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(仮称)苫東厚真風力発電事業の環境影響評価準備書に意見書を提出しました

2024.09.24
要望・声明

日本自然保護協会(NACS-J)は、「(仮称)苫東厚真風力発電事業」について、国内希少野生動植物種で特別天然記念物のタンチョウ、国内希少野生動植物種のオジロワシ、オオワシ、クマタカ、チュウヒ、ハヤブサ、アカモズ、シジュウカラガン、天然記念物の亜種ヒシクイ、亜種オオヒシクイ、マガン、絶滅危惧種のハクガン、ヒメウ、シマクイナなど多数の希少鳥類の生息、ガン類、ハクチョウ、ノスリの渡りへの影響が強く懸念されることから、環境影響評価準備書の意見として、計画の中止を求める意見を出しました。


2024年9月24日

Daigasガスアンドパワーソリューション株式会社 殿

(仮称)苫東厚真風力発電事業に関する
環境影響評価準備書に関する意見書

公益財団法人 日本自然保護協会 理事長 土屋 俊幸

日本自然保護協会は、自然環境と生物多様性の保全の観点から、北海道厚真町と苫小牧市の行政界付近で計画されている(仮称)苫東厚真風力発電事業(事業者:Daigasガスアンドパワーソリューション株式会社、最大34,390 kW、基数:10基)の環境影響評価準備書(作成委託事業者:日本気象協会)に関する意見を述べる。

1.国内で類を見ない鳥類への影響が大きい事業計画であり計画は中止すべきである

対象事業実施区域は、ラムサール条約登録湿地であるウトナイ湖から約10km、国際的な鳥類保護組織であるバードライフ・インターナショナルのもとで日本野鳥の会が選定したIBA(重要野鳥生息地)、およびIBAに鳥類以外の分類群も含め評価されたKBA(生物多様性の保全の鍵になる重要な地域)から約1kmと至近距離にあり、生物多様性保全にとって重要な地域である。
本アセス図書によると、対象事業実施区域及びその周辺で、国内希少野生動植物種で特別天然記念物のタンチョウ、国内希少野生動植物種のオジロワシ、オオワシ、クマタカ、チュウヒ、ハヤブサ、アカモズ、シジュウカラガン、天然記念物の亜種ヒシクイ、亜種オオヒシクイ、マガン、環境省レッドリスト絶滅危惧ⅠA類に指定されているハクガン、環境省レッドリスト絶滅危惧ⅠB類に指定されているヒメウとシマクイナ、環境省レッドリスト絶滅危惧Ⅱ類に指定されているウズラ、亜種ヒシクイ、コクガン、シロチドリ、セイタカシギ、オオソリハシシギ、ホウロクシギ、タカブシギ、ツバメチドリなど多数の希少鳥類の生息が確認されている。特に、対象事業実施区域内では、3年間でチュウヒが604個体、オジロワシが464個体、タンチョウが115個体、オオワシが83個体確認されている。このうち、チュウヒは対象事業実施区域内で2か所、周辺地域で7か所、オジロワシは周辺地域で1か所、タンチョウは対象事業実施区域内で2か所、周辺地域で1か所の営巣が確認されている。また、本アセス図書では、オジロワシの令和3年非繁殖期の調査結果による風力発電機への衝突確率は、由井モデルで合計0.3193頭/年と高い衝突確率が示されている。
さらに、渡り鳥の調査では、3年間のそれぞれ春季と秋季の合計で10,346羽の飛来が確認されており、由井モデルでの渡り鳥の風力発電機への衝突確率は、令和3年春季のガン類が4.7016羽/年、カモ類が3.8686羽/年、ハクチョウが1.1605羽/年、令和3年秋季のノスリが1.2426羽/年と極めて高い衝突確率となっている。これだけ確認飛来数が多いため、たとえバードストライクが発生しなくても、障壁効果は多大であると考えられる。風力発電計画の環境影響評価準備書において、このように複数の鳥類の衝突確率が高く示されていることは、極めて異例である。
本計画に対しては、本会だけでなく環境NGOの日本野鳥の会、WWFジャパンからも事業の見直しや中止を求める意見書が提出されているだけでなく、日本鳥学会や日本生態学会からも計画中止や大幅な見直しを求める要望書が提出されている。それにも関わらず、これまで生態系や生物多様性に十分に配慮した計画の変更は行われていない。本事業計画は、国内の陸上風力発電の中で、類を見ない鳥類への影響が大きい計画であり、計画そのものを中止すべきである。

2.不十分な調査に基づく予測であり、環境影響評価は困難であるため、再度の調査を行い、環境影響評価準備書の縦覧手続きをやり直すべきである

本アセス図書の第10章1.4動物の(d)現地調査(鳥類の渡り時の移動経路)のイ.調査地点には、令和3年から5年の3年間の調査方法と結果が示され、表10.1.4-22(1)は令和3年春季の調査日と配置状況、表10.1.4-22(2)は令和4年秋季と令和5年春季と秋季の調査日と配置状況が掲載されている。さらには、ウ.調査期間には調査日程が示されており、調査は令和3年春季、令和4年秋季、令和5年の春季と秋季に実施されたことになり、令和3年秋季と令和4年春季には調査を行っていない内容になっている。
それにも関わらず、オ.調査結果には、令和3年秋季と令和4年春季の結果が示されている。春季の確認飛来数は令和3年が18,033羽、令和5年が4,282羽に対して、令和4年が873羽と極端に少なく、秋季の確認飛来数は令和4年が1,441羽、令和5年が3,658羽に対して、令和3年は563羽とこちらも極端に少ない。ところが、これらの確認飛来数が極端に少ない期間は、イとウに調査期間として示されていない。つまり、調査を行っていないと記述されている期間において、数が極端に少ない調査結果が示されており、それに基づいて衝突確率が出されている。このように、そもそも調査の有無も疑わしい不十分な調査結果に基づく予測では、正しい環境影響評価を行うことは不可能である。環境影響評価準備書は、都道府県知事および市民が意見を述べられる最後のアセス手続きであり、重大な誤りを修正することなく、安易に環境影響評価書の手続きに進むべきではない。再度の調査を行ったうえで、環境影響評価準備書の縦覧手続きをやり直すべきである。

3.アセス図書の公開方法が誠実性を欠いている

本アセス図書の閲覧は、環境影響評価法により定められているとは言え、縦覧期間が 1~1.5ヶ月と短く、また、縦覧場所も限られている。インターネット上での閲覧は可能ではあるが、本アセス図書のように調査内容に重大な問題がある場合でも、再度の確認を縦覧期間終了後に行うことはできない。
環境影響評価書は、地域住民や利害関係者等が常時、容易に精査できることによって、環境影響評価の信頼性を確保するものであり、地域との合意形成を図るうえでもその信頼性は不可欠である。そのため、閲覧可能期間に限らず、縦覧期間後も地域の図書館などで、環境影響評価の図書を常時閲覧可能にし、また、随時インターネットでの閲覧を可能にすべきである。

以上

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