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川辺川の流水型ダムに関する環境影響評価方法レポートについて環境保全の見地から意見書を提出しました

2022.12.23
要望・声明

川辺川の流水型ダム建設計画において、環境影響評価法の方法書に相当する「川辺川の流水型ダムに関する環境影響評価方法レポート」が出されました。NACS-Jはこの方法レポートに対して、流水型ダムであっても環境への影響は多く懸念され、ダムの具体的な構造や運用方法が未だに明確にされずに環境影響評価をすすめていることを危惧し、国土交通省九州地方整備局へ意見書を提出しました。

川辺川の流水型ダムに関する環境影響評価方法レポートに対する環境保全の見地からの意見書(332KB/PDF)


2022(令和4)年12月23日

国土交通省九州地方整備局長藤巻浩之様
公益財団法人日本自然保護協会
理事長亀山章

川辺川の流水型ダムに関する環境影響評価方法レポートに対する環境保全の見地からの意見書

川辺川の流水型ダムに関する環境影響評価方法レポートについて、環境保全の見地から次の通り意見を述べます。

意見1:流水型ダムの具体的な構造や運用方法が掲載されていない

環境大臣、国土交通大臣、熊本県知事からの意見で「方法レポート(仮称)以降において、ダムの放流設備等の構造、試験湛水方法、ダムの運用方法等の具体的な計画」が求められている。また、日本自然保護協会が要望した原石山の位置と規模については掲載されているが、河床部放流整備の形状や長さ、洪水吐きの位置や個数など具体的な計画は、方法レポートではまったく示されていない。これでは事業の計画が不明確なまま環境影響評価の手続きをすすめることとなり、調査や予測、評価の方法の妥当性が十分に検証できず、環境影響評価の方法書に成りえていない。事業者が設置している流水型ダム環境保全対策検討委員会の第4回(令和4年8月24日、資料2-2)では、検討例として複数の放流設備や減勢工の配置、形状が掲載されており、現状の検討段階のものでも掲載すべきである。

意見2:調査範囲が球磨川上流域では不十分である

熊本県知事はじめ、アユへの影響を懸念する意見も多く、方法レポートでは生態系典型性の注目種としてアユが位置づけられている。しかし、自然的状況の調査範囲(図3.1-1)は球磨川の渡地点より上流の流域(球磨川上流域)とされおり、この流域範囲では不十分である。原則とされている「おおむねダム集水域3倍程度の流域面積に相当する地域」にとらわれず、アユが本来回遊性の魚であることや川と海の連続性を考慮し、球磨川下流~河口域や八代海沿岸を含めた地域を調査範囲の対象とすべきである。

意見3:流水型ダムの湛水域の環境変化が不明確である

流水型ダムのため「試験湛水の実施」が影響要因として選定され、その影響予測を評価することになっているが、肝心な試験湛水の期間やダムの運用方法について、方法レポートでは具体的に記されておらず、湛水による斜面部の植物への影響、発生する土砂の生産や移動、濁りの発生などの予測、評価の方法の妥当性が十分に検証できるものになっていない。さらに、湛水域の環境変化は、試験湛水の実施によるものだけでなく、洪水時のダムの運用によって生じるものであることから、これらも含めて影響を調査・予測・評価する必要がある。

意見4:九折瀬洞窟コウモリ類の出洞個体数調査を追加すべきである

5.2.2.3 生態系で特殊性として九折瀬洞窟が対象となり、専門家からの助言(表5.2.2-3)でも「コウモリ類を頂点とした夜間の生態系を把握することが重要」と指摘されているが、調査の方法は目撃法と任意採取法としか記載されていない。5.2.2.1 動物の哺乳類の調査項目では、超音波録音調査が含まれている(5-46ページ)。九折瀬洞窟では、ユビナガコウモリやニホンコキクガシラコウモリなど洞窟性のコウモリの相当数が利用していることが市民団体の調査でも明らかになっており、貴重な洞窟内の生態系を支えているため、活動期(4~11月)に赤外線ビデオカメラ等による出洞個体数のカウント調査等を行い、個体数の把握に努めることが望ましい。

意見5:生態系上位種のクマタカの調査地点の拡大すべきである

5.2.2.3 生態系で陸域の上位種としてクマタカが対象になっており、その調査地点(図5.2.2-36)は、「調査地域は、川辺川の流水型ダム集水域及びその周辺の区域とし」(5-113ページ)とされ、川辺川の流水型ダムの集水域である調査地域のエリアにすべて収まっている。これらの地点は、クマタカの稜線を超えたときの飛翔ルートを効果的に把握できる地点とはいい難い。事業によるクマタカへの影響を評価するうえで、集水域内で生息・繁殖が確認される個体の調査だけでは不十分であり、周辺の地域に生息・繁殖する個体の行動把握とその評価をするためにも集水域外にも調査地点を拡大すべきである。

