奥羽山脈を代表する秀峰「秋田駒ヶ岳」は、十和田湖八幡平国立公園の一角をなし、ブナ等の自然林と豊富な高山植物が分布をなしている。
現在、この秋田駒ヶ岳の南麓に広がる広大な自然林等を伐採して、スキー場、ゴルフ場等のリゾート開発が東日本旅客鉄道株式会社によって計画されている。
この南麓には、イヌワシが昔から堂々と繁殖を続けている桧木内川渓谷があり、そのことは、営巣地が昔からあったという地元の古老たちの聞き取り調査、および田沢湖町史からも明らかである。
また、当該営巣地を中心にして数千ヘクタール(これまでの研究では、イヌワシの生活圏には2000ha~6000haが必要といわれている)もの生活圏をつがいで維持し、難題にも引き続いて占有し続けている地域であることがうかがえる。
イヌワシは、文化庁によって1965年に国の天然記念物に指定され、さらに環境庁によって1972年に特殊鳥類の指定を受け、また1989年環境庁発表によるレッドデータブック(RDB)では絶滅危惧種としてリストアップされている極めて重要な種である。
また本種は、わが国の山地性猛きん類の最大種であり、食物連鎖の頂点に立っていることから、その生息・繁殖の事実は本種を支えている当該地域の自然環境の豊かさと安定性を示している。
これまでの記録では、秋田県で本種の営巣が確認されているのは当該地域と鳥海山麓奈曽渓谷の二ヶ所であるが、鳥海山麓では、人為的影響によって1989年より三年連続で繁殖が確認されておらず、現在では当該地域が唯一の繁殖地となるに至っている。
さらに当該地域のイヌワシは、1983年より本年まで連続して毎年1~2羽の繁殖が確認されており、全国的に見ても極めて希有な事例となっている。わが国におけるイヌワシ生息地が各種の開発、森林伐採等によって激減している現状からしても、当該地域の重要性は極めて高い。
今回計画されている東日本旅客鉄道株式会社によるリゾート開発の中でも、とりわけ黒沢野地区及び高野地区に予定されているスキーゾーン、ホテル・コテージゾーン、ゴルフゾーン等のリゾート施設が、当該地域のイヌワシ行動圏の中心域や営巣地周辺に設置された場合、営巣、産卵、抱卵、育すうなど、イヌワシにとって最も過敏な時期と冬季のスキーシーズンが重なるため、騒音、人影等の影響により、繁殖が失敗するばかりでなく、この生息地から将来にわたって姿を消すであろうと案じられる。
さらには、黒沢野地区及び高野地区の開発予定地は、ほぼ全域が、イヌワシの種の維持にとって極めて重要な採餌場所となっており、開発によってノウサギ等の餌の供給源がたたれ、本種の生息ないし繁殖に重大な影響をもたらすであろうことが予見される。
このことは、これまで秋田県がとりまとめた「八幡平、阿仁、田沢地域開発環境配慮指針」(平成元年3月)、及び、「十丈の滝鳥獣保護区におけるイヌワシの生態について」(昭和63年鳥類分布調査)等でも厳しく指摘されている。しかし、その指摘が、今回の開発計画にまったくいかされていないことは極めて遺憾である。
以上のことから、東日本旅客鉄道株式会社は、「田沢湖リゾート開発基本計画」を再検討し、いかに企業活動とはいえ、開発は環境保全に優先するものではないことを自省し、黒沢野地区及び高野地区における各種リゾート開発計画をただちに中止すべきである。
また、環境庁、文化庁、国土庁、秋田県等の関係当局には、激減するわが国のイヌワシ保護のために、同企業に対し早急に適切な行政指導をされるよう強く要請する。
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