ありあけ大調査 第4回結果速報
「底層の貧酸素化と貧酸素水塊の発生は
これまでの認識よりも速度が早いおそれ」
-第4回ありあけ大調査の速報-
有明海漁民市民ネットワーク+日本自然保護協会
1.はじめに
有明海における貧酸素水塊の発生過程を解明することを目的とした「ありあけ大調査」。7月6日に予定していた第3回調査は、台風5号の接近による強風のため、残念ながら中止となりましたが、第4回調査は7月20日から21日にかけて無事、行うことが出来ました。
本報告は、第4回調査結果のうち、海水中の酸素濃度、水温、塩分の結果を速報としてまとめたものです。なお、予定していた調査地点と実際に調査を行った位置に若干のずれがありますが、本速報ではその修正を行っておりません。よって、後日、正式に公表するデータでは、調査地点の修正があることと思いますがご了承下さい。
2.調査方法
1) 調査体制
第4回調査では、当初、7月20日の午後5時から各地点一斉に調査を開始する予定でしたが、午後から天候が悪化することが予想されたため、長崎県有明町地区の14地点は7月20日の8:30~10:00、長崎県島原地区の8地点と佐賀県大浦地区の18地点は7月20日の17:00~19:00、それ以外の地区では7月21日の4:30~7:00にかけて調査を行った。なお、今回の調査では、合計31艘の漁船が出船し、有明海全域の合計77地点で調査を行った(第1回調査結果速報の図1を参照)。
調査地点から持ち帰った海水サンプルは、分析作業を行う7月21日の朝まで冷蔵保存をした。分析作業は、佐賀県大浦、長崎県島原、福岡県大和町の3カ所において、海水のろ過処理とウインクラー法による溶存酸素濃度の分析、塩分(導電率換算による)の測定を行った。なお、第4回目の調査には、合計18名の市民の参加があり作業にあたった。
2) 調査方法
各漁船は割り当てられた調査地点へ赴き、表層(0m)と底層(海底から0.5~1m)の採水を行い、溶存酸素濃度測定(ウインクラー法)のための海水の採取と固定、水温の測定、ケメットDO計による溶存酸素濃度の簡易測定を船上で行った。また、表層・底層ともに、海水を1.5リッター採取し、持ち帰り各種分析に用いた。
3) 海水サンプルの分析
調査地点から持ち帰ったサンプルは、佐賀県大浦、長崎県島原、福岡県大和町の3カ所の分析拠点に持ち込み、研究者および市民ボランティアにより海水のろ過処理とウインクラー法による溶存酸素濃度の分析、塩分(導電率換算による)の測定を行った。ろ過処理した海水およびフィルターサンプルは、植物プランクトン量(クロロフィルa量)の測定、各種栄養塩の測定に用いる。
3.調査結果
1) 水温
各調査地点における表層と底層(海底から0.5~1m)の水温を図1に示した。なお、調査地点とその番号、各調査地点の担当地域に関しては、第1回調査速報の図1を参照して頂きたい。また、底層の水温は、採水後、船上で測定しているため、参考値として扱って頂きたい。
第2回調査結果と比較すると、全地点において表層の水温が1~4℃ほど上昇する傾向が見られる。また、底層の水温に関しても同じ程度の水温の上昇が見られ、表層と底層の水温差は第2回調査結果と同様に、0.5~1.5℃程度にとどまり、水温成層の発達は見られなかった。これは、7月上旬から中旬にかけ九州への台風の接近が相次ぎ、強風により海水の鉛直混合が促進されたためと考えられる。
2) 塩分
調査前日の7月19日に、有明海北部および東部でまとまった降雨があったため、六角川河口(地点19)から筑後川河口(地点25)、矢部川河口(地点29)など、有明海東部沿岸の調査地点において表層および底層の塩分の著しい低下が観測された。また、有明海奥部(竹崎から三池を結んだラインの北側)では、沖合においても表層塩分の低下が観測された。また諫早湾の北岸や湾央においても、表層と底層で0.2~0.3%程度の塩分躍層の形成が観測されている。
3) 溶存酸素濃度
表層の酸素濃度は殆どの調査地点において、6~7.5 mg/Lの範囲であり、飽和酸素濃度(海水1リッターに溶けることができる酸素量)の85~100%程度とほぼ飽和状態にあった。佐賀県鹿島沖の調査地点(20,22, 23, 26)では、飽和酸素濃度の110%であり過飽和状態となっていた。一方、大牟田沖の地点33では、3.5 mg/Lと低い値が観測された。
底層の溶存酸素濃度は、殆どの地域において5~7mg/L(飽和酸素濃度の65~95%)の範囲にある。第2回目の調査結果と比較すると、諫早湾内や佐賀県太良町~鹿島や熊本の沿岸帯において、底層の溶存酸素濃度が0.5~1mg/L程度、低下している。特に諫早湾内では、地点8を中心として底層の貧酸素化が広がっていると考えられるが、第2回目の調査では4.2 mg/Lであったのが第4回調査では3.7mg/L(飽和濃度の55%)に低下し、また、溶存酸素濃度5mg/L以下の範囲の範囲も広がってゆく傾向が見られる。また、太良町沖でも、溶存酸素濃度5mg/L以下の範囲が第2回調査結果と比べ広がっている。同様な溶存酸素濃度低下の傾向は、有明海湾央や白川の河口付近の地点でもみられる。
一方、矢部川河口付近の地点33では、第2回調査結果と同様に最も低い底層の酸素濃度が観測された(3.5mg/L)。今回の調査では、地点33の表層においても溶存酸素濃度の低下が見られたことから、底泥の巻き上げによる海水中の酸素の消費が生じていると考えられる。
4.考察
6月22日に行った第2回目の調査では、調査当日の強風により、諫早湾内においては底層の溶存酸素濃度が回復する傾向にあることが伺われた。その後、7月上旬から中旬にかけ、九州に連続して台風が接近したため、第2回調査から1ヶ月近くの間があいた後、第4回調査を行うこととなった。今回の調査の結果を第2回調査結果と比較すると、諫早湾や佐賀・熊本の沿岸帯付近において、底層の酸素濃度が減少してゆく傾向が見られた。
昨年の6月から9月にかけ、水産総合研究センターが行った諫早湾湾口における溶存酸素濃度の連続観測結果では、6月下旬から7月下旬にかけ徐々に溶存酸素濃度が低下する傾向が見られ、有明海における底層の貧酸素化は長期的な密度成層の安定によって生じることが考えられた。しかし今年度は、6月下旬の悪天候や7月上旬からの台風の連続接近など、強風・波浪による撹拌はこれまで頻繁に生じていると考えられ、密度成層の発達は弱い状態にある。それにも関わらず、今回の調査結果の通り、諫早湾などでは底層の貧酸素化は進行している事を鑑みると、底層の貧酸素化の進行速度はこれまでの認識よりも早く、比較的短い時間スケールで貧酸素水塊が発生するのかもしれない。
ありあけ大調査では、8月下旬まにあと2回の調査を予定しています。現在、諫早湾湾央や大牟田沖で発生している底層の貧酸素化が、今後どの様に進行してゆくのか、今後も継続して監視を行います。
調査代表者: 村上哲生(名古屋女子大学)
程木義邦(日本自然保護協会)
羽生洋三(有明海漁民・市民ネットワーク事務局)