大手の浜における高知県のサンゴ・モニタリング結果
1990.12.12 高知新聞・朝刊に関するNACS-Jのコメント
1.1990年12月12日午前、当協会から県港湾局へ事実関係を問い合わせ、「内部資料」と報道された資料とその結論部分の科学的根拠の資料提供を求めたところ、「資料と根拠については県は持っていない。コンサルタント会社の口頭での報告を信用した」と夕刻に口頭で返答があったのみで、文書資料についてはなんら提供をされなかった。そのためこの内容については、事実確認も具体的検討もできなかった。
現在重要なのは、事実を科学的知見に基づいて客観的に把握した上で考察し、結論を導くことである。公正な科学的資料なしに作られた結論部分だけを一部の外部に出し、恣意的に全体を計ろうとするかのような今回の県の対応は、極めて非科学的な行政態度である。
県によれば、来年一月にはこのモニタリング結果を報告書にまとめるという。当協会としても、内容を詳細に検討すると同時に、内容および調査結果が公正かつ客観的なものか否か現地調査を実施したい。
2.報道では、海域にあるサンゴ全体の40-50%に台風による被害があったようにも受け取れるが、何を使ってこの数字を算出したのか全く不明である。
また調査の仕方も、全体の海域から3地点を定めて、そこに設けられた2m四方の方形枠内の状況を観察した結果であり、汚濁等を含めた環境全体のモニターではないとされている。その場合、仮にサンゴ群体の部分的破損があったとしても、このこと一つで環境全体の評価が変わるものではない。
3.基本的問題として、県当局の「造礁サンゴとその群集に関する認識」には誤りがある。記事によると「内湾性で濁りには強く、波には弱いと言われるサンゴの性質」と港湾局長が発言しているが、本質的に造礁サンゴは汚濁に弱く、海水交換の活発なところが生息環境として適していることは研究者の常識である。ところが高知県のように造礁サンゴの分布の北限近くでは、水温が高くないために造礁サンゴの成長量が少なく、波の作用があまりに強いところでは成長してもすぐに壊されてしまい、サンゴの群体が多数見られる造礁サンゴ群集とはならない。波当りが強すぎず、比較的濁りの少ない手結海岸のようなところに限って、造礁サンゴ群集が見られるのである。
4.台風による造礁サンゴ群集の部分的破損については、これまでも繰り返しおこってきたと考えられる。しかし台風は一過性であり、平常時には造礁サンゴは成長を続け造礁サンゴ群集は回復していく。台風による破損に比べて造礁サンゴの成長量がわずかに優っているのが手結海岸であるといえ、この地域は、波の強さと濁りの程度、サンゴの成長力が極めて微妙なバランスでつりあった特別な環境なのである。
ところが、マリーナ建設は一過性ではなく、微妙なバランスで成り立つ造礁サンゴの生息環境そのものを失わせることが予想される。その場合には、単純な破損とは異なり、造礁サンゴ群集の回復は不可能になる。
5.今年10月提出の当協会レポートでも述べたとおり、この地域では新外港突堤建役工事による海域の仕切りが進み、すでに海水の濁り、流れ等に変化の徽候が見ら れている。台風による群体の破損の程度が事実であれば、すでに着工されている新外港によって助長されていることがまず疑われる。これを明らかにし、現在問題にしている、さらなる海域の仕切りと埋め立てを伴うマリーナ建設と、海域全体のサンゴ群集保全との関係、その妥当性について検討すべきである。
ある部分の一時的攪乱であればサンゴ群集の回復は可能であるが、それが全体かつ長期に渡って及ぶことになる場合には、サンゴ群集全体に回復不能の影響が及ぶ。
6.したがって県はまず、環境に悪影響があればそれに対応するというモニタリング実施の本来の趣旨にのっとり、新外港突堤の存在とこの群体破損の報告についての事実関係、因果関係を明らかにすべきであろう。
7.県は、当協会が県による調査の不備を指摘し、資料の公開と自然海岸全体の保全を提言した意見書についてもいまだ回答していない。そればかりか、関係する海岸林の伐採も一部で強引にすすめている。極めて遺憾な行政対応である。
(1990.12.13 発表)