絞り込み検索

nacsj

自然をしらべ、自然を活かす地域づくり:全国里やま市民活動フォーラムを開催しました(前編)

2015.12.18
活動報告

icon_goto.jpg こんにちは、市民活動推進室の後藤ななです。

12月12日に、新潟県長岡市で、全国里やま市民活動フォーラム「自然をしらべ、自然を活かす地域づくり」を開催しました。

201512nagaokakoryukai1.JPG

里やまは、古くから人と自然が深く関わり合い形成された環境です。しかし、近年、人々の生活スタイルとともに、里やまは生活の場から大きく変容してきています。

NACS-Jでは、里やまの保全を推し進めるために市民による自然モニタリング調査の手法の開発と普及を手掛けてきました。2004年からは、環境省プロジェクトであるモニタリングサイト1000里地調査(以下、里地調査)の事務局を担い、全国約200カ所の調査サイトで、各地の市民調査員の皆さんが主体となった自然環境モニタリング調査を運営しています。

里地調査は開始から10年の月日が経ち、全国の調査サイトでは、自然環境調査に加えて多様な活動を展開しているところが数多く存在しています。

年に一度、里地調査では全国の調査サイトに向けた交流会を毎年開催しているのですが、今回はそれをさらに発展させて、広く一般の方に各地の事例を紹介し、市民による里やまの保全活動をもっと盛り上げるべく、このフォーラムを開催しました。

基調講演「地域の自然を活かしたまちづくり」

フォーラムの午前中には講演会を開催しました。

基調講演では、広島県北広島町の芸北 高原の自然館から白川勝信さんにお越しいただき「地域の自然を活かしたまちづくり」というタイトルで発表いただきました。

北広島町は広島県の約8 %の面積を占めるほどの広大な面積に人口約2万人が住み、都心部から2時間ほどかかる中山間地です。白川さんはそこで自然館というフィールドミュージアムで学芸員をされています。博物館は「資料」を収集・保管・発信するのに対し、フィールドミュージアムは「地域」の魅力や価値を丸ごとあつめ、“地域を保全し活かす”取り組みも役割の一つに掲げられています。

201512nagaokakoryukai2.jpg

“地域の保全”と一言で表しても、何をもって保全とするか、どう取り組むべきか難しいものです。白川さんは、「後戻りができるものか」「地域の暮らしに寄り添っているか」「土地の歴史と合致しているか」「地域の生き物にやさしいか」「美しいか」といった、おおまかな方針を掲げて取り組まれているそうです。そうした方針で、町の現状を知るために地域の生物相調査にも取り組まれました。

この発表のなかでとても印象に残ったのが「モニタリングは壮大な看取りをしているのではないか」というものでした。調査をすることは地域の現状を知るうえで非常に大切であり、このフォーラムも調査を基本にした市民活動を発信する場としています。しかし、モニタリングだけをしていても里やまを後世に残していくことはできない、と痛感させられる言葉でした。

その問いに対して、さらに白川さんの発表では、里やまを現代で活かしていくために北広島町で取り組まれる「芸北せどやま再生プロジェクト」についてご紹介いただきました(「せどやま」:この地域での里やまの呼び名)。かつて、里やまは私たちの生活に様々なものを提供してくれる場でした。しかし現在は、放棄された里やまの管理のためにボランティアによる労力や、公的な資金を注入している状態です。資本を“いただく”場だった里やまが、“奪われる”場になってしまっている、この流れを変えなければとはじめたプロジェクトです。

せどやま再生プロジェクトでは、町にある広葉樹を木材市場で取り扱える仕組みを作り、木材から出来た薪を町の人たちが使える仕組みを作っています。小さな取り組みと思えるかもしれませんが、裏山を持っている地主のおじいさんや薪ストーブを持つピザ屋さん、小学生と、誰もが参加できる小さな仕組みを沢山つくることで着実に町のなかでは里やまが再び資源を“いただく”場となってきています。

発表のあとにも会場からも多くの質問があり、“里やま”を地域の歴史・文化に寄り添う形で今の生活のスタイルの中で活かすことへの関心の高さが伺えました。

各地域の事例

基調講演のあとには、里地調査を実施されている2つの調査サイトより、自然を知り、守ることを商品のブランドや地域づくりに活かす事例を発表いただきました。

一つ目には、地元・長岡の団体でもある公益財団法人こしじ水と緑の会の西山拓さんより発表をしていただきました。

こしじ水と緑の会は、地元・長岡(旧・越路町)の酒造会社である朝日酒造が立ち上げた団体です。お酒をつくるために良い水とお米が必要ということと、会社の蔵敷地内にゲンジボタルの生息地があったことをきっかけに、ホタルを守る活動をスタートさせました。

201512nagaokakoryukai3.jpg

集落にとってあたり前にいるホタルを保全することに対して地元の人たちに率先して参加してもらうために、朝日酒造では主に資金的な援助のみに徹し、地元が主体となる体制づくりを心掛けてきました。いまや、地元小学生がホタルの観察からわかったことを発表会でお披露目するようにもなり、地元の人たちにとってもホタルが町の大切なシンボルであることが共有されています。朝日酒造の会社の裏手すぐにある越路丘陵は里地調査サイトとして、新潟県自然観察指導員の会のみなさんが調査をされています。

次に、まるやま組の萩野ゆきさんに「人と人を結び、土地に根ざした学びの場をつくる」というタイトルで発表いただきました。

まるやま組は、石川県の能登半島輪島市にある小さな集落で里地調査として植物やホタル、カエル類の調査をされています。

日ごろの植物相調査では、金沢大学の伊藤浩二先生が植物の解説をするだけではなく、地元集落のおばあさんが「この植物の実はこうして食べる」など多方向からの知恵の共有をされています。

201512nagaokakoryukai4.jpg

また、まるやま組では、集落の伝統的な田んぼの神様を祀る神事と生物多様性モニタリングを合わせて、一年間に確認された生物多様性に対して感謝をするというユニークな行事もされています。地元の方、研究者、農家さんなど多様な方が活動に参加し、生物多様性を人それぞれに感じ共有する場づくりを進めています。

今回の講演会では、里やまの市民による調査活動を基盤としつつ、地域の自然を知り、そこから多様な活動を展開して保全・地域づくりへと進めている各地の事例をご紹介いただきました。

里地調査でも全国での調査体制が整い、各地でのデータの活用ももちろんのこと、調査活動・保全活動そのものが地域を盛り上げるきっかけとなっている事例を多く聞きます。

これからも、こうした市民活動を盛り上げていき、里やまの自然環境とそこで暮らす人たちの営みを未来につなげていきたいと改めて強く思う場となりました。

全国里やま市民活動フォーラムは後編(午後のポスター発表会)に続きます。

前のページに戻る

あなたの支援が必要です!

×

NACS-J(ナックスジェイ・日本自然保護協会)は、寄付に基づく支援により活動している団体です。

継続寄付

寄付をする
(今回のみ支援)

月々1000円のご支援で、自然保護に関する普及啓発を広げることができます。

寄付する