リニア中央新幹線計画の発生土置き場予定地を視察してきました。
保護室の辻村です。
リニア中央新幹線計画で唯一場所が公開されている静岡県の南アルプス山中の現場視察を10月14日、15日にしてきました。今回は、リニア静岡県民ネットさん主催の視察会で、他に、日本共産党の国会議員(衆議院議員の島津幸広氏、本村伸子氏、参議院議員の辰巳孝太郎氏)、日本野鳥の会の葉山政治氏も同行されました。
初日は、二軒小屋から上流にさかのぼり、西俣の非常口予定地を目指しました。ここから導水管で水を下流に流す計画もあるため、現地の状況を確認することが目的でした。ところが、途中の仮設の橋梁が流されており(写真1)、そこより上流には到達できませんでした。
▲写真1 壊れた仮設橋
橋梁の破損状況や周囲の植生の状況から、土石流のような規模の大きな異常出水で破壊されたというより、毎年来る台風の時の大雨で攻撃側斜面に流木を伴う増水があり破壊されたことが想定されます。現地ではおそらく頻繁に起こりうる規模の増水ではないかと思われます。この日は行程を変更して二軒小屋に泊まり、参加者による意見交換を行いました。
辻村からは、周辺での地滑りや崩壊地の分布図を示しながら、発生土置き場や宿舎予定地などの不安定性が予測できることをお伝えしました。そして2日目に、最大の発生土置き場予定地(燕沢付近)を視察しました。写真2は、発生土置き場の対岸斜面です。谷筋にそって土砂が流出して崖錐を形成していますので危険ではないかと感じる方も多いかと思います。
▲写真2 発生土置き場の対岸斜面
地滑り分布図を見ると、植生のある斜面を含めた全体が、移動体(斜面下方にむかって移動している)として分類されていますので、深層崩壊のような大規模崩壊が起きる可能性の高い場所になっています。つまり、見た目よりもっと危険である場所です。発生土置き場は手前側に高さ50m、長さ1kmに及びます。想像を超える大きさです。
この場所で大規模崩壊が起きると必然的に河床を埋めてしまうので、河川の閉塞がおき、天然ダムが形成されるでしょう。そしてそれが決壊すれば、発生土置き場におかれた残土とともに下流に一気に流下して、下流のダムに襲いかかることになりますので、ダムが耐えられるかはわかりません。
この場所自体は深い山の中ですし、下流には点々とダムがありますので、すぐに集落に到達して災害になることはありませんが、資材運搬に使う道路は完全に使えなくなります。そして、その復旧という事で新たな道路建設という流れになるのは容易に想像できますし、その際の自然破壊の規模は、現状の道路整備より大きいものになります。さらに災害復旧となれば、環境影響評価は実施されません。人間の工事によってもたらされる土砂が、下流の環境変化を増長させ、さらに環境への影響評価もなく自然破壊が加速される事態になることはやはり看過できません。
JR東海は、現状の崩壊地のみを評価して、危険は少ないとしていますが、今後起きうる最大の崩壊を予測し、その際の土砂の発生量を評価したうえで、今回の残土置き場計画が妥当かどうか、自然環境への影響が最小なのかどうかを早急に評価するべきで、その評価のないまま事業が進むことは絶対にやめなければならないと思います。
写真3は二軒小屋の上流にあるダムで撮影した写真です。湖面に紅葉の斜面が映りとてもきれいです。こうした風景が、今回のリニア新幹線工事で失われます。一度失われた風景は二度と取り戻すことはできませんので、後世に引き継ぐべきものは何か、我々一人一人がしっかりと考えることが重要だと思います。
▲写真3 逆さ紅葉