ススキ草原と広葉樹林の再生を目ざす上山高原。
保護室の志村です。
11月12、13日、兵庫県の「上山(うえやま)高原」に行ってきました。
とてもよい天気に恵まれ、兵庫県の中では北に位置するこの高原に立つと、美しい山並みとススキ草原の向こうに、日本海まで見渡すことができました。
▲上山高原エコミュージアム代表理事・小畑和之さんに、かつての草原のようすや地域のみなさんのくらしのようすをうかがいました。日本海まで見渡せる絶景の上山高原にて。
この上山高原では、かつて広がっていたススキ草原の再生と広葉樹林の再生を目ざして、野焼きや放牧、スギなどの人工林の樹種転換などが行われています。
かつては、ふもとの集落の方々が牛を放牧するために集まってきた入会地で、家の手伝いで牛を連れて集まって来たこどもたちが相撲をとって遊んだりしたという大切な原風景、地域の自慢の風景であったのだそうです。しかし、牛を飼う家が減り、入会地が県有地になったことなどから草原は姿を変え始めました。
そこで、かつての草原を取り戻そうという取り組みが行われているのです。
▲かつては牛と人が、通っていた道。
ここを訪れた目的は、自然再生専門家会議への出席です。
この会議は、自然再生推進法に基づいて設置されています。自然再生推進法は、名前のとおり、”損なわれた生態系その他の自然環境を取り戻す”ことを目的とした法律です。法律は、どこの官庁が担当するかが決まっていますが、この法律は、環境省、農林水産省、国土交通省の三省が協力して進めている、ちょっと変わった法律です。
自然再生には多様な主体が協働して進めることが重要という考えの法律なので、実施するにあたっては地域に設置された協議会での議論や実行を重視しており、今回は、「上山高原自然再生協議会」の計画変更にあたって、ここで会議が開催され、計画へのアドバイス等がおこなわれました。動植物の専門家だけでなく自然保護NGOも委員として参加しているところも、多様な主体の協働を具現化しようというこの会議のユニークなところといえます。
「上山高原自然再生協議会」は、NPO法人上山高原エコミュージアムと研究者と県の方が中心になってとてもバランスよく運営されているように感じました。
エコミュージアム活動のスタートは2001年(平成13年)。この間、草刈や放牧、火入れなどもいろいろと工夫され、高齢化する地域の中でどのような手法が、植物の再生に効果的かなど試行錯誤を重ねてこられたそうです。偏りのない植生の再生や、労力などのバランスからすると、もう少し火入れをする面積を増やしたいのだけれど、水源涵養保安林の指定も受けているため難しいといった悩みもあるそうですが、来年は、上山高原で全国草原サミットを開催するのだと、皆さんがとても楽しみにしておられました。外来生物の侵入も少なく、自然再生と共にそこからの豊かな生態系サービスも感じられるフィールドなので、ぜひ多くの方に見ていただきたいと思いました。
このエリアに生息しているイヌワシは、久しく繁殖が記録されていないとのことでしたが、草原の再生とともにイヌワシにとってもよりよい環境になっていくことを期待したいと思います。
▲植生の回復状況や、手入れによってどのように再生状況が変わってくるかなどを解説してくださった神戸大学名誉教授・武田義明先生
▲自然再生専門家会議委員長の鷲谷いづみ先生。