(仮称)黒松内町風力発電事業の計画段階環境配慮書に関する意見書を提出しました
日本自然保護協会(NACS-J)は、北海道黒松内町で計画されている「(仮称)黒松内町風力発電事業(事業者:ジャパン・リニューアブル・エナジー株式会社)」の計画段階環境配慮書に対し、生物多様性保全の観点からブナ自然林の保護と環境影響評価図書の常時公開を求めて意見書を提出しました。
(仮称)黒松内町風力発電事業 計画段階環境配慮書に関する意見書(PDF/660KB)
ご参考
■「(仮称)黒松内町風力発電事業 計画段階環境配慮書」の電子縦覧について(閲覧期間:10月24日まで)
https://www.jre.co.jp/news/2023kuromatsunai_hairyosho.php
2023年10月20日
ジャパン・リニューアブル・エナジー株式会社 御中
(仮称)黒松内町風力発電事業 計画段階環境配慮書に関する意見書
〒104-0033 東京都中央区新川1-16-10 ミトヨビル2F
公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 亀山 章
日本自然保護協会は、自然環境と生物多様性の保全の観点から、北海道黒松内町で計画されている(仮称)黒松内町風力発電事業(事業者:ジャパン・リニューアブル・エナジー株式会社、最大75,600 kW、基数:最大18基)の計画段階環境配慮書(作成委託事業者:株式会社建設環境研究所)に関して意見を述べる。
本計画の事業実施想定区域の一部の国有林内には北限域のブナ自然林などが含まれている。そのため、生物多様性保全の観点から黒松内岳北側の高標高域のエリアは計画地から除外すべきである。
1.本事業計画地に含まれている連続的な分布北限のブナ林は計画地から除外すべきである
計画地周辺の黒松内低地帯付近は日本のブナ林の分布の北限である。このブナ北限域を代表する森林の一つである「歌才ブナ林」は1928年(昭和3年)に国の天然記念物に指定されているが、このような低地のブナ林は過去の人為的な影響により断片的に分布するだけである。一方で、黒松内低地の西側の黒松内岳には、高標高域を中心に連続的にブナ林が広がっており、まとまったブナ林の限界地域となっている。黒松内町はブナを題材にしたまちづくり「ブナ北限の里づくり」を推進しており、2004年(平成16年)に「北限のブナ林」は「伐採の危機を乗り越え広がる豊かな森」として北海道遺産の一つに選ばれている。本事業実施想定区域には、国有林内のまとまったブナ林が含まれており、事業実施にともなう大規模な伐採による影響が懸念される。
また事業実施想定区域には「黒松内岳ブナ林再生プロジェクト」実行委員会が2007年(平成19年)より活動開始した「黒松内岳ブナ再生プロジェクト」の活動エリアが含まれている。このプロジェクトは過去の伐採の影響によりササ原となっている場所を、元のブナ林に再生する市民による取り組みである。同地域で事業が実施された場合、大規模な土地改変が行われ、本プロジェクトへの影響が懸念される。
このようなことから事業実施想定区域のうち国有林内の黒松内岳北側の高標高域のエリアのブナ林は計画地より除外するべきである。
2.本環境影響評価図書を常時公開することが求められる
本環境影響評価図書の閲覧は、環境影響評価法により定められた期間ではあるが、縦覧期間が 1ヶ月程度と短く、また縦覧場所も限られている。インターネット上で閲覧は可能ではあるが、印刷やダウンロードができないため、縦覧期間終了後は、環境影響評価図書の内容が実際の計画地の状況と齟齬がないかを確認することが難しい。
地域住民や利害関係者等が常時、容易に精査できることが、環境影響評価の信頼性にもつながるものであり、地域との合意形成を図るうえでも不可欠である。全事業の環境影響評価図書を常時公開している事業者もあり、閲覧可能期間に限らず、縦覧期間後も地域の図書館などで、常時閲覧可能にし、また、随時インターネットでの閲覧とダウンロード、印刷を可能にすることが求められる。
以上
白井川ブナ林から分布前線ラインを眺める(撮影:小林誠)