「水門の常時解放、特別立法制定を」
No.456(2001年5月号)より転載
ノリ不作と干拓の因果関係は
昨年末から有明海北部を中心にノリ不作が問題となるにつれ、干拓事業で姿を消した諫早干潟が有明海の水を浄化する大きな役割を担っていたのではないかと言われ始めた。
農水省は、潮受堤防で遮断された内側(調整池)では、水質や泥の汚濁指標(有機物、リン、窒素濃度など)が閉め切り後に増加していることを認めている。一方、堤防の外では汚濁物質の増加が見られないことから、漁業被害と諫早湾干拓事業に因果関係は成り立たないと主張してきた。
しかし、農水省による「環境モニタリング結果」を見ると、海底の泥に含まれる汚濁物質が、局所的に増加していた。これは、潮受堤防ができたことで諫早湾内の潮の干満差などが低下し、調整池から出る汚濁物質が拡散せずに湾内に沈みやすくなっているためと考えられた。そうであれば、水質には現れていなくても、泥の中には、調整池由来の汚濁物質が蓄積しているはずである。
そこでNACS-Jは、諫早湾内における泥の堆積状況と汚濁の現状を把握することを目的に、潮受け堤防内外で底泥・水質の調査を行った。
堤防の外にも異臭のする泥が
調査をして驚いたのは、泥が、堤防の内側よりも外側に多く堆積していたことであった。泥に含まれる有機物量も、堤防内側より外側(堤防から250~1000mの範囲)が多かった。堤防外側のこの泥は、黒色で異臭がしており、泥の中は貧酸素状態で生物に有害な硫化水素が発生していると推測された。泥の厚さや有機物含量からすると、潮受け堤防外の海域は、堤防の内側と同じぐらい汚れていると考えられた。
環境改善のために水門の開放を
3月に行われた「有明海ノリ不作等対策関係調査検討委員会」は、諫早湾の環境は改善したいが、水門を開放すると、堤防内の汚れた水と泥が流れ出し湾内の漁場が荒れると懸念していた。
しかし私たちの調査では、残念ながらすでに堤防の外側も内側と同レベルに汚濁がすすんでいた。そのため、水門開放で堤防外の底質がさらに悪化することはないと考えられるが、堤防内外にすでに堆積している泥が舞い上がり、泥に蓄積された汚濁物質が海水中に放出されて一時的に水質が悪化する可能性はある。しかし泥の舞い上げは泥の中への酸素の供給量を増加し有機物の分解を促進するので、長期的には湾内の環境を改善すると予測される。
諫早湾干拓事業は干潟を消失させただけでなく、湾全体に多量の底泥を堆積させるなどの影響を与えている。かつての諫早干潟は有明海の腎臓であったと例えられる。その干潟の浄化機能がなくなった現在、有明海はまさに腎不全の状態といえる。日本自然保護協会は、有明海全体の環境回復のために水門を常時開放し、諫早湾内の潮汐運動と干潟生物による浄化能力を回復させることを提言した。なお、今後も諫早湾の調査を予定しています。皆さまのご支援をお願いします。
(程木義邦・保護研究研究員、吉田正人・常務理事)