諫早湾干拓事業の工事再開に対する環境NGOの声明
農林水産大臣 武部 勤 殿
諫早湾干拓事業の工事再開に対する環境NGOの声明について
財団法人 世界自然保護基金ジャパン 財団法人 日本自然保護協会 財団法人 日本野鳥の会 |
農林水産省が、1月9日に諫早湾干拓事業の工事を再開したことについて、財団法人世界自然保護基金ジャパン、財団法人日本自然保護協会、財団法人日本野鳥の会の環境NGO3団体は、別紙の通り共同声明をまとめましたのでお知らせいたします。
私たち環境NGO3団体は、従来から諫早湾干拓事業の抜本的な見直しによる諫早湾・有明海の環境回復を求めてきました。こうした私たちの提案を無視し、当然行ってしかるべきな事業見直しを行わず、しかも、工事再開について地域住民や漁民に対しての説明を怠ったまま、今回、農水省が工事を再開し、地元関係者の対立を深刻化させたことに対し、私達は厳重に抗議します。
農林水産省は、事業推進のための工事再開に固執せず、事業見直しに対する方針および水門開放による調査の具体的な日程などを早急に明らかにすべきです。それによって、現在の混乱を早急に解決するとともに諫早湾・有明海の環境回復を一日も早く実現することを求めます。
2002年1月15
諫早湾干拓事業の工事再開に対する環境NGOの声明
財団法人 世界自然保護基金ジャパン 財団法人 日本自然保護協会 財団法人 日本野鳥の会 |
1月9日、農林水産省は昨年2月から中断していた諫早湾干拓事業の工事を、有明海沿岸の漁業者や自然保護グループの抗議を押し切るかたちで再開しました。しかも、そのやり方は、漁業者などが干拓事務所に工事再開の延期と事業の見直し方針に関する説明を申し入れているさなか、その背後から工事車両を搬入するというもので、話し合いにより理解を得るのとは程遠い有様であったことから、地元関係者だけでなく全国の自然保護団体に大きな衝撃を与えています。
私たち環境NGO3団体は、従来から諫早湾干拓事業の抜本的な見直しによる諫早湾・有明海の環境回復を求めてきました。こうした私たちの提案を無視し、当然行ってしかるべきな事業見直しを行わず、しかも、工事再開について地域住民や漁民に対しての説明を怠ったまま、今回、農水省が工事を再開し、地元関係者の対立を深刻化させたことに対し、私達は厳重に抗議します。
現在、漁業者や地元の自然保護グループなどが工事の再開に反対し、諫早湾干拓事業の抜本的な見直しを強く求めてきた背景には、これまで農林水産省が必要な環境保全対策を怠ってきたことへの強い不満があります。私たち3団体もこれに共感し支持するものです。
具体的には、以下のような問題点が指摘できます。
1.
事業の環境影響評価では、諫早湾の干潟・浅海域の水質浄化力の評価、有明海の潮汐運動に対する影響、漁業生産に与える影響などに関する調査・予測が不十分であったため、「事業の影響は潮受堤防の近傍に限られ、有明海全体への影響は軽微である」と誤った評価を行い、これらに対する研究者や市民団体からの多くの批判に答えていない。
2.
工事着工後に諫早湾内で生じたタイラギの死滅原因を調査するため、93年に諫早湾漁場調査委員会が設置された。しかし、最近まで調査結果を放置してきただけでなく、先日になり「データが不十分のためタイラギ死滅の原因が特定できない」という結論をまとめ、漁業者に期待されていた役割を放棄してしまった。
3.
昨年8月、農林水産省の国営事業再評価第三者委員会では、「事業によって失われた干潟生態系の水質浄化機能などが外部不経済として考慮されていない」との見解から、諫早湾干拓事業の見直しが提言された。しかし、昨年10月に農林水産省が示した事業縮小案は、干拓地面積を半減させたに過ぎず、諫早干潟や有明海環境の回復を全く考慮しなかった。
4.
昨年12月に開かれた有明海ノリ不作等関係調査検討委員会(ノリ第三者委員会)では、諫早湾干拓事業と有明海異変の間には因果関係が成り立つとの見解が得られ、長期間水門を開放した調査が必要との提言がされた。しかし、農林水産省は、事業縮小案と長期の水門開放による調査が両立しないことは自明であるにも関わらず、現在においても「事業と調査は切り離して考える」という矛盾した姿勢を示している。
私たち3団体は、ノリ第三者委員会が有明海異変と諫早湾干拓事業の因果関係を認め、有明海全域の環境回復を視野に入れた排水門の長期開放による調査を提言したことを重く受け止めています。因果関係が成り立つとの見解が得られた以上、これ以上の環境悪化を防ぐため、事業は一旦凍結し、第三者委員会が求める長期にわたる水門開放調査によって更なる原因の究明を行うと共に、環境回復のための対策を検討することを最優先すべきです。
また、今回小江工区で再開された工事は、背後地の防災対策として実施されるかのような説明がされていますが、新たに造成される農地の排水対策に過ぎず、背後地の防災とは何ら関係がありません。そもそも、調整池面積の減少を伴う新たな農地造成は、調整池の貯水容量を減少させ、洪水時の水位上昇を早めるため、背後地の防災上はむしろマイナスです。この様な事実を正確に公表せず、「防災」を名目に工事を推進することは行政の姿勢として問題であると言わざるを得ません。
現在、工事再開を巡って生じている混乱は、農林水産省が、漁業者や自然保護団体のみならず再評価第三者委員会やノリ第三者委員会の提言をも軽視し、安易に事業推進を進めようとしたことに一番の問題があり、農林水産省の責任は極めて大きいと言えます。
農林水産省は、事業推進のための工事再開に固執せず、事業見直しに対する方針および水門開放による調査の具体的な日程などを早急に明らかにすべきです。それによって、現在の混乱を早急に解決するとともに諫早湾・有明海の環境回復を1日も早く実現することを求めます。
以 上