(仮称)檜山陸上ウィンドファーム事業の計画段階環境配慮書に意見書を提出しました
日本自然保護協会(NACS-J)は、北海道檜山郡上ノ国町および松前町で計画されている(仮称)檜山陸上ウィンドファーム事業業の計画段階環境配慮書に対し、イヌワシなど希少な動植物への悪影響や、土地の改変による土砂災害のリスクが懸念されるため、計画中止を求めて意見書を出しました。
2024年12月23日
日本風力サービス株式会社 御中
(仮称)檜山陸上ウィンドファーム事業 計画段階環境配慮書に関する意見書
〒104-0033 東京都中央区新川1-16-10 ミトヨビル2F
公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 土屋 俊幸
日本自然保護協会は、自然環境と生物多様性の保全の観点から、北海道檜山郡上ノ町および松前郡松前町で計画されている(仮称)檜山陸上ウィンドファーム事業(事業者:日本風力サービス株式会社 、最大240,000 kW、基数:最大40基)の計画段階環境配慮書(作成委託事業者:株式会社建設技術研究所)に関して意見を述べる。
本事業の事業予定地は、存続が危惧される渡島半島のイヌワシ個体群の生息地であり、計画地のほぼ全域が、土砂流出防備保安林であり、さらにはほぼ全域が自然度の高い植生であるにも関わらず、既設の林道が皆無であることなどから、事業を実施すべきではない。
1.種の保存法の政令指定種イヌワシとクマタカの個体群に影響を及ぼす懸念がある
事業実施想定区域周辺では、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」(種の保存法)において国内希少野生動植物種に指定されているイヌワシおよびクマタカの生息が確認されている。特に国の天然記念物にも指定されているイヌワシは、北海道内での確認つがいは数ペアのみと、個体群の絶滅リスクは極めて高いとされる。特に渡島半島では生息確認は極めて少なく、イヌワシの生息確認は同事業計画地周辺のみである。さらには、同計画段階環境配慮書の表4.3-14(2/2)で専門家から、道南地域のイヌワシは、「白神岬と本州を往来する個体も確認されている」と指摘があり、渡島半島に留まらず津軽半島の個体群への影響も危惧される。
本事業の遂行は、イヌワシの風車への衝突死および繁殖率の低下、生息地域の放棄などを発生させる恐れがあり、希少な渡島半島ならびに、津軽半島のイヌワシ個体群の存続への影響が強く懸念される。環境省は2021年8月19日に「イヌワシ生息地拡大・改善に向けた全体目標」を発表し、地域ブロックごとのつがい数・繁殖成功率の目標値を設定した。目標値達成にむけた「生息環境改善促進候補地」に北海道の個体群も含まれている。このように、本事業は今後求められるイヌワシの保全の取り組みに逆行するものであり、不可逆的な自然環境への影響が懸念されることから事業を実施すべきではない。
2.本事業予定地の大部分が土砂流出防備保安林であることなどから、本事業予定地での事業実施は慎重に判断すべき
本事業計画地のほぼ全域が民有林の保安林に指定されており、その一部地域は道指定鳥獣保護区(館野)に指定されている。北海道は2024年11月に「地域脱炭素化促進事業の促進区域の設定に関する環境配慮基準」を発表しており、地域の実情に応じて環境の保全に適正に配慮し、地域へ貢献する脱炭素化促進事業に関する基準を定めている。この基準の中では、風力発電施設の利活用の促進区域に含める区域として、保安林や鳥獣保護区は適切でないことが示されている。このようなことから、本計画地全域は風力発電施設の導入を促進するべきではない区域ということになる。
特に、事業実施想定区域の大部分は、土砂流出の著しい地域などにおいて土砂流出を防止する目的の土砂流出防備保安林に指定されており、さらには、崩壊土砂流出危険地区や山腹崩壊危険地区が計画地内に存在している。そのような土砂災害リスクが懸念される地域の保安林を広範囲で解除し、大規模な土地改変を行って、高さ140~210mの風力発電機を尾根上に設置することは、土砂災害リスクを高めることになることは自明の理である。
また、広範囲に土地の改変を行うことは、長期間にわたる下流域への土砂流出によって、河川環境の悪化を引き起こすことは容易に予想される。このようなリスクを考慮して、本事業の実施は慎重に判断すべきである。
3.重要な植物群落、植物種への影響が懸念される
事業実施区域には、特定植物群落「松前-江差海岸台地上のミズナラ・イタヤ林」の半分以上の範囲が、事業実施想定区域に含まれている。さらには、事業実施想定範囲は植生自然度9のチシマザサ-ブナ群団やエゾイタヤ-シナノキ群集が広範囲に分布し、植生自然度10のササ群落も存在する。それ以外の区域もトリアシショウマ-ミズナラ群集やブナ二次林などの植生自然度8となっており、事業予定地全域は、自然度の高い森林や草原となっている。
一方で、事業実施区域北側の石崎川沿いには車道が、中央部の小砂子川沿いには林道があるものの、風力発電機設置が想定される尾根部には全く車道も林道も存在しない。また、石崎川沿いの上ノ国変電所までは66kVほどの送電線があるものの、それ以外には事業予定地には送電線は存在しない。このようなことから、風力発電機の建設および送電線の設置のためには、長距離の林道建設、大規模な土地の改変などを新たに行う必要があり、広範囲の自然林の伐採が想定される。このような原生的な森林の大規模な伐採を伴う事業の実施は、ネイチャーポジティブの観点からも看過されるものではなく、事業を実施すべきではない。
以上