環境保全上の影響について総合的に検討してまいりました。その結果、三番瀬は「東京湾奥部最大最後の干潟・浅瀬海岸」であり、メガロポリス東京に隣接する重要な自然環境であるとの判断に達しました。このたびの計画によってこの三番瀬の3分の2を埋め立てた場合、三番瀬に生息する多種かつ多量の生物群集を壊滅させ、その生産能力の喪失から東京湾全域の生物群集に多大な悪影響を及ぼすことが予見されます。また、三番瀬があることでかろうじて維持されている東京湾最奥部の優れた水質浄化機能も失われ、無生物域が大きく拡大されることが予想されます。そしてこのことは漁業生産物などの海の恵みを失うことなのです。
干潟・浅瀬の重要性は、生物の多様性と水質浄化等環境保全機能などの点から国際的にも注目され、折りしも干潟や浅瀬を含め湿地の保護のため、1992年にわが国でラムサール条約締結国会議が開かれようとしています。また「生物の多様性」の保護は、1992年ブラジルで開催される国連環境開発会議の重要テーマのひとつでもあります。このような状況の中で三番瀬の埋め立て事業を実施すれば、国際的な非難も招きかねません。
(財)日本自然保護協会は、三番瀬問題作業部会作成の資料集(現在印刷中、後送)にもとづく理由書を添え、自然環境保全上の観点からこの計画に反対することを表明致します。そして、冒頭に述べた日本の海岸の現状を見直す契機とするべく、東京湾・三番瀬を日本の干潟・浅瀬海岸の典型として保全するべきです。
ついては、関係各機関に対し以下のように申し述べます。
- 千葉県ならびに千葉県企業庁に対しては、公共施設の建設用地は、既存の埋め立て地に求めるよう計画を見直されると共に、「市川二期」「京葉港二期」の両埋め立て計画をただちに撤回し現存の1200ヘクタールの浅瀬環境を、現状の利用を保証しつつ保全する地域として指定して頂けるよう強く要望致します。
これまでの保護法制度の中にこの条件を満たす適切な制度がない場合、当協会には新制度の検討・立案に関する技術的援助を行う用意があります。 - 運輸省に対しては、「京葉港二期」の埋め立て計画の撤回および港湾計画の根本的かつ早急な見直しを要望します。
- 建設省に対しては、「市川二期」「京葉港二期」両埋め立て計画の撤回を要望します。
- 環境庁に対しては、三番瀬の持つ東京湾における自然環境保全上の重要性に基づき、計画変更に向けて関係各機関への強力な指導を要請します。