「ジュゴン・ノグチゲラ・ヤンバルクイナの保全を求める勧告」採択される
<IUCN勧告文(原文は英文。以下は日本の環境NGOによる仮訳)>
CGR3.REC032
日本のジュゴン,ノグチゲラ,ヤンバルクイナの保全
Conservation of Dugong, Okinawa Woodpecker and Okinawa Rail in Japan
日本のジュゴンは,沖縄島周辺のみに生息し,分布域が狭く,個体数が少なく,他の個体群から孤立していること,ノグチゲラ,ヤンバルクイナは,地球上で沖縄島の山原(やんばる)の森にのみ生息する固有種で個体数が少ないことにより,3種ともに絶滅のおそれのある種(ジュゴンはCRD1(日本哺乳類学会1997),ノグチゲラはCR , ヤンバルクイナはEN(環境省2002))であることに留意し,
ジュゴンの最も重要な生息海域のひとつでは,米軍の軍事飛行場と日本の民間航空の軍民共用空港建設計画が進み,魚網による混獲が発生し,ノグチゲラ,ヤンバルクイナの生息地では,米軍用の7か所のヘリパッドと軍用道路の建設計画があり,侵入種のマングース,ノネコによる捕食が発生するなど,これらの3種への脅威が高まり,絶滅の危機がさらに進んでいることを憂慮し,
IUCN第2回世界自然保護会議(2000年10月4-11日 アンマン,ヨルダン)が,沖縄島のジュゴン,ノグチゲラ,ヤンバルクイナの保全のために,
生息地におけるアメリカ合衆国海兵隊の軍事施設の建設と演習に関する環境アセスメントを完遂すること,それにもとづいて,これらの種の生存のために適切な対策を講じるよう勧告(Rec. 2.72)していることを想起し,
日本政府が,ジュゴン,ノグチゲラ,ヤンバルクイナの保全のための調査といくつかの救済策を実行し,生息地における軍民共用空港,ヘリパッド,道路の建設において,自然環境への重大な影響を避けるための最大限の努力を決意したことを歓迎し,
日本政府が,日本の法律にもとづいて環境アセスメント手続きを開始したことを認め,
UNEP/DEWA(2002)によって出版された研究レポート「ジュゴンの現状と国別・地域別の行動計画」における絶滅の警告に注目し,
IUCN世界自然保護会議は,その第3回会議(2004年11月17-25日,バンコク,タイ)において,
1.日本政府に対し,以下のことを要請する;
- ジュゴン生息海域における軍民供用空港建設計画に関する環境アセスメントでは,ゼロ・オプションを含む複数の代替案を検討すること,また,ボーリング調査,弾性波探査などの事前調査も環境アセスメントの対象にすること.
- ノグチゲラ,ヤンバルクイナ生息域における米軍ヘリパッド建設計画に関しては,これを環境アセスメントの対象として,ゼロ・オプションを含む複数の代替案を検討すること.
- 早急に,ジュゴン,ノグチゲラ,ヤンバルクイナの保護区を設置して,保全に関する行動計画を作成すること.
2.アメリカ合衆国政府に対し,以下のことを要請する;
- 沖縄の希少な野生生物生息地におけるアメリカ合衆国軍の基地建設について,米軍の環境管理に関する基準にもとづいて,日本政府と環境保全,野生生物保護の観点から協議すること.
- 要請があれば,日本政府が実施する軍事基地に関する環境アセスメントに協力すること.
2004年11月25日
<タイ・バンコク発:8団体共同プレスリリース>
第3回IUCN世界自然保護会議にて「日本のジュゴン、ノグチゲラ、ヤンバルクイナの保全」勧告が採択される
タイのバンコクで、11月17~25日にかけて開催されていた第3回IUCN世界自然保護会議の最終日、日本の環境NGO8団体が提案した「日本のジュゴン、ノグチゲラ、ヤンバルクイナの保全」勧告が、賛成多数で採択された。
提案を行ったのは、WWFジャパン、日本自然保護協会、沖縄大学地域研究所、日本野鳥の会、日本雁を保護する会、エルザ自然保護の会、野生動物救護獣医師協会、ジュゴン保護キャンペーンセンターの8団体である。
勧告案の採決は、25日午前8:30から始まった本会議で、電子投票によって行われた。投票の結果は、総投票数347のうち賛成255票、反対26票、棄権66票であった。
賛成 | 反対 | 棄権 | |
政府 | 70 | 4 | 42 |
NGO | 185 | 22 | 24 |
採択された勧告を、環境NGO提出の原案と比較すると、事実関係を述べる前文においては、いくつかの字句修正(ジュゴンの分布域の表記、UNEPが出版したレポートからの引用の削除)と、2つのパラグラフの追加(日本政府による調査と保全の努力の表明、環境アセスメントの実施)があった。
具体的な勧告を記述する主文については、アメリカ政府による協力に関して、「要請があれば」が加わり、「研究者の派遣」が削除されるという小さな変更はあったものの、勧告の核心である、環境アセスメントにボーリング調査を含めること、ゼロ・オプションを加えること、保護区を設定し保全計画を作ること、は原文のまま採択された。
今回、このような勧告が採択されたことは、沖縄の希少野生生物の保護にとって、大きな意味がある。日本政府は、勧告に従って、直ちに辺野古海域におけるボーリング調査を中止し、ボーリング調査とゼロ・オプションの検討を環境アセスメントに含めるべきである。
そのためには、現在の方法書を根本的に見直す、あるいは追加の方法書を作成すべきである。また、ジュゴン、ノグチゲラ、ヤンバルクイナの3種の保護区設定と、保護計画策定に具体的に取り組むべきである。
さらに、中長期的には、世界銀行の環境アセスメントに関するガイドラインや、アメリカ合衆国の国家環境政策法を見据えて、日本の環境アセスメント法や制度を、国際的な基準を満たすものに作りかえていくことが求められる。
以上