シンポジウム「有明海・諫早湾 日本初の大規模な環境復元の意義」に参加してきました。
保護プロジェクト部の安部です。
1月12日は、明治大学リバティホールにて日本ベントス学会公開シンポジウム「有明海・諫早湾 日本初の大規模な環境復元の意義」がありました。
最初に佐藤正典先生(鹿児島大学)から、これまでの経緯についてご説明があり、また有明海の諫早湾がどのような場所か、お話しがありました。
1997年に諫早湾の広大な泥干潟が潮受堤防の閉め切りによって行われた大規模な干拓事業について、日本ベントス学会などの学会が豊かな生物多様性や漁業に悪い影響を与えているので事業を中止すべきであると指摘してきました。また研究者自らも、裁判の証人証言なども行って来ました。
「ベントス」は底生生物を意味する言葉です。エビやカニなどの甲殻類やゴカイなど、多くは目立たない小さな生き物たちです。これらの、鳥や魚の餌となるような小さな生き物たちが干潟を支えています。
ベントスの研究者にとっては有明海は特別な場所です。日本の内湾の本来の豊かな生態系がまだいまなお残っている場所なのです。東京湾にも昔はあったと思われる泥干潟の90%以上が埋め立てで失われています。泥干潟のベントスのほとんどは絶滅していますが、生き残った生き物たちにとって有明海は最後の砦です。
今も状況は1997年当時と変わらず、いまだ開門に至っていません。
2010年12月に、福岡高等裁判所から干拓事業と漁業被害の因果関係を認め、「諫早湾の潮受け堤防排水門の5年間開放」を国に命じる判決が下されています。しかしながら地方自治体などが、確定した判決に従わないことを強く国に求めているため、排水門の開放が遅れています。
開門が実現すれば、これまでに例のない大規模な環境復元への道が開かれることになり、日本の社会にとって大きな意義があります。諫早の事例が、自然破壊型の公共事業から大転換し、自然再生を行っていくモデルケースになりうるのです。
佐藤先生の想いのこもった説明に続き、堤裕昭先生(熊本県立大学)から有明海奥部で進行している環境悪化についてお話しがありました。
生まれ育った地元の海から採れる海産物をいつまでも食べ続けたい、それが正直な想いです。堤防が閉め切られて以来、有明海では本来起こるはずのない赤潮が起こるようになってきました。
これまで、潮流に関する科学的な議論では、多くの研究者がシミュレーションを用いて潮流を再現し、異口同音にほとんど影響がないという結果が示されてきました。
しかしながら複雑な環境を有する沿岸部のシミュレーションを、現実に当てはめられるほど正確にできるとは思っていません。
次にこの問題に対し長年戦ってきた弁護士の堀良一先生からは、諫早事業は地域の経済、文化を壊していることが挙げられました。
例えば伝統的に行われてきた祭りの担い手が2人になってしまい続けられなくなったケースがあります。また、漁業者の自殺というケースもあり、事態は深刻で、決して九州の片隅で起きている小さなことではないので全国の人にわかって欲しいとのことでした。
最後に2010年4月より潮受堤防の水門を開放し、干潟の再生を開始している三重県の英虞湾、行政主導で干潟を保全している韓国の順天(スンチョン)、震災の被害から立ち直ろうとしている気仙沼の事例があげられました。
日本全国で埋め立ては行われたものの使われていない場所の面積は60,000ha(琵琶湖と同じ面積:国土交通省調査)もあります。全国で連携していかなければいけない、まずは諫早から取り組みましょう、と口々に声があがりました。
開門後に調査を行って、問題を解決していくのも大変な道のりとなりますが、その覚悟が示された印象に残るシンポジウムでした。
←「開門しなくても有明海が再生する方法があるなら、効果のない開門にお金を使うよりも、有明海の水産振興にお金を使うべき」と書かれたパンフレットがいまだに出回っています。2012年、つまり判決が出た後に長崎県により作られたものです。