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普天間飛行場の移設問題で、沖縄県知事に意見書を提出。

2007.01.29
要望・声明

18日自然第115号
2007(平成19)年1月29日

沖縄県知事 仲井眞 弘多 殿

財団法人 日本自然保護協会
理事長 田畑 貞寿

 

普天間飛行場代替施設建設事業に係る
『V字形滑走路案』に対する意見書

普天間飛行場代替施設建設事業に関し、2006年4月、日本政府と名護市は『V字形滑走路案』で基本合意し、翌月には、同案を今後の協議の前提として日本政府と沖縄県の間で基本確認書が交わされた。また、同年11月の沖縄県知事選以後、「普天間飛行場の移設に係る措置に関する協議会」(以下、協議会)がこれまで2回開かれ、飛行場代替施設建設に向けた折衝が本格的にはじまっていることから、ここに意見を述べる。

日本自然保護協会は、移設先とされている名護市・辺野古海域において、市民参加による海草藻場モニタリング調査「ジャングサウォッチ」を行い、その結果を通じてこの海域に良好な海草藻場が分布していることを明らかにしてきた。

これまで、『辺野古沖案(SACO合意案)』『辺野古沖縮小案』『沿岸案』について意見を述べてきたとおり、いずれの案もサンゴ礁上に計画していることが、生物多様性及び自然環境保全上根本的な問題であり、たとえ沖縄県や名護市が求めている『V字形滑走路案』の修正を行っても、辺野古海域のサンゴ礁生態系への影響は免れない。

 
当協会は、2006年1月に、大浦湾で地形・底生生物・海草に関する緊急現地調査を行い、同年3月に提出した意見書で『沿岸案』に対し、

  1. 大浦湾側の特異かつ多様な地形環境に対応した、多様な生物の生息場所が失われる。
  2. キャンプ・シュワブ前に広がる良好な海草藻場、辺野古サンゴ礁生態系に影響を与える。
  3. ジュゴンの重要な生息域における飛行場計画は、種の保存に重大な影響を与える。

という趣旨の問題指摘を行った。

さらに引き続き、2006年9・10月にも現地調査を行い検討したところ、下記のような『V字形滑走路案』による自然環境保全上の問題点が再確認された。また、2007年1月19日の第3回協議会において提示された代替施設建設のスケジュールでは、環境影響評価のための調査期間が約1年と短いうえに、隊舎等の建物の建設工事が環境影響評価の手続き中に着手されるが、このような状態で、生態系への影響を正しく評価できるとは考えられない。

さらに、2006年12月の第2回協議会では、久間防衛庁長官(当時)が、全体工期の前倒しについて言及したが、環境影響評価の手続きを短縮するようなことになれば、それは「環境アセスメントの手続きを定め、調査結果を事業内容に反映させ、事業が環境の保全に十分に配慮して行われるようにする」という環境影響評価法の目的を著しく逸脱する行為であり、法の形骸化を招く行為に他ならない。

このため、当協会は、沖縄県知事に対し、辺野古海域での飛行場計画を受け入れないよう強く要請する。

 

問題点

1.多様な地形環境がコンパクトに存在する大浦湾側埋め立て予定地(計画地東部)の、多様な生物の生息環境が失われる。(図1,2)

当協会の調査によって、大浦湾側埋め立て予定地の海底には、未固結の砂泥からなる急勾配の斜面や、水深10~20mの泥底、外海の影響の強い岩礁といった、多様な地形・堆積物環境がコンパクトにセットで存在していることが明らかとなった。また、従来知られていたウミヒルモ2種とは異なる形態のウミヒルモの生育や、沖縄島ではこれまでほとんど知られていなかった二枚貝類の生息が確認された。これらのことは、この海域の多様な環境が高い生物種の多様性を生んでいることを示している。地形・堆積物環境は、生物にとって生息・生育基盤であるため、地形・堆積物環境の変化は、生物の生息・生育状況に即影響を与えることになる。

(図1)大浦湾 ライントランゼクト・測深調査データ(PDF/83KB)

(図2)大浦湾 ライントランゼクト・測深調査位置図
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2.大浦湾の地形・堆積物環境の多様性は沖縄島では他に類をみない特異なものである。

当協会は、沖縄島のなかでも大浦湾に最も類似する地形を有する場所として東海岸・平良湾を選択し、2006年9月、大浦湾との比較のために地形、貝類の調査を行った。しかし、平良湾には、大浦湾のように砂泥底・泥底・外海の影響の強い岩礁といった多様な環境がコンパクトに存在していなかった。同じ沖縄島北部東海岸に位置し、ほぼ同程度の規模を持つ両湾を比較しても、大浦湾の方がより高い貝類の生息場所の異質性・多様性を有し、代替性のない環境であることが予想される。

3.海草藻場、辺野古サンゴ礁生態系に大きな影響を与える。また、海草藻場の移植は有効ではない。(図3)

『V字形滑走路案』がキャンプ・シュワブ前の浅瀬に広がる良好な海草藻場に与える、直接的(埋め立て等)・間接的(潮流の変化等)な影響により、ジュゴンやウミガメの餌場の喪失だけでなく、辺野古海域のサンゴ礁生態系全体に影響を与えることにつながる。また、防衛省による藻場移植調査について一部で報道されているが、当協会が、2002年11月に沖縄及び北方対策担当大臣、沖縄県知事あてに提出した「泡瀬干潟(中城湾港(泡瀬地区))埋立事業及び海上工事着工に対する意見書」で指摘したように、海草藻場の移植技術は科学的に確立されておらず、泡瀬干潟で行われた海草移植実験は明らかに失敗していることからも、移植は環境保全措置にはなり得ない。

 

(図3)『V字形滑走路案』と海草の分布(2006年10月調査)、ジュゴンの痕跡確認位置
henoko-070129-zu3.gif

 

以上


辺野古・大浦湾に関する検討会議メンバー(50音順)

黒住耐二(千葉県立中央博物館・貝類学)
中井達郎(国士舘大学・地理学)
仲岡雅裕(千葉大学・生態学)
目崎茂和(南山大学・地理学)
吉田正人(江戸川大学・日本自然保護協会理事・生態学)

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