100年間の全国生態系モニタリング、はじめの10年間の成果発表
こんにちは、保護・研究部の後藤ななです。
先週、鹿児島大学で開催された第62回日本生態学会大会に参加するため、鹿児島に行ってきました。
▲列車から見えた桜島
3月20日には、モニタリングサイト1000(以下、モニ1000)の10年の成果を伝える企画集会が開かれ、NACS-Jが事務局を務める「里地調査」での今までの取り組みや各地での活動の拡がりを伝えるために発表してきました。
(*企画集会とは、生態学会のなかで開催される、企画者が提案した特定のテーマについて何名かの講演者が発表し、来場者と議論ができる集会のことです。小さなシンポジウムのようなイメージです。)
この企画集会では、里やまを調査する里地調査だけでなく森林・草原や海域の藻場・アマモ場など、日本列島に存在するさまざまな生態系タイプごとに今までの調査成果の発表を行いました。
例えば、湖沼での調査であるガンカモ類や干潟のシギ・チドリ類調査の発表では、研究者によって調査結果について専門的なデータ解析などを行い、レッドリスト種の選定や保護区の検討などに活かされた事例の発表がありました。これらの調査ではさらに、水鳥の重要な生息地を守るためのラムサール条約における登録基準に合わせてデータを整理し、今後のラムサール条約湿地登録への活用に期待がされました。
沿岸域調査では、2011年の東日本大震災の前後において、海のなかの生態系の変化がどのように起こったのかについて発表がありました。調査サイトの位置や干潟、アマモ場、藻場などの環境の違いによって攪乱後の回復の過程や速度が異なること、そして全国にまんべんなく調査サイトを配置していたことで予測不可能な大規模攪乱の影響を見ることができた事例を発表されました。
そんな中、里地調査からは「市民と築き上げた里地調査の全国観測ネットワークとその成果」というタイトルで発表を行いました。里地調査は、初期の調査設計の段階から調査継続のため課題解決のアイディアに至るまで、全国の市民と市民調査を応援する専門家の方々とともに調査設計から作り上げてきたものです。今回の発表ではそのほんの一部ではありましたが、市民調査員の皆さんによる全国各地での自主的な成果活用などの事例を紹介させていただき、これからも仲間を増やしながら調査を続けていくために行う里地調査の取り組みについて発表してきました。
発表を済ませたその日の午後には、同じ鹿児島県内にあるコアサイト「漆の里山」に行ってきました。漆では、すでに見渡す限り春の陽気に包まれており、地元の市民調査員の方々と調査サイトを回るとアカガエルの卵や早春の花々が迎えてくれました。
今穏やかな空気の流れる漆でも、過去には農道拡張工事で調査サイトの様子が大きく変わるかもしれないという事態が起こりました。しかし、そうしたときにも地元で調査をされているNPOの皆さんとNACS-J、環境省とで事業者の方に里地調査の結果や意義を伝えながら、元の環境に配慮するように計画を見直すこととなりました。(詳しくは里地調査ニュースレター13号(4ページ)で紹介しています。)
この里地調査で、最も現地の里やまを見つめてこられたのは市民調査員の皆さんです。そして、そうした各地の市民調査員の方からは「この里やまがこれから未来にも地域の人たちに愛され、子どもたちが木々の間を駆け回り川のなかで遊べるように」という気持ちのこもったたくさんのデータが毎年届きます。
100年間先の未来に、全国各地の里やまが守り残されていくこと、そして里地調査をつないでいくことは容易なことではないと日々実感します。それでも、今回の発表を通し、そして漆の里山の風景を目に焼き付けながら、皆さんとそして未来の担い手となる方々と、これからも一緒に考え前に進みながら頑張っていきたいと思います。
▲春の漆の里山