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「環境省が求める『最低限必要な調査期間』に満たないのに 十分な情報が得られたという根拠は何か」

2001.06.25
要望・声明

平成13年6月25日

山梨県知事
環境整備事業団理事長
天野建 殿

(財)日本自然保護協会
常務理事 吉田正人

山梨県北巨摩郡明野村産業廃棄物最終処分場予定地のオオタカに関する公開質問状

昨日(6月24日)、明野村の産業廃棄物最終処分場予定地を視察し、オオタカの営巣木を中心に現地調査いたしました。その結果、産業廃棄物最終処分場予定地は、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)の政令指定種であるオオタカにとって重要な生息地であり、保全を図るべき地域であることを実感いたしました。

また明野の自然を観る会の調査や環境影響調査等のデータからも、ハチクマ、ハイタカ、ノスリ等の猛禽類、ニホンジカ、ニホンイノシシ、ホンドギツネ、アナグマ、テンなどの哺乳類、オオムラサキをはじめとする昆虫類(周辺)の生息、イカリソウ、ヒトリシズカ、アズマイチゲ(周辺)等の植物の生育など、生物多様性の保全上重要な里山であることは明らかです。

そこで県内の自然環境の保全と産業廃棄物最終処分場の計画に責任を有する貴殿に以下のとおり質問いたします。

1.オオタカの調査期間について

1996年に環境省が発表した「猛禽類保護の進め方」は、「オオタカの行動を明らかにし保護対策を検討するには、営巣地の発見及び少なくとも繁殖が成功した1シーズンを含む2営巣期の調査が望ましい。つまり、2営巣期を含む1.5年以上の調査期間とする。なお、この期間に繁殖しなかった場合、あるいは繁殖を途中で放棄した場合には、飛行軌跡等のデータ量と具体的な内容を基に、専門家の意見を聞いてその後の対応を検討すべきである。」と述べている。

すなわち、オオタカの保護対策をとるためには、繁殖成功年のデータが必要であり、そのために最低2営巣期を含む1.5年以上の調査期間を求めているわけである。

しかるに山梨県は、専門家会議に対して、「これまでの調査で充分なデータが得られたので、今後は保護策の検討に移る。来年の営巣期は、行動圏調査は行わず、飛行や営巣の有無を確認するモニタリング調査に移行する」という提案を行う考えであると聞く。

これが真実であれば、山梨県のオオタカ調査に関する考え方は、環境省の猛禽類保護の進め方の趣旨をないがしろにするものであり、繁殖成功年の行動圏調査データというオオタカ保護対策にとって最も重要なデータを欠いたまま、事業を進行させようという意図であると判断せざるを得ない。

以上の理由から、以下の点について質問する。

  • これまでの1年間の調査で充分なデータが得られたと判断する理由はどこにあるのか。誰がそのような判断を下したのか?
  • 環境省の猛禽類保護の進め方に示されている最低限の調査期間をさらに短縮して、来年の営巣期はモニタリング段階に移行してかまわないと考える理由は何か。誰がそのような判断を下したのか?

2.オオタカの生息地保全について

貴殿は6月13日の県議会の所信表明において、「専門家の意見を聞いて、オオタカ保護と処分場の両立に必要な対策をとる」と述べておられる。一方で県森林環境部の幹部は処分場との共存の具体的な内容について、「面的な対応」をとると説明している。これはすなわち、廃棄物処分場予定地の周辺地域で生息地保全の措置をとるかわり、処分場予定地に生息するオオタカの保護はあきらめるという静岡空港方式を採用する意図であると読み取れる。

しかしながら、オオタカの営巣木は明らかに処分場予定地および隣接地に集中しており、その周辺地域にオオタカの営巣木が分布しているという事実は確認されていない。また山梨県が実施中の全県的なオオタカの生息調査に関しても、まだ結果が出ていない状態であり、全県分布における当該地域のオオタカの重要性の評価も出ていない。

したがって、県森林環境部がいうところの「面的対応」をもって、当該地域のオオタカの生存が可能になる、あるいは全県的なオオタカの保護が図れるという確証はどこにも存在しないのであって、確証が無い限り現存のオオタカの営巣木周辺の開発は回避しなくてはならない。

そこで以下のとおり質問する。

  • 貴殿が所信表明の中で述べておられる「オオタカ保護と処分場の両立に必要な対策」とは具体的に何を指すのか?
  • それがいわゆる「面的対応」を指すのであれば、その対応によって当該地域のオオタカの保護、全県的なオオタカの保護を図ることができると判断する理由は何か。誰がそのような判断を下したのか?

3.オオタカに関する情報提供と説明責任について

一般にオオタカの生息地、特に営巣地を公表した場合、密猟のほか、カメラマン、観察者等多数の人々が営巣地の近辺に集合、出入りを繰返し、オオタカの繁殖を阻害することが危惧される。したがって営巣地は原則として自然保護行政機関等以外には非公開とする(猛禽類保護の進め方)と、専門家会議等の会議やオオタカ調査報告書のうち営巣地が特定できる部分は非公開とされている。

しかしながら、オオタカ保護のための巡視等の対策をとるには、自然保護団体の理解と協力が不可欠であり、少なくとも当該地域のオオタカの保護に関係する自然保護団体には、専門家会議に提出した資料と同様の情報を提供すべきである。

また1、2で質問したような、行政判断を行うのであれば、誰がどのような根拠をもって、調査期間の短縮、面的対策への移行を判断したのかを説明する責任がある。

以上のことから以下のとおり質問する。

  • 廃棄物処分場予定地のオオタカの調査結果について、当該地域に関係する自然保護団体に対して、専門家会議に提出したものと同様の情報を提供する意思はあるか?
  • オオタカの調査期間の短縮、面的対策への移行などの行政判断をするのであれば、誰がどのような根拠にもとづいて判断したのかを説明する責任があると思うが、これについてどう考えるか。

以上の質問に対する回答は、6月30日までに文書でご回答いただきたいと存じます。なおこの問題の重要性に鑑み、質問および回答は公開とさせていただきますので、よろしくお願いいたします。

 
回答送付先:
財団法人日本自然保護協会 常務理事 吉田正人

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