日本のアセスメントは「ガラパゴス」化?!環境アセスメントの講演会から。
保護プロジェクト部の安部です。
環境アセスメント問題都民連絡会主催の2013年総会記念講演会「環境アセスメント・日米比較」を聞きに行きました。原科先生のご予定が急きょ代わり、東邦大学の柴田裕希先生のご講演となり、内容も「環境アセスメントから持続可能性アセスメントへ」となりました。
最近導入された日本のSEA(Strategic Environmental Assessment;戦略的環境アセスメント)は真のSEAでは無く、日本のアセス手続きは世界より大幅に遅れているということからお話が始まりました。
日本のSEAは、SEAという名称にはなっていますが、諸外国と異なり、計画が作られる段階から市民が関われるようにはなっていません。
構造物の位置や規模、配置や構造といったものを決めるプロセスから市民は関われるようにすべきです。今のように案ができた後から市民が参加するというしくみでは、関係者間で調整された計画(案)を変更するのが事実上困難となります。
では日本人にはなじみのないしくみなのかと言うと、JICA(ジャイカ)は外国で工事を行う際にはSEAのような手続きを行っています。・・・ということは、日本では行われていないだけで、実は日本人にも活用されているしくみなのです。
SEAには手続き統合型と戦略的方法論の2つのタイプがありますが、今回は前者に的を絞ってお話しがありました。
今回の講演のベースとなる論文は以下からダウンロードできます。
http://shibata.bufsiz.jp/phdthesis.htm
手続き統合型SEAの例の例として、マイクロソフトやアマゾンといった著名な会社が集まっていることで有名な、ワシントン州シアトルの事例をご紹介いただきました。人口629万人の、関東平野ほどの広さ(16,000平方km)この町では、つい最近VISION2040と呼ばれる都市計画が出来ました。これは2040年までの社会の未来像を決める計画です。
各段階で、市民に対し80回以上を超える公聴会が開かれ、住民からの意見も2,000通を超える通数があるほど、住民参加が徹底されていました。形式だけの一方的な説明会が行われる日本とは大違いです。
環境アセスメントの方法書(案)の縦覧からはじまるのが日本で、案も何も存在しないゼロから市民と事業者が一緒に作るのがアメリカだということがよくわかります。
また、日本のように環境アセスメントの審査会のような、専門家による事業者の審査はありませんが、その分、市民による事業者や行政の監視が徹底しており、これはパブリック・レビューと呼ばれています。
このシステムにより偏った分析を避けることが出来ます。
事業者や行政が、仕事で使うパソコンは、個人宛のメールもでさえも情報公開の対象となるとのことですので、いかに徹底しているかお分かりいただけると思います。
最後に柴田先生の「戦略的環境アセスメントではなく『持続可能性アセスメント』を行いましょう」というご提案で終わりました。
- 意思決定段階で、社会の将来像や方向性を議論する
- 環境・経済・社会の総合的な検討を行う
- 住民の意見や「心配・関心事・価値観・考え方」を十分に反映する
この秋には持続可能性アセスメントの本が出版される予定ですので楽しみにしています。NACS-Jもさまざまな事業で、環境アセスメント法の不備に行き当っていますから、この法律を変えていきたいと考えています。
写真1:本日のご講演者、柴田先生。
写真2:8年間かけて東京都環境影響評価技術指針を変えてきた、環境アセスメント問題都民連絡会の総会も行われました。