意見6:川の連続性を象徴する重要種カワネズミなどの影響について

5.2.2.1 動物で重要な種としてカワネズミ、また5.2.2.3 生態系で河川の上位種としてヤマセミ、カワセミ、カワガラスがあげられており、大きな河川構造物になる川辺川の流水型ダムが移動阻害となり各個体群の分断化による地域絶滅が懸念させるため、カワネズミも生態系の上位種として位置づけ、行動圏や採餌場の解析だけでなく、個体群の維持についても評価を行うべきである。

意見7:5.1.2. 環境影響評価の項目の選定について

降雨による貯留後、通常の流況に戻るまでの時間が方法レポートでは不明であるが、貯留期間に日照を受けての水温上昇や浮遊藻類の発生等河川水質の変化が生じ、その水域を通過する河川生物に影響を及ぼす可能性がある。水温、富栄養化、溶存酸素、水素イオン濃度については、試験湛水時のみの問題ではなく(表5.1.1-2)、濁り同様にダム供用後の影響も評価の対象とすべきである。

意見8:5.2.1.2 水環境について

専門家からの助言内容(表5.2.1-1)の指摘にあるように、濁りの時系列的な連続観測が必要である。これは濁りだけではなく、水素イオン濃度や溶存酸素についても同様である。アユ漁や他の河川利用者の懸念を払拭するためには、観測値は、観測終了後に代表値を示すだけではなく、測定値そのものを、時間を置かずに公開する工夫がされることが望ましい。
ダム工事の影響を特定するには、助言内容の通りにダム上流域の流況や水質の変化も観測する必要がある。一方、工事の影響を自然現象に転嫁する恣意的な観測方法ではないことが住民に理解されるような観測項目や時期の設定とその丁寧な説明が必要である。

意見9:5.2.1.2 水環境 特に予測の手法と評価方法について

他の水域の事例を用いて本件の予測を行う場合、環境の類似性について検討し、比較が可能との根拠を示すべきである。

意見10:5.2.1.2 水環境 特に予測の手法と評価方法について

環境要素として取り上げられている濁り、溶存酸素、水素イオン濃度等は、天候やダムの工程により短時間で著しく変動するために、自動観測機器を併用した連続観測が必要である。また、アユ等の水棲生物に及ぼす影響は、日間平均値だけではなく、最も悪化した時間帯の値も考慮して判断すべきである。

意見11:5.2.1.2 水環境 1)土砂による水の濁り

濁りについては、湖底からの巻き上げ、湛水域の斜面からの流入、及びダム事業とは関係のない増水時の流入等を区別して評価する必要がある。そのためには、浮遊物質の総量だけではなく、濁質の粒度組成や成分分析を必要に応じて実施し、濁りの起源を明らかにしなければならない。
湛水域の斜面からの土砂流入については、植生も関係するため、環境要素・植物で得られる情報も併せて評価することが望ましい。

意見12:5.2.1.2 水環境 1)土砂による水の濁り

湛水域の植物プランクトンの発生による濁りは、恐らく軽微であると思われるが、夜間の酸素不足につながる可能性があるため、富栄養化、及び溶存酸素などの環境要素と関連させて影響が判断されなければならない。

意見13:5.2.1.2 水環境 2)富栄養化

予測結果は、住民に対して精度の情報も含めて示されるべきである。使われた数値予測モデルを既に運用されているダムの事例で検証した結果は、文章や簡単な図だけなく、数値的な検証に耐えるものにしなければならない。

意見14:5.2.1.2 水環境 3)溶存酸素

アユ等の水棲生物に及ぼす酸素濃度の低下は、夜間に発生する可能性が大きい。日中の測定値や日平均値だけではなく、夜間の極小値がどの程度になるか示し、影響を評価する必要がある。

意見15:5.2.1.2 水環境 4)水素イオン濃度

水中の水素イオン濃度(pH)は、湛水域の植物プランクトンや河川付着藻類の光合成にも影響されるため、工事に伴うアルカリ分の溶出は、pHとともにアルカリ度や電気伝導度などの項目も併せて行うことにより、コンクリート使用の寄与を評価することができる。pHは気象やダムの工事の工程により、著しい日変化を示すことが予想されるため、それらの要素も併せて評価することが必要である。

意見16:5.2.2. 生物の多様性の確保及び自然環境の体系的保全
5.2.2.1 動物 3)底生動物相

河川の連続性の確保の観点から、水棲昆虫の幼虫の流下、及び成虫の遡上についてもダムによる影響がないか検証すべきである。

意見17:5.2.2. 生物の多様性の確保及び自然環境の体系的保全
5.2.2.2. 植物 2)付着藻類

アユ漁への影響を考えれば、付着藻類群集の種類組成だけではなく、現存量や生産速度の変化も視野に入れた事業評価を行うべきである。

意見18:5.2.2. 生物の多様性の確保及び自然環境の体系的保全
5.2.2.2. 植物 2)付着藻類

球磨川・川辺川合流点付近に生育する淡水産紅藻類オキチモズク(環境省絶滅危惧Ⅰ類)、チスジノリ(絶滅危惧Ⅱ類)の保存については、生息条件となる水温の変化と関連させた影響予測が必要である。

以上

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