2022年も「皇居外苑におけるアメリカザリガニ防除事業」を実施しました
日本自然保護協会(以下、NACS-J)は2021年に続き、環境省がすすめているアメリカザリガニ対策の手引の作成と課題整理のため行った、アメリカザリガニ防除事業に協力し、2022年度も皇居外苑・北の丸公園において捕獲調査を実施しました。
2022年5月、特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(以下、外来生物法)の改正が国会で成立・公布しました。アメリカザリガニやアカミミガメのように生態系へ大きな影響を与えている一方で、広く家庭で飼われているような外来生物の扱いに関する規制の枠組みが追加されたのです。
具体的には、捕獲や飼育は認めつつ、輸入・自然への放出・販売・販売目的の飼育や譲渡等が禁止できるようになります。一律に飼育を禁止してしまうと野外への放流されてしまう危険もあり、それを避けるため段階的な処置がとられました。2023年6月から、アカミミガメとともに「条件付特定外来生物」として指定され規制がはじまります。
そんな外来生物問題において注目を浴びているアメリカザリガニ。皇居外苑の北の丸池における低密度管理、および普及啓発、今後の管理に向けた基礎情報収集のため2021年に続き、2022年も捕獲調査を実施しました。
捕獲調査における2021年との大きな変更点は2つ。1つは罠の種類を追加し「しば漬け」も使用したことです。この罠はアナゴカゴ・連続捕獲装置では捕獲しづらい幼体の捕獲を目的とします。
もう1つの変更点は北の丸池上流への罠の設置を積極的に行ったことです。上流部分は堰で段差になっているため、アメリカザリガニを捕食するコイなどが生息しておらず、アメリカザリガニが多く生息していると予想しました。
新たに追加した罠の「しば漬け」
今回はアナゴカゴ11基、連続捕獲装置4基、しば漬け4基、合計で19基の罠を活用します。罠の設置箇所及び罠の種類は「図1:設置マップ」の通りです。また、北の丸池をエリア分けし、捕獲状況を見ていくことで今後の管理に向けた基礎情報収集も行います。
図1:設置マップ a:連続捕獲装置、b:アナゴカゴ、c:しば漬け
緑:下池エリア、黄:中池エリア、赤:ヨシエリア、青:上流エリア
2022年6月8日~9月2日までの約3か月間で8回の捕獲調査を実施。調査期間中で合計704匹のアメリカザリガニを捕獲・駆除しました。北の丸池において、しば漬けでの捕獲が想定より上手くいかず、連続捕獲装置での捕獲が最も効率的な結果となりました。エリア別で見ると上流エリアの捕獲数が多く、最も捕獲数の多かったところでは1か所で58匹の捕獲に成功しました。アメリカザリガニ以外の生きものは2021年と大きく変化はなく「表1:捕獲した生きもののリスト」の通りでした。
表1:捕獲した生きもののリスト
低密度管理に向けて、今回は「アメリカザリガニの捕獲数/罠の設置日数」を単位漁獲努力量当り漁獲量(CPUE)の値として参考にしました。簡単にいうと罠の設置期間中に、1日あたり何匹のアメリカザリガニが捕獲できたかを算出して傾向を見ていくというものです。値が小さい状態を維持しつつづけると、低密度化に成功と言えます。結果は調査日によって数値に偏りがあるため、低密度管理が達成できたとは言い難いものとなりました。緩やかな減少傾向が見られたため、今後も低密度を目指し捕獲・駆除の取り組みを継続していくこと重要です。
この調査の経験を、「北の丸公園アメリカザリガニ駆除作業手順書」にまとめ、北の丸公園の管理者に引き継ぎました。
図2:エリアごとのCPUE値の推移
北の丸公園は幅広い層の方々が来園します。そのため、普及啓発としては来園者の目に留まるようポスター等の掲示を行いました。ポスターとして活用したのは環境省が提供している普及ツール(詳細はwebページ下部に掲載)。基本的なアメリカザリガニによる生態系への影響を知ってもらうことを狙いました。また、調査中も来園者に声をかけてもらうことがあり、直接アメリカザリガニについて伝えることもできました。
外来生物は、生物多様性の保全において取り組まなければならない課題の一つです。中でもアメリカザリガニをはじめとする身近な外来生物への対応は多くの方の協力が必要不可欠です。生きものの関わり合いや私たちの生活とのつながりが見えることで意識が変わってくることと思います。ぜひ一度、身の回りに潜む外来生物について学んでみてはいかがでしょうか。
【自然のちから推進部 原田和樹、保護・教育部 大野正人】
ご参考
※環境省「日本の外来種対策」アメリカザリガニ(2023年1月20日更新)
https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/attention/amezari.html
イラストレーター:ウラケンさんによる普及啓発ツールも掲載されています。
※NACS-Jの「外来生物対策のあり方検討会で法改正に向けた課題整理と提言」
https://www.nacsj.or.jp/archive/2021/09/12377/