「埋め立てによる水質、海生生物、鳥類への影響評価がまったくなされていない」
小松島港沖洲(外)地区整備事業に係る環境影響評価準備書について意見
徳島県知事 圓藤 寿穂 殿
理事長 田畑 貞寿
小松島港沖洲(外)地区整備事業に係る環境影響評価準備書に対して、環境の保全の見地から、次のとおり意見を述べます。
当協会は本事業が、四国横断自動車道橋・東環状道路橋の建設、吉野川第十堰の改築などとあいまって、ラムサール条約のシギ・チドリ渡来地ネットワークに含まれる吉野川河口の干潟およびそこを生息地・渡来地とする生物に与える影響が大きいと考え、平成11年3月2日、徳島県知事に対して、環境影響評価の実施を求める意見書を、また平成11年12月15日には小松島港沖洲(外)地区整備事業に係る環境影響評価方法書への意見書を提出した。
1. 埋立事業の必要性が説明されていない
その中で当協会は、「渡り鳥の渡来地や干潟の生物の生息地として、また沿岸海域の水質浄化の場として重要な価値を持った干潟が、埋立や干拓によって次々と失われゆく今日、埋立以外の方法では用地を得られないという立地の必要性が説明されない限り、貴重な干潟やその周辺の浅瀬を埋め立てることは許されない」として、環境評価手続き以前の段階として、立地の必要性を再検討し、埋立地以外では用地を求められないというもの以外については除外することを求めた。しかし、本準備書の方法書への意見に対して事業者は、わずか1ページの「参考2.事業の経緯と必要性」を示し、事業の概要を説明しただけであり、貴重な干潟と引き替えにしてでも事業を実施する必要性、および埋立地以外では用地を求められない理由については一切説明していない。
評価書では、埋立事業の必要性、他の用地では代替できない理由を明確に記述すべきであり、それができないならば埋立事業そのものを見直すべきである。
2. 関連する事業との複合的な影響が調査されていない
その中で当協会は、本事業が関連する他の事業(四国横断自動車道路、東環状道路橋、吉野川第十堰改築事業等)による、河口干潟の生物に対する複合的な影響を調査することを求めた。しかし、本準備書の方法書への意見に対して事業者は、「種々の事業による環境への影響については、各々の事業者が各々の事業について必要に応じて調査を実施し、適切な措置が講じられるものと考えております」と非常に後ろ向きな見解を述べている。
本事業による埋立地には、四国横断自動車道のジャンクションを建設することが予定されており、本事業と四国横断自動車道の建設は、工事による影響は時期が異なったとしても、存在や供用による渡り鳥や干潟の生物に対する影響は複合したものになると考えられる。評価書では、両事業者による協議の内容、今後の影響調査における協力関係などを詳細に記述すべきである。
3. 徳島県環境影響評価技術審査会の透明性を確保すべきである
その中で当協会は、徳島県環境影響評価技術審査会が、第三者機関として機能するためには、市民の傍聴を認めるなど、透明性を確保する必要があることを指摘した。しかし、本準備書の方法書への意見を事業者は、「環境保全上の見地以外の意見」の一言で切り捨てている。
環境影響評価の実施および審査方法は、まさに環境保全上の問題であり、「環境保全上の見地以外の意見」ではない。さらに、事業者も審査者も両方とも徳島県である本事業の場合、審査の透明性、事業者からの独立を貫くためには、市民の傍聴や情報の公開などの透明性の確保は絶対条件であり、「環境保全上の見地以外の意見」として切り捨てるべきではない。百歩ゆずって、事業者(徳島県港湾空港整備局)が回答する立場にないというのであれば、審査者(徳島県環境生活部)が、審査会が第三者機関として機能するために、どのような手段をとるのかを説明する責任がある。
埋め立て計画予定地は、そのほとんどが水深3m以浅の干潟、浅瀬である。このような海域生態系の環境影響評価においては、特に物質循環の機能、生物資源の生産や生物多様性の維持の機能、魚類や鳥類の索餌場、稚仔魚の生育場としての機能等を重視し、環境影響評価を行わなければならない。このような視点から、準備書に対する意見を述べる。
1. 水質について
水質汚濁について、地形の変化及び雨水の排水による影響予測を行っているが、干潟・浅瀬が埋め立てられて消失することによる、水質浄化機能の低下による影響評価が一切行われていない。埋め立て予定地の現在の水質浄化能力を定量的に明らかにし、埋め立てによる水質浄化機能の変化を明らかにする必要がある。
2. 海生動物について
埋め立てによって、約35haの浅海域が消失し、沖洲海岸の生息地が消失するにもかかわらず、準備書では「吉野川河口が主たる生育場であると考えられ、……本種の生育環境の変化は極めて小さいと考えられることから……影響は極めて小さいと予測される」との記述に終始しており、吉野川河口との比較においてのみ影響が小さいとし(あるいは「事業実施区域周囲において」と、影響評価範囲をぼやかしており)、肝心な埋め立て計画地における影響評価がなされていない。埋め立てにより、ハクセンシオマネキをはじめどれだけの海生生物が消失するのか、現在の生息量から具体的な生物量を明記すべきである。
3. 鳥類について
準備書では、吉野川河口地区と比較して沖洲海岸地区を利用する鳥類の数が少ないという理由だけで、「鳥類の餌料環境及び生息環境に及ぼす影響は極めて小さい」としているが、埋め立てによって、休息場、採餌場が失われるシギ・チドリ類、カモ類、サギ類、コアジザシなど水辺の鳥たちにどのような影響を及ぼすのか全く書かれていない。極めて不十分な準備書である。埋め立てが実施された場合、沖洲地区を利用していた鳥類はどうなると予測されるのか、明らかにすべきである。
4. 植物群落について
沖洲海岸で見られるコウボウムギ群落、ケカモノハシ群落などの海浜草本群落は、日本自然保護協会が保護上の危機の視点から選んだ第1次リストの中で、とくに危機に瀕している植物群系A+ランクに属している。全国的にみて、その保護が求められている群落と言えるが、準備書では環境影響はないものとされている。
5. 生態系について
吉野川河口に限らず、河川の河口域の生態系は、洪水等によって押し流され、その後自然が回復するというダイナミクスを持っている。洪水後の回復には、沖洲海岸のような近くの海岸や浅海域からの生物の加入が大きな役割を果たしていると思われるが、準備書には、そのような河川のダイナミクスを考慮した評価が行われていない。
6. 人と自然との触れ合いについて
準備書においても明らかにされているように、自然とのふれあいを目的に沖洲海岸を利用している人は多い。特に潮干狩りや浜遊びなど干潟・浅瀬ならではのふれあい活動が顕著である。埋め立てで沖洲海岸が失われれば、これらふれあい活動への影響は甚大であることを準備書には明記すべきである。
7. 埋立地の土地利用による影響について
埋立地の土地利用計画については、全く明らかにされていないが、構造物の形態によっては、沖洲地区の自然環境への大きな影響が懸念される。例えば、事業のイメージイラストによれば橋梁式の高速道路が描かれているが、吉野川河口地区と海域を往来する鳥たちの移動への影響や、河口に橋桁を建てることによる潮流の変化など準備書では全く触れられていない。埋立地の土地利用による環境影響評価を行うべきである。
8. 保全措置としての人工海浜について
人工海浜はこれまでに成功例はほとんどない。地形の安定、海浜植物群落の移植、ルイスハンミョウの移動と、どの局面をとっても極めて不確実性の高い方法であるにもかかわらず、それぞれの課題についての実験、検証もなされておらず、保全措置とは成り得ない。影響の回避を徹底的に検討すべきである